封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

鶴井こう

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81 暁の兄弟団、その末路

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ライジングは雇った盗賊たちを放置し、暁の兄弟団だけで闘技場を後にしようとしていた。

「くそっ、あいつ! あのトントンとかいう野郎! あれが出て来なければ、ガゼットも仕留められたし、エアリアルも手に入ったのに!」

凍傷の足を引きずりながら、ライジングは悪態をついた。

「負け戦では素直に素早く退くことも優れた将の特徴。さすがだなライジング殿」

付き添っていた老翁――《剣客》レインシードが諭すように言う。

「お前は何をしていたんだ! 加勢に来れば少しは戦況は違ったかもしれないのに! せっかく雇ってやったのに役に立たないな、ゴミみたいな老人が!」

「俺ぁ、ずっと《精霊剣使い》フューエルを相手していた。あんたらの決戦の場に行かねえようフューエルを押さえていたんだ。あいつの精霊剣は対集団で効果を発揮する。全滅もありえた。だがフューエルは今は傷でその場を動けねえ。俺が相手していたおかげだ。まあ俺も相応の傷を負っちまったがな」

「露払いにもなりゃしないんだよ! そんなんじゃ!」

ライジングは口八丁でかわすレインシードに舌打ちをした。

「絶対に、このままでいられるか。今度はさらなる集団と技術で、トントンを殺してやる」

――と、闘技場を出てすぐ、正面に一人の少女が立っていた。

まるで逃走中の暁の兄弟団に立ちはだかるようにして、仁王立ちしている。

「!?」

「このままではいられない。なるほど、貴様の言うことはもっともだ、ライジングとやら」

先ほどいた、トントンが連れていた少女だった。名前は、たしかウルカ。

ウルカは少女の見た目に似合わない邪悪な笑みを浮かべて、暁の兄弟団と対峙しようとしている。

「我もそう思う。ただで撤退する気はさらさらない」

「トントンの仲間だ、ちょうどいい。殺せ!」

ライジングは暁の兄弟団に命令する。

「おっと、こいつぁ……まずいな」

事の剣呑さを長年の山勘で察したらしいレインシードが顔をしかめ、足を止めた。

「『相手は少女一人』『取るに足らぬ』『憂さ晴らしに最適』――そうであろう、そうであろうよ」

「いけ!《フィクシング》――」

瞬間、とてつもない魔力をはらんだ炎が、暁の兄弟団へとほとばしった。
炎は一瞬でフィクシングアンカーを燃やし尽くす。

「蚊を払うのと労力はそれほど変わらんなぁ。その『なんちゃらアンカー』というのは」

地面が溶けて変形している。その熱をすぐそばでひりひりと感じた暁の兄弟団の構成員たちの一部は、しりもちをついて恐慌状態に陥った。

「少女一人に圧倒される気分はどうだ? 有象無象が集まったところで塵と同じだ。もう一度言うぞ。有象無象がいくら集まったところで、圧倒的な力の前では塵も同然。結果が覆ることはない。悲しいがそれが現実よ」

忠告のためにあえて直撃を避けて魔法を放った。

暁の兄弟団の足が完全に止まっていた。すでに半分以上が戦意を失っている。
そして悟った。この少女は、自分たちの命を奪いに来ていて、いつでも、赤子の手をひねるように、簡単にそれができる。

「ライジングよ、これだけの騒ぎを起こしておいて、何の罰も受けずに帰れると思ったか? 何、簡単なことだ。我に命と金を預ければよい。破産して我の奴隷になれ。そうすればすべて丸く収まるうえに平和的だ」

魔王ことウルカは《魔弾》を放つ。魔弾は暁の兄弟団の背後にある闘技場に直撃し、容易に命中個所を粉砕させた。

「いや、もっと早くに逃げりゃあよかったぜ」

めずらしく額に汗を浮かべたレインシードが、剣を地面に置き諸手を上げて呟いた。

ライジングの顔が青ざめていた。

少女から殺気が放たれている。いままで浴びたことのないような強烈な殺気で、その場にいた全員に悪寒が走っていた。

レインシードやライジングはもちろんのこと、暁の兄弟団の構成員たちは一人一人がそれぞれ一定のレベル以上を持つ手練れたちだ。
だからこそ、目の前の少女が常軌を逸した脅威であることを理解していた。《剣帝》ガゼットにもトントンにも感じたことがないような、一瞬で自分たちを吞み込めるあまりに強大な悪の気配。

次は自分たちだ。暁の兄弟団の構成員たちは、一人の例外もなくそう思った。

「我がもとで生きよ、暁の兄弟団よ。でなければ、死ねい」

数発の《魔弾》を受けて、闘技場が崩壊しかけている。

戦意を完全に失ったライジングが、絶望的な表情のままその場に力なくひざをついた。
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