封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

鶴井こう

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86 魔王、歓喜する

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空から落下していった魔王は、そのまま風に乗って瘴気で満ちた空間の中へと入っていった。

魔界。その入り口に着地する。うっそうとした森の中だ。瘴気の中でしか生きられない植物や魔獣の巣窟になっている。

「さて。下僕どもが近隣の人間の町に到着するまでまだ日数がかかる」

人間の部下は移動手段が限られているのでもう少し到着が遅れるだろう。魔王は魔界の森の中を歩き始める。

「それまでに五百年前の魔界がどのようになったかこの目で確かめてやろう」

どうせ歩いていれば野盗にでも会うだろう。捕まえて状況を聞き出すか。

思っていたら、近くの集落までついてしまった。

「なんだと……?」

ここまで野盗なし。魔王にとっては信じられない事実だった。

「ううむ、しかし平和になったな。我が魔王として君臨していたころは一人でいれば即身ぐるみはがされて臓器取られて殺されたりしていたところだが」

むしろ野盗がいてくれたほうが手っ取り早かったとさえ思う。仕方なく魔王は集落の中へと入っていく。

「いや、しかもここは、集落ではない……?」

もっと大きな人間どもが集まる大規模な「町」のように見えた。

治安が悪すぎてこのような大規模な町など形成できなかった魔界だが、今はそうではないらしい。

「平和か……」

殺し、殺され、貧困にあえぎ、十分な食料や土地を求めて人間の世界へ攻め込んでいた時代はもうない。

しかし人間の世界に魔族などはいなかったように思える。人間の土地や資源を奪わなくてもどうにかできる術を見つけたのだろうか。

「で、あれば、我が父上の遺志を継いで蜂起する必要はもともとなかったのか……」

父は人間の国へと攻め込む準備を進めていたときに死んだ。
すでに父よりも強大な力を持っていた魔王は、父の意志を尊重し、恵まれない土地と治安の悪さでじりじりと滅んでいくしかない魔族の代表として人間たちを相手に戦を始めた。

侵略なしでここまで豊かになるとは、思ってもいなかった。

少しもの悲しさを感じるが……これでよかったのかもしれない。

思いながら活気のある町を歩いていると、スラム街のような場所が見つかった。

「ふうむ、このへんも人間の町に似ているな……」

わざと人目につかない路地を選んで歩いていると、

「お嬢ちゃん、こんなところで一人かい?」

「お金と臓器、少し分けてくれねえか?」

ようやく拷問して情報を引き出してもいい連中に巡り合えた。魔族……数は四。

「やはり我は、こちらの方がしっくりくるな」

魔王は口元をほころばせ、

「準備運動代わりだ。簡単に死んでくれるなよ」

一体目にすかさず《魔弾》を撃ち込んだ。
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