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72 《デクレッシェンド》
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会場中が歓声に包まれる。
「きたああああ!」
「《デクレッシェンド》が会場を衝いた!」
「やっとガゼット様の本気が見られる!」
対戦相手のグレンが舌打ちをし、それを見た観客が沸いた。
ガゼットが大剣を突き刺した瞬間、黒い血管のような筋が半球状に闘技場を覆い、すぐさま消えていった。目視では何も見えないが、魔力がまだ残っている。
「――うっすら魔力が闘技場内を覆っている」
観客席の間近まで広がってきた《デクレッシェンド》の魔力を感じながら言った。
「わかるのか?」
「精霊ほどわからんが、なんとなくな」
「なるほど。やっぱあんたすげえや」
「お前も精霊剣使いならわかるようになっておけ」
「修業が足らんってやつかい。お説教はいらねえよ」
「そういうつもりで言ったんじゃない。雑談だ、ただの」
闘技場内を豪炎が包み込んだ。まるで山のようにグレンを中心に渦巻く、《峯炎》の名にふさわしい炎。グレンが急に全力を出し始めたことがわかった。
「全力の魔力――一気に勝負を決めるつもりか」
熱波が観客席にまで届いている。立会人が慌てて走り、グレンの背後に避難している。
渦巻くグレンの炎が闘技場ごとガゼットを飲み込む。
が、しかしガゼットは大剣を振るって炎を散らせて防いだ。
「妙だな」
俺はつぶやいた。心なしか、グレンの《峯炎》が出した時より小さくなっているように見えたからだ。
「ここからが《デクレッシェンド》の真骨頂だ。グレンはこれをされたくないがために、速攻で勝負をつけるつもりだった」
フューエルが答える。
やや小さくなった炎でグレンはもう一度ガゼットを攻める。小さくはなっているが、それでも《峯炎》の名に恥じぬほど炎は強大で猛々しい。
「もう魔力切れになっている……わけではないよな」
ガゼットは炎を振り払う。先程より威力が低くなっている。ガゼットがいなせない理由はない。
グレンへ接近するガゼット。
拒むようなグレンの《峯炎》。さらに小さくなってきている。当然、振り払うガゼット。
後ずさりを始めるグレン。
「あれが《デクレッシェンド》だ。相手の魔力を徐々に失わせる」
とフューエルが言った。
「力を失わせる魔法――会場に突き刺したときに生まれた魔力の正体はそれか」
直接精霊を閉じ込めた特異な剣《デクレッシェンド》。その能力は、閉じ込められている精霊の力か。
「あれの前じゃ、いくら強大な魔力を持っていても時間経過でその威力がたちどころに奪われていく。魔力がゼロになったところをガゼットの大剣が質量で切り伏せるって寸法だ」
「ちゃんと調べたのか? 偉いな」
「……ふん、当たり前だ。俺だって勝ちてえんだよ」
ガゼットが距離をつめ、大剣をグレンに向かって振り下ろす。
――が、追い詰められていたと思っていたグレンの表情は嬉々としていた。
「!」
フューエルが目を丸くする。
ガゼットの大剣が弾かれたように後方へ跳ねる。いや、実際弾かれたのだ。手には何やら、棒状のものが握られていた。しかしグレンの腰の剣はまだ抜かれていない。
「グレンも前回トーナメントの決勝進出者だ。これくらいは想定のうちということか」
そうだ。対策をしているはずだ。勝てる見込みがなければ、前回ガゼットの剣を見ておいて、再び試合に出るはずがない。
いつの間にか上がっていた《峯炎》は消えていた。
グレンは、その剣身が赤く燃え盛る長剣を握っていた。
魔法の応用だ。巨大な《峯炎》を圧縮し、剣の形を成したのだ。徐々に力をそがれていく環境下でも、絶えず魔力を出し続ければ……威力を維持できる、という理屈だろう。
「《峯炎剣》――」
グレンの言葉に、ガゼットも意外そうな顔をしていた。
「これが《峯炎》の隠し玉か」
俺がつぶやくと同時、グレンはガゼットに猛攻を浴びせる。ガゼットは防ぎながら、徐々に押されていく。
「魔法使いの癖に剣術を身に着けてやがる。さすが、決勝まで上がってくるだけあるな」
「しかもなかなかいい腕をしている」
「だな。魔法込みでもすげえ」
「現代の魔法はおもしろいな。じつに多種多様で、なにより応用がいろいろ効きそうだ」
「現代って……あんた見た目よりじじいなのか? 俺らとそんなに年代離れてねえだろ。むしろグレンの方が年上に見えるぜ」
「ああ、まあ、うん。もっともだ」
「すまん、水を差したか。ゼノン視点の語りがあんたの芸だったな」
