封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

鶴井こう

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俺も魔王もガゼットも、それにライジングらも全員、相手の出方を窺っているのか動こうとしない。

ガゼットは『デクレッシェンド』の能力さえ使っていない。

周りには、魔法で盗賊に応戦しているスタッフもいる。範囲内の魔力を徐々に奪う『デクレッシェンド』はおいそれと使えないのだ。
こいつは、ちゃんと周りを見て行動している。しかしだからこそ、本気が出せずにいる。

「お前がまともでよかったぞガゼット。提案だが、共闘しないか?」

「ふん……すべてお見通しか」

「主催者が死んだ以上、大会は中止だろう。もともと盗賊が不当に手に入れた賞品、エアリアルはかわいそうだから解放してやろうではないか。どうせ賞金もきれいな金じゃあるまいよ。ライジングはお前がおいそれと『デクレッシェンド』の真価を使えないことを利用して仕掛けてきている。そこで俺と一緒にライジングを排除すればお互いの益になるわけだ」

「俺もエアリアルが欲しかったんだが……まあよかろう。ここを切り抜けるためだ。エアリアルは解放する」

「ガゼットはウルカを止めておいてくれ。俺がライジングたちを相手する」

「いけるのか? 奴らは――」

こちらが話し合っているのを見てとって、ライジングたちは俺とガゼットに向けて手下たちを放つ。全員《フィクシングアンカー》を使っている。

「集団戦の優位性は、これだ! 全員、決勝トーナメントまで進んだ僕と同じ装備で、同じ能力を有している! それを僕の統率で、意のままにけしかけられる!」

ライジングはかなり激情的になっていた。
試合中は自分のことを「私」と気取っていたが――こちらが本性か。

「個の力など、この集団での《フィクシングアンカー》ですべて止められる! 集団戦を極めれば、霊域持ちの精霊さえ屈服させることができるんだよ!」

「『マグナフォール』」

俺は氷の精霊剣を召喚すると――

「ウルカに《獄炎》を使わせないでくれ。たのむぞガゼット!」

ライジングら暁の兄弟団の足元を《フィクシングアンカー》ごと瞬時に凍り付かせた。

「なんだと!?」

俺はそのままライジングの懐に飛び込み、ライジングの首筋にマグナフォールを突き付ける。

「お前の言うことはもっともだ。しかし個人の力は時として集団の力を凌駕する。局地的な場面では特に顕著にな」

「……お前、一体何をした!? なんなんだ、その強さは! トーナメントのときとは全然――」

「本気を出していないわけではなかった。ただ隠し玉があっただけだ。では渡してもらおうか」

俺は首筋に突き付けたマグナフォールの刃をゆっくりと沈めていく。

「エアリアルの檻の鍵をな」

エアリアルを閉じ込めている檻の鍵は――ライジングが手にしているはずだ。主催者を殺したときに奪っている。
ぷつんと表皮が割け、ライジングの首から血が滴る。

「あの精霊は自分の命より大事なのか? 無抵抗な敵の首を跳ねるくらいのこと、俺はためらわんぞ」

「早くしろトントン! この少女、とてつもなく強い――!」

ガゼットは魔王と奮闘している。大剣で魔王の魔法を止めているところから、ガゼットの戦闘力の高さが窺えた。

「わかった、渡す! 渡すよ! その代わり」

「ああ、命は助ける。エアリアルを解放した後でな」

ライジングから鍵代わりのマナ・クォーツを受け取り、

「ガゼット、あともう少し頼む」

エアリアルが閉じ込められている檻へ。

「開けるなら早くしろトントン! 抑えきれんぞ!」

「させるかあああ!」

魔王が俺に魔弾を放つ。俺はそれをよけ、エアリアルの檻をマナ・クォーツを使って開いた。

「馬鹿が! やっと来たぞ、僕たちの飛空艇が!」

ライジングが叫ぶ。
上空を見ると、人造らしき翼の付いた巨大な飛行体が接近していた。どうやらこの巨大な空飛ぶ物体はライジングたちの兵器らしい。

「高出力の《魔弾》だ! 精霊もろともくらえ!」

巨大な飛行体から魔弾の嵐が発射される。
ライジングはこれを待っていたのか。自分たちは《障壁》で防御している。

霊域テンペストフロートの宙に浮く岩山を破壊し尽くした《魔弾》はこれのことだろう。

「ちいっ!」

一手遅れた俺は、精霊ごと自分に直撃しようとする魔弾を見据え――

「――――!」

瞬間、空の上に降り立っていた。
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