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67 魔王、満足げにうなずく
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ブランクと名乗る謎の騎士が、狭まる視界を煩わしく思ったのか、フルフェイスの兜を脱ぎ捨てた。
「あやつ、兜を取りおったか」
観客席にいた魔王は、果実のジュースを飲みながら呟いた。
兜の下に美女が隠れていたとあって、観客席は戦闘を見るのとは別の高揚に包まれていた。
魔王にはおなじみの顔である。
トントンと戦っているのは、自分が手に入れた奴隷であるフェネンだった。
ブランクという名で大会に出場させ、戦わせていたのだ。
魔王は、トントンを出し抜いて優勝をかっさらおうとしていた。あわよくばトントンを亡き者にできれば良いという考えである。
「なかなか食い下がるでないか。さて……トントンのやつ、マナ・クォーツに我の魔法が入っていることに気がついたか?」
なかなかにいい勝負をしているフェネンに、魔王は満足げだった。
……数日前、奴隷のフェネンにトーナメント参加を促したときである。
「白紙……ですか」
「うむ。まずは甲冑で本来の実力と名前、容姿を隠しながら勝ち進め。あまり相手に情報を与えさせないほうがよいからな。効果的に、相手が面食らうタイミングで、本来の実力を晒していけ」
「しかしよいのですか? 運良く対戦に当たれば、私がトントンを殺してしまうかも知れません」
フェネンは涼しげな表情で魔王に言った。
「よい」
魔王はマナ・クォーツを埋め込んだ特製の籠手に魔力を込めながら答える。
冬の町レーヴェ・カメリアにいたとき、ファンコイル商会から略奪した資産の中には、こういった装備品も多数あった。
「マナ・クォーツに我の《魔弾》と《獄炎》を十五発ずつ、《障壁》を二十発入れた。これでトントンが死ねば我が殺したも同然よ」
「そのようなこと可能なのですか? マナ・クォーツの魔法は、精霊と契約しないと使えないのでは?」
「我は自分で魔法を生み出せるからな。誰かに頼んで使えるようにしてもらっているわけではない。そのためか、魔法をマナ・クォーツに自ら込められることを発見した。契約はできんがな」
「すごいですウルカ様」
「マナ・クォーツに魔法を入れる場合は、入れる魔法と魔力によって『装弾数』が決まっているようだ。そして、使い切れば、マナ・クォーツは砕けて使えなくなる」
「使用制限ありの魔法ですか」
「そういうことだ。ま、砕けたらまたマナ・クォーツをセットしてやる」
「十分です。では、ありがたく」
「我が観客席から攻撃できればいいんだが、不正が発覚したら失格になってしまう。あくまでこういったサポートしかできん。健闘を祈るぞ」
「もし失敗すれば、私の首を切って野に晒してください」
「怖いこと言うな! もし負けたら反省会でケーキ買ってやる! ゆけい!」
そんなこんなで、今に至るのである。
兜を脱いだことで、観客の応援は一気にブランクことフェネンに傾いた。
「うおおおおっ! 俺はブランクを応援するぞ!」
「がんばれ! トントンなんかやっつけちまえ!」
「もう金を賭けられないのがつれえ!」
「結婚してくれ!」
見事に観客を味方につけている。
それを見て、魔王は満足げにうなずいた。
「いいぞ。効果的な兜の脱ぎ方だ。フェネン自身は自分の容姿までは計算に入れておらんだろうが……トントンはやりにくかろうな。じつにいいぞ」
美貌は武器になる。魔族でも人間でもそれは同じである。この大会では、剣を差していればあとはどんな武器でも使用が許されている。
トントンは、瞠目していた。じつにいい表情だ。
フェネンはそれから、肩当て、胴当て、腰当てなど身軽になるよう甲冑を脱いでいく。
女性らしいラインがあらわになり、観客のテンションはさらに上がる。
どうやら本気を出すらしい。
それを悟った魔王は口元を釣り上げ、同じく察したトントンはやや防御態勢で腰に差していた鞘を構えた。トントンの持っていた剣は、投擲されたまま回収されておらず、いまだフェネンの脇に落ちている。
フェネンが、爆ぜるように前へ出た。
重い甲冑を脱いで、速度を上げた。これが本来の彼女の速さだ。
そして更に速くなった双剣を繰り出す。
トントンは攻撃する暇がないとあってか、防戦一方。
攻撃し、防がれるたび魔王の口からため息が漏れる。
フェネンの攻撃はワンパターンではなかった。何度かの攻撃のあとに突如、フェネンが明後日の方向に跳躍した。
「!?」
フェネンはそれから、《障壁》を足元に展開し、人ではなしえない軌道でさらに跳躍。トントンの背後を取って、剣を振るった。
「あやつ、《障壁》を移動のための足場に使いおった!」
これには魔王も大興奮。そして観客も最高潮に盛り上がる。
鞘でどうにか剣をはじくトントン。しかし弾いたところで、フェネンの《魔弾》。
振り終わった鞘に《魔弾》が命中。鞘が無惨に破壊され、トントンの防御手段を奪った。
「ジュースのおかわり持ってこい!」
止めとばかりにフェネンの追撃。
しかしトントンの懐から出したものに剣が防がれる。
「…………!」
観客は騒然。
トントンが手にしていたのは、本戦トーナメントの第1試合で使用していたのと同じような、ナイフとフォークだった。
