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64 決勝トーナメント前夜
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歓声や拍手喝采とともに、対戦表が埋まる。
第一試合《Eランク冒険者》トントン対《双剣の騎士》ブランク。
第二試合《暁の魔法使い》ライジング対《竜殺し》ゼビカ。
第三試合《剣帝》ガゼット対《大魔法使い》グレン。
第四試合《精霊剣使い》フューエル対《剣客》レインシード。
そして第一試合と第二試合の勝利者、第三試合と第四試合の勝利者がそれぞれ準決勝を闘い、勝った二人の決勝戦となる。
俺の対戦相手は《双剣の騎士》ブランク……一番謎の多い奴である。
このパーティーにも姿を見せていない。
今までの試合を見てきたが、圧倒的な双剣の技量と、マナ・クォーツを埋め込んだ籠手で戦って来た人物である。
マナ・クォーツには《障壁》のような防御できる魔法が込められている。攻撃は、ほとんど双剣である。
「おやおや」
ライジングは対戦表を確認すると微笑した。
「トントンさんとは、お互い勝ち残れば準決勝で対戦ですね」
「ああ、そうだな」
「まあ、ブランクさんも強そうですが」
「俺は問題ない。しかしそちらの対戦相手はゼビカだ」
「いやあ、怖いですよ。死ぬかも知れない」
「余裕そうだな」
「まあ、お互い勝ち残ったときにうかがいますよ。あなたが本当に聞きたかったことを。……勝ち進めれば、ですが」
「ああ。聞かせてもらうぞ。その時に」
何のことなく、視線を交わし合う。その瞳の奥に、お互い強い意志が介在しているのは目に見えている。
そうだ。酒の席などで語れはしない。本心は、剣を交えてだ。
「へっ、なんだよ。俺様の対戦相手はじいさんかよ?」
フューエルがこちらに近づいてくる。
対戦相手である《剣客》レインシードは、
「ふん。油断していたら首が飛ぶぞ、小僧よ?」
挑発を挑発で返して、また酒を煽った。
「上等だよ」
「冥土の土産にお前さんの魂も持って行ってやるわ」
「こちらこそ、寿命を待たずにあの世へ送ってやらあ」
ゼビカも、対戦表を見て近づいてくる。
「あなたですね、《竜殺し》のゼビカ」
ライジングは、飄々としながら握手を求める。
「ああ。対戦をよろしく頼む」
ゼビカは、快くその手を握った。
「殺しても恨まないでくださいよ」
「大した自信だが、自分の命の心配をしていたらどうだ?」
……遠くでは、《剣帝》ガゼットも対戦表を見た。
彼の相手は優勝候補の一人である《大魔法使い》グレン。
対戦表を一瞥してから立ち去ろうとするグレン――それを見もせずに、まっすぐに踵を返した。
歩み寄ってくる。こちらへ。
目的を持って歩くだけで、周囲がざわつく。
目指すのは、視線の先にいたライジング――かと思われた。
「……上がってきたか。ここまで」
ガゼットは、力強い瞳を俺へ向けながら、小さく言った。
遠目に見ている者は気づかない。
覇者が注目している、要注意人物。それは俺と一緒にいるライジングか、フューエルか、ゼビカか。
びりびりと威圧的な空気がのしかかる。
言われた俺は、肩をすくめた。
「ちゃっかりチェックしていたのか? 冴えない試合しかしていない俺のことを?」
「強者は、一目見ればわかる」
「買いかぶり過ぎだ」
「……ふん」
気に食わなさそうにしながら、ガゼットは改めて、その場にいる俺たちを見回した。
「ライジングに、フューエルに、ゼビカに、レインシードか。健闘を祈る」
そしてねぎらいの言葉をかけた。
その言葉を聞いた周囲の客は、感心の声を上げる。そしてその圧に、畏敬の念を抱く。
ガゼットの圧に屈服する剣士は、ここにはいない。
ライジングも、フューエルも、ゼビカも、レインシードも。
だが、意外にも律儀な言葉に、内心面食らっている者はいるだろう。
「俺も応援してくれ。俺だけ『健闘を祈る』と言われていない」