ガゼットは、少し笑っていた。ようやく骨のある使い手と出会えたことを喜んでいるかのような笑みだ。
「きたああああ!」
「《デクレッシェンド》が会場を衝いた!」
「やっとガゼット様の本気が見られる!」
対戦相手のグレンが舌打ちをし、それを見た観客が沸いた。
ガゼットが大剣を突き刺した瞬間、黒い血管のような筋が半球状に闘技場を覆い、すぐさま消えていった。目視では何も見えないが、魔力がまだ残っている。
「――うっすら魔力が闘技場内を覆っている」
観客席の間近まで広がってきた《デクレッシェンド》の魔力を感じながら言った。
「わかるのか?」
「精霊ほどわからんが、なんとなくな」
「なるほど。やっぱあんたすげえや」
「お前も精霊剣使いならわかるようになっておけ」
「修業が足らんってやつかい。お説教はいらねえよ」
「そういうつもりで言ったんじゃない。雑談だ、ただの」
闘技場内を豪炎が包み込んだ。まるで山のようにグレンを中心に渦巻く、《峯炎》の名にふさわしい炎。グレンが急に全力を出し始めたことがわかった。
「全力の魔力――一気に勝負を決めるつもりか」
熱波が観客席にまで届いている。立会人が慌てて走り、グレンの背後に避難している。
渦巻くグレンの炎が闘技場ごとガゼットを飲み込む。
が、しかしガゼットは大剣を振るって炎を散らせて防いだ。
「妙だな」
俺はつぶやいた。心なしか、グレンの《峯炎》が出した時より小さくなっているように見えたからだ。
「ここからが《デクレッシェンド》の真骨頂だ。グレンはこれをされたくないがために、速攻で勝負をつけるつもりだった」
フューエルが答える。
やや小さくなった炎でグレンはもう一度ガゼットを攻める。小さくはなっているが、それでも《峯炎》の名に恥じぬほど炎は強大で猛々しい。
「もう魔力切れになっている……わけではないよな」
ガゼットは炎を振り払う。先程より威力が低くなっている。ガゼットがいなせない理由はない。
グレンへ接近するガゼット。
拒むようなグレンの《峯炎》。さらに小さくなってきている。当然、振り払うガゼット。
後ずさりを始めるグレン。
「あれが《デクレッシェンド》だ。相手の魔力を徐々に失わせる」
とフューエルが言った。
「力を失わせる魔法――会場に突き刺したときに生まれた魔力の正体はそれか」
直接精霊を閉じ込めた特異な剣《デクレッシェンド》。その能力は、閉じ込められている精霊の力か。
「あれの前じゃ、いくら強大な魔力を持っていても時間経過でその威力がたちどころに奪われていく。魔力がゼロになったところをガゼットの大剣が質量で切り伏せるって寸法だ」
「ちゃんと調べたのか? 偉いな」
「……ふん、当たり前だ。俺だって勝ちてえんだよ」
ガゼットが距離をつめ、大剣をグレンに向かって振り下ろす。
――が、追い詰められていたと思っていたグレンの表情は嬉々としていた。
「!」
フューエルが目を丸くする。
ガゼットの大剣が弾かれたように後方へ跳ねる。いや、実際弾かれたのだ。手には何やら、棒状のものが握られていた。しかしグレンの腰の剣はまだ抜かれていない。
「グレンも前回トーナメントの決勝進出者だ。これくらいは想定のうちということか」
そうだ。対策をしているはずだ。勝てる見込みがなければ、前回ガゼットの剣を見ておいて、再び試合に出るはずがない。
いつの間にか上がっていた《峯炎》は消えていた。
グレンは、その剣身が赤く燃え盛る長剣を握っていた。
魔法の応用だ。巨大な《峯炎》を圧縮し、剣の形を成したのだ。徐々に力をそがれていく環境下でも、絶えず魔力を出し続ければ……威力を維持できる、という理屈だろう。
「《峯炎剣》――」
グレンの言葉に、ガゼットも意外そうな顔をしていた。
「これが《峯炎》の隠し玉か」
俺がつぶやくと同時、グレンはガゼットに猛攻を浴びせる。ガゼットは防ぎながら、徐々に押されていく。
「魔法使いの癖に剣術を身に着けてやがる。さすが、決勝まで上がってくるだけあるな」
「しかもなかなかいい腕をしている」
「だな。魔法込みでもすげえ」
「現代の魔法はおもしろいな。じつに多種多様で、なにより応用がいろいろ効きそうだ」
「現代って……あんた見た目よりじじいなのか? 俺らとそんなに年代離れてねえだろ。むしろグレンの方が年上に見えるぜ」
「ああ、まあ、うん。もっともだ」
「すまん、水を差したか。ゼノン視点の語りがあんたの芸だったな」
ガゼットは、少し笑っていた。ようやく骨のある使い手と出会えたことを喜んでいるかのような笑みだ。
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