双剣に対抗しての、ナイフとフォークの二刀流。
ふざけた意趣返しだと捉えた会場から、ブーイングの嵐が飛んだ。
「あやつ、兜を取りおったか」
観客席にいた魔王は、果実のジュースを飲みながら呟いた。
兜の下に美女が隠れていたとあって、観客席は戦闘を見るのとは別の高揚に包まれていた。
魔王にはおなじみの顔である。
トントンと戦っているのは、自分が手に入れた奴隷であるフェネンだった。
ブランクという名で大会に出場させ、戦わせていたのだ。
魔王は、トントンを出し抜いて優勝をかっさらおうとしていた。あわよくばトントンを亡き者にできれば良いという考えである。
「なかなか食い下がるでないか。さて……トントンのやつ、マナ・クォーツに我の魔法が入っていることに気がついたか?」
なかなかにいい勝負をしているフェネンに、魔王は満足げだった。
……数日前、奴隷のフェネンにトーナメント参加を促したときである。
「白紙……ですか」
「うむ。まずは甲冑で本来の実力と名前、容姿を隠しながら勝ち進め。あまり相手に情報を与えさせないほうがよいからな。効果的に、相手が面食らうタイミングで、本来の実力を晒していけ」
「しかしよいのですか? 運良く対戦に当たれば、私がトントンを殺してしまうかも知れません」
フェネンは涼しげな表情で魔王に言った。
「よい」
魔王はマナ・クォーツを埋め込んだ特製の籠手に魔力を込めながら答える。
冬の町レーヴェ・カメリアにいたとき、ファンコイル商会から略奪した資産の中には、こういった装備品も多数あった。
「マナ・クォーツに我の《魔弾》と《獄炎》を十五発ずつ、《障壁》を二十発入れた。これでトントンが死ねば我が殺したも同然よ」
「そのようなこと可能なのですか? マナ・クォーツの魔法は、精霊と契約しないと使えないのでは?」
「我は自分で魔法を生み出せるからな。誰かに頼んで使えるようにしてもらっているわけではない。そのためか、魔法をマナ・クォーツに自ら込められることを発見した。契約はできんがな」
「すごいですウルカ様」
「マナ・クォーツに魔法を入れる場合は、入れる魔法と魔力によって『装弾数』が決まっているようだ。そして、使い切れば、マナ・クォーツは砕けて使えなくなる」
「使用制限ありの魔法ですか」
「そういうことだ。ま、砕けたらまたマナ・クォーツをセットしてやる」
「十分です。では、ありがたく」
「我が観客席から攻撃できればいいんだが、不正が発覚したら失格になってしまう。あくまでこういったサポートしかできん。健闘を祈るぞ」
「もし失敗すれば、私の首を切って野に晒してください」
「怖いこと言うな! もし負けたら反省会でケーキ買ってやる! ゆけい!」
そんなこんなで、今に至るのである。
兜を脱いだことで、観客の応援は一気にブランクことフェネンに傾いた。
「うおおおおっ! 俺はブランクを応援するぞ!」
「がんばれ! トントンなんかやっつけちまえ!」
「もう金を賭けられないのがつれえ!」
「結婚してくれ!」
見事に観客を味方につけている。
それを見て、魔王は満足げにうなずいた。
「いいぞ。効果的な兜の脱ぎ方だ。フェネン自身は自分の容姿までは計算に入れておらんだろうが……トントンはやりにくかろうな。じつにいいぞ」
美貌は武器になる。魔族でも人間でもそれは同じである。この大会では、剣を差していればあとはどんな武器でも使用が許されている。
トントンは、瞠目していた。じつにいい表情だ。
フェネンはそれから、肩当て、胴当て、腰当てなど身軽になるよう甲冑を脱いでいく。
女性らしいラインがあらわになり、観客のテンションはさらに上がる。
どうやら本気を出すらしい。
それを悟った魔王は口元を釣り上げ、同じく察したトントンはやや防御態勢で腰に差していた鞘を構えた。トントンの持っていた剣は、投擲されたまま回収されておらず、いまだフェネンの脇に落ちている。
フェネンが、爆ぜるように前へ出た。
重い甲冑を脱いで、速度を上げた。これが本来の彼女の速さだ。
そして更に速くなった双剣を繰り出す。
トントンは攻撃する暇がないとあってか、防戦一方。
攻撃し、防がれるたび魔王の口からため息が漏れる。
フェネンの攻撃はワンパターンではなかった。何度かの攻撃のあとに突如、フェネンが明後日の方向に跳躍した。
「!?」
フェネンはそれから、《障壁》を足元に展開し、人ではなしえない軌道でさらに跳躍。トントンの背後を取って、剣を振るった。
「あやつ、《障壁》を移動のための足場に使いおった!」
これには魔王も大興奮。そして観客も最高潮に盛り上がる。
鞘でどうにか剣をはじくトントン。しかし弾いたところで、フェネンの《魔弾》。
振り終わった鞘に《魔弾》が命中。鞘が無惨に破壊され、トントンの防御手段を奪った。
「ジュースのおかわり持ってこい!」
止めとばかりにフェネンの追撃。
しかしトントンの懐から出したものに剣が防がれる。
「…………!」
観客は騒然。
トントンが手にしていたのは、本戦トーナメントの第1試合で使用していたのと同じような、ナイフとフォークだった。
双剣に対抗しての、ナイフとフォークの二刀流。
ふざけた意趣返しだと捉えた会場から、ブーイングの嵐が飛んだ。
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