ガゼットに指摘したが、無視された。
第一試合《Eランク冒険者》トントン対《双剣の騎士》ブランク。
第二試合《暁の魔法使い》ライジング対《竜殺し》ゼビカ。
第三試合《剣帝》ガゼット対《大魔法使い》グレン。
第四試合《精霊剣使い》フューエル対《剣客》レインシード。
そして第一試合と第二試合の勝利者、第三試合と第四試合の勝利者がそれぞれ準決勝を闘い、勝った二人の決勝戦となる。
俺の対戦相手は《双剣の騎士》ブランク……一番謎の多い奴である。
このパーティーにも姿を見せていない。
今までの試合を見てきたが、圧倒的な双剣の技量と、マナ・クォーツを埋め込んだ籠手で戦って来た人物である。
マナ・クォーツには《障壁》のような防御できる魔法が込められている。攻撃は、ほとんど双剣である。
「おやおや」
ライジングは対戦表を確認すると微笑した。
「トントンさんとは、お互い勝ち残れば準決勝で対戦ですね」
「ああ、そうだな」
「まあ、ブランクさんも強そうですが」
「俺は問題ない。しかしそちらの対戦相手はゼビカだ」
「いやあ、怖いですよ。死ぬかも知れない」
「余裕そうだな」
「まあ、お互い勝ち残ったときにうかがいますよ。あなたが本当に聞きたかったことを。……勝ち進めれば、ですが」
「ああ。聞かせてもらうぞ。その時に」
何のことなく、視線を交わし合う。その瞳の奥に、お互い強い意志が介在しているのは目に見えている。
そうだ。酒の席などで語れはしない。本心は、剣を交えてだ。
「へっ、なんだよ。俺様の対戦相手はじいさんかよ?」
フューエルがこちらに近づいてくる。
対戦相手である《剣客》レインシードは、
「ふん。油断していたら首が飛ぶぞ、小僧よ?」
挑発を挑発で返して、また酒を煽った。
「上等だよ」
「冥土の土産にお前さんの魂も持って行ってやるわ」
「こちらこそ、寿命を待たずにあの世へ送ってやらあ」
ゼビカも、対戦表を見て近づいてくる。
「あなたですね、《竜殺し》のゼビカ」
ライジングは、飄々としながら握手を求める。
「ああ。対戦をよろしく頼む」
ゼビカは、快くその手を握った。
「殺しても恨まないでくださいよ」
「大した自信だが、自分の命の心配をしていたらどうだ?」
……遠くでは、《剣帝》ガゼットも対戦表を見た。
彼の相手は優勝候補の一人である《大魔法使い》グレン。
対戦表を一瞥してから立ち去ろうとするグレン――それを見もせずに、まっすぐに踵を返した。
歩み寄ってくる。こちらへ。
目的を持って歩くだけで、周囲がざわつく。
目指すのは、視線の先にいたライジング――かと思われた。
「……上がってきたか。ここまで」
ガゼットは、力強い瞳を俺へ向けながら、小さく言った。
遠目に見ている者は気づかない。
覇者が注目している、要注意人物。それは俺と一緒にいるライジングか、フューエルか、ゼビカか。
びりびりと威圧的な空気がのしかかる。
言われた俺は、肩をすくめた。
「ちゃっかりチェックしていたのか? 冴えない試合しかしていない俺のことを?」
「強者は、一目見ればわかる」
「買いかぶり過ぎだ」
「……ふん」
気に食わなさそうにしながら、ガゼットは改めて、その場にいる俺たちを見回した。
「ライジングに、フューエルに、ゼビカに、レインシードか。健闘を祈る」
そしてねぎらいの言葉をかけた。
その言葉を聞いた周囲の客は、感心の声を上げる。そしてその圧に、畏敬の念を抱く。
ガゼットの圧に屈服する剣士は、ここにはいない。
ライジングも、フューエルも、ゼビカも、レインシードも。
だが、意外にも律儀な言葉に、内心面食らっている者はいるだろう。
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ガゼットに指摘したが、無視された。
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