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69 決勝第2試合

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試合を終えた俺が観客席に戻ると、苦い顔の魔王が立ち去ろうとしているところだった。

「ブランクのところに行くのか?」

皮肉抜きのストレートに訊ねると、魔王は頷いた。

「いかにも……せっかくの我の作戦が無為になったわ」

「残念だったな。無関係の選手を使えば俺を殺せると思ったか」

「かなわんかったがな」

「いくら強力な力を持っていても、それに相応する実力がなければ意味がない」

そうだ。俺は不意を衝いて魔法の元であるガントレットにダメージを与え、再起不能になるまで彼女の骨を砕いたが、彼女が俺の攻撃に気づいていれば……あるいは実戦の感覚がより磨かれていれば防御されていた。

――おそらく魔王であれば、防がれていた。

「自分の剣技と併せていたのは見事というほかなかったがな。よく付け焼刃であの戦い方ができたものだ」

決してブランクが弱いわけではない。彼女の剣の腕は達人の域に達しているだろう。若いのに大したものだ。

しかし幾度となく死線をくぐりぬけて研ぎ澄まされる自分の実力というのは、借り物の力では身につかないものだ。

「当たり前だ。正体を隠しながら決勝まで生き残った猛者ぞ」

「すべからくお前本人が直接挑むべきだ。年齢不問のトーナメントがあればな」

「あればな! ないわ!」

「だろうな」

「ふん、おぼえておれ! バーカ!」

「では忘れることにしよう」

「猫の毛を鼻に詰まらせて大事なカーペットの上で無残にコーヒーむせろ!」

魔王はぷんすかしながら立ち去っていく。

「……やかましいのが去ったか」

なんかよくわからん捨て台詞を聞き流し、俺は一息つく。

次は、第二試合。

《暁の魔法使い》ライジング対《竜殺し》ゼビカである。

俺は観客席で、それが始まるのを腕組しながら待つ。

「よう、おつかれさん」

試合の準備が整うのを待っていると、隣の空いた席に若い男が俺をねぎらいながら座ってきた。

《精霊剣使い》フューエルである。

「ああ、どうにか勝てた」

俺は試合場を見下ろしながらうなずいた。

「……トントン、お前も精霊剣使いだったなんてな」

「ああ、まあな」

「しかも英雄ゼノン・ウェンライトと同じ精霊剣ときた」

「《ブーステッド》のことか。そうだ。霊域森羅に棲む精霊の森羅から預かり受けた」

「あんた、マジで何者だ? よく見たらどこか英雄ゼノンの面影があるな?」

「…………」

フューエルの方を向くと、鋭い視線が飛んでいる。じつは正体は不本意ながら最初から明かしている、とは言っても信じんだろう。

「ま、いいがよ」

フューエルは肩をすくめて詮索をあきらめる。

「それより一緒に試合を見ようじゃないかフューエルよ。おそらく俺の試合より盛り上がるぞ」

「あんたの試合はそうだったろう。応援が多くついていたブランクの方があっさり負けたうえ、勝ったあんたは精霊剣出したくせに決まり手は拳だったしな。地味地味の地味で俺様の好みでもなかった。ブランクの戦い方のほうがよかったね」

「俺だってがんばったんだぞ」

「言ってろ」

そうこうしているうちに選手が入場する。

ライジングは、腰の剣のほかにマナ・クォーツを装着した杖を身に着けているが、あれが主な獲物だろう。ゼビカは長剣を手に携え、腰には短剣を差している。

二人は対峙。

「お手柔らかに」

とライジング。

「俺は本気でやるが、そちらはお手柔らかにしてくれるのか?」

ゼビカの言い分に、

「お手柔らかにしようがしまいが、どちらにしろ勝つのは僕だ」

ライジングは答える。

「ほう?」

体格のいいゼビカは、一回り小さいライジングを見下ろす。ライジングは微笑してそれを見上げていた。

「始めいッッッ!!」

立会人が号令をかけると、ライジングはすぐさま後退。ゼビカは長剣を抜いて鞘を捨てた。

魔法陣。剣の間合いの外から、ライジングは魔法を放つ。
炎が渦巻きながらゼビカを襲うも、ゼビカはそれを剣で振り払う。

距離を詰めるゼビカ。剣を振るうも、ライジングはそれを避ける。

「来ないでくれないかい? 剣は苦手なんだ」

ライジングが軽口をたたくも、ゼビカは聞き耳を持たない。

なおも攻めるゼビカ。剣の間合いで振るわれる鋭い剣閃。
たまらずにライジングは、腰のおそらくお飾りで持ってきた剣を抜いて対応。

「くっ!」

しかしゼビカの剛腕にあっさりとはじかれる剣。

ゼビカがとどめを刺そうと、

「…………!」

剣を振るおうとして、それができないことに気づく。

「なんだ?」

つぶやきながら、俺はゼビカの剣を見た。

こぶし大の黒いキューブ型の何かが四つ、空中に張り付くようにしてゼビカの剣に張り付いていた。
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