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79《フォールディング・エア》

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霊域への召喚だ。といっても、テンペストフロートは影も形もなくなっている。闘技場のすぐ上空であった。

「ありがとよ、トントン」

子犬のようだったエアリアルは、巨大な狼の姿になっていた。これがもともとの姿である。

「いやあ、やっと解放された」

「苦労したぞ」

「おかげで力が戻って来た」

「ならば」

「ああ、いける。すでに力は解放した」

「もう捕まるんじゃないぞ。スノーフォールは『自己責任』と言っていたからな」

「わ、わかっている。……で質問だが」

「?」

「美女に好かれるなら子犬の姿か狼の姿かどっちがいいと思う? 悩んでるんだが」

「知らん。なんだ藪から棒に。どっちでも好きな方でよかろう」

答えたら、エアリアルはしゅんとこうべを垂れた。

「そうか。……戻すぞ」

「ああ、頼む」

どうでもいいことを気にするやつだな。

――空中に突風が吹きすさんだと思ったら、俺は闘技場内に戻っていた。

「トントン!」

ガゼットが叫び――魔弾の雨が俺に直撃する直前、圧縮された風の壁が、俺の前に現れた。

「何っ!?」

風の壁は魔弾の直撃を防いでかき消す。

《フォールディング・エア》――俺は第三の精霊剣を召喚していた。

「……ギリギリ間に合ったか。しかしエアリアルも油断が過ぎるな。この程度の《魔弾》に霊域が破壊されるなど」

俺は、鈍い空色の籠手を両手につけていた。
手の甲にはダガー型の精霊剣が一本ずつ収められている。籠手が鞘代わりになっているのだ。ダガー型の精霊剣と籠手型の鞘。一対で一振りの精霊剣《フォールディング・エア》、それは鞘から抜いて使う氷の精霊剣《マグナフォール》と違い、籠手からダガーを抜かずとも能力を行使できる。

「ぬうっ!? 三本目の精霊剣か!?」

今度は魔王が矢継ぎ早に魔弾を放つも、風の壁にすべて防がれる。

強風が吹いていた。世界の空に散らばっていたらしい風の魔力が、エアリアルに向かって戻っていっているのを感じる。

「言っておくがこっちだって好きでつかまっていたわけじゃない。一瞬の油断ってやつだ」

巨大な狼となったエアリアルはばつが悪そうに言った。

「スノーフォールが言っていたように自業自得だな」

「ぐぬぬ」

「エアリアル、今のうちに逃げろ」

「――ああ、そうさせてもらう」

エアリアルは空を疾走し、天高く昇って姿を消した。

「ぬうっ!? この魔力は――」

魔王が苦い顔をする。魔王の魔弾を防げるということは、魔王の魔力より一歩先んじたということだろう。

盗賊たちが援護に駆け付け、俺に襲い掛かるが、風ですべて防ぐ。

俺はさらに《マグナフォール》を召喚。

フォールディング・エアの神髄は、防御と……ほかの精霊剣との組み合わせにある。

フォールディング・エアで風を起こし、マグナフォールの冷気を闘技場中に運ぶ。吹雪のように吹きすさぶ魔法は、観客たちを保護し盗賊たちを次々凍結させていく。

空を飛んでいた飛空艇は凍り付いて制御不能となり墜落していく。

「精霊は逃げるし、らちが明かんな、これでは。――いったん退かせてもらう!」

防御ではこちらが勝ったが、攻撃ではまだ魔王有利か。魔王は自分の周囲に展開した《獄炎》で吹雪をかき消していた。

魔王は《獄炎》の結界を貼りながら後退していく。脅威は、ひとまず去ったか。

「ま、ガゼットよ、来年はお前自ら大会を主催してもよいのではないか?」

俺は精霊剣をしまいガゼットに告げた。

魔王の戦意がなくなったことを察したガゼットは、脱力して剣をしまう。

「それはそれでよいかもしれんな。その時はお前にも出場してもらうぞトントン」

「俺はもう勘弁してくれ。目的のエアリアルはもう解放した。出る理由がない」

「残念だな」

盗賊たちの動きは止めたままで、ライジングたち暁の兄弟団の凍結を解く。

「どこへなりとも行け」

「くっ……撤退だ!」

暁の兄弟団は凍結でダメージのある足を引きずりながら逃げていき、俺たちの前から姿を消した。

「終わったようだな」

《竜殺し》ゼビカが俺たちの前に来た。

「ああ、終わった」

……まあ、フューエルとレインシードがまだ戦っているだろうが、暁の兄弟団が敗走した今レインシードもいいタイミングで切り上げて帰るだろう。レインシードはプロだ。引き際も心得ている。

「エアリアルは無事に取り戻せたか」

ゼビカに聞かれ、俺は頷いた。

「うむ。目的は達した」

「ならよかった。フォールディング・エアも無事に使えるようになったようだな」

「……なぜお前がそのことを知っている?」

遠くで見ていたとしても俺の精霊剣がフォールディング・エアという名前であることは知らないはずだ。
やはり何者だ、こいつ。
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