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63 ライジングを探す
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ライジングを探しながら、
「――この精霊、本物のようで安心した」
俺は主催者のバームに言った。
「そりゃあそうだろう。こんななりだが、霊域持ちの精霊だぞ。力が開放されれば暴風を吹かせる巨大な狼に変化するのだ」
バームは偉そうに解説してくれる。
こいつは、おそらくエアリアルが無理やりここに連れてこられたのを知っているのだろう。
その上で賞品としている。
「よくわかった」
俺は言うと、その場から離れた。
会場を見ると、警備につまみ出されている魔王の姿を見た。
こっそり少しずつおかずを盗んでいけばいいものを堂々と大量に盗むからそうなるのである。放置。
改めて会場を見渡す。
正装しているすらっとした髪の長い青年が、グラスを片手に老人と談笑していた。
《暁の魔法使い》ライジング。
それに、話している老人は《剣客》レインシードだ。
二人とも決勝トーナメント進出者である。
ちょうどタイミングがいい。グラスをもらうと、俺も二人の中に入っていく。
「談笑のところ水を差してすまんが、俺も加わってもいいだろうか?」
「ええ、どうぞ。トントンさん……ですね?」
ライジングは爽やかな笑顔でうなずく。
「ああ。そちらは、ライジング殿とレインシード殿でよろしいか?」
二人はうなずいた。
「いや、このたびは稼がせてもらった。ありがとさん」
老剣士レインシードは気分良さそうに俺の背中を叩いた。
「俺に賭けたのか」
「無論。あんたの実力を見抜いたごく少数の者は皆大儲けしたことだろうよ」
「そういえばフューエルにも同じようなことを言われた」
「目標額にまた一歩近づいたよ」
レインシードは上機嫌である。
「レインシードさんはお孫さんがご病気で、治療のためのお金を稼ぐためにこの大会に出たそうですよ」
ライジングは言った。
「ほう、それは立派だな」
「もう隠居の身だったんだが、一肌脱がざるを得なくなった。一億あればなんとかなるからよ、ちょうどよかったのさ。ついでに《剣帝》の称号もいただいていくがな」
レインシードは笑いながら、強そうな酒をあおる。
「俺は精霊が目的なのだ。今回、精霊目当ての者は存外多いらしいな」
レインシードに言ってから、ライジングを見た。
「そうみたいですね」
ライジングはにこやかに答える。
好青年、といった風である。
「しかしあの精霊、本物だと思うか? なにやら可愛らしい子犬のようだが」
俺は試しに質問してみる。ライジングは少し考えた風で答えた。
「本物のような気がしますね」
「どうしてそう思う?」
「そうでないと賞品にはしないでしょう? 優勝した者が確認をするわけですし、偽物ならこの大会の名誉に傷がついてしまう」
「しかし本物なら捕まえられるかな? かの伝説にあるゼノンが契約した霊域持ちの精霊なのだろう?」
「相当骨が折れそうですよね」
「集団でどうにかしたと思うが、どういった作戦で捕まえたのだろう?」
「僕に聞かれても困りますが、何かしらの魔法でないと無理でしょうね」
「そうか? 知っていると思ったんだが」
「……どういう意味です?」
やや攻めてみたが、飄々としている。動揺している様子はなく、表情も変わらない。
……こんな場では何も引き出せはしないか。
「いや、すまん、最近の魔法に疎くてな。そういう魔法があるのかと思っていたが」
「さあ? 僕は知りませんが。実力でねじ伏せたのでは?」
そうこうしているうちに、
「では、これより決勝トーナメントの選出をさせていただきます!」
主催者のバームがパーティーにいる者に伝えた。
今決めるらしい。
決勝トーナメントの対戦表は主催者がくじ引きをして選出し、この場で明日戦う者が決まる。
「では、第一試合の組み合わせは――」
バームがくじ引きを行い、対戦表に記入していく。俺も含め、会場にいるものは全員その選出に注目した。
「――この精霊、本物のようで安心した」
俺は主催者のバームに言った。
「そりゃあそうだろう。こんななりだが、霊域持ちの精霊だぞ。力が開放されれば暴風を吹かせる巨大な狼に変化するのだ」
バームは偉そうに解説してくれる。
こいつは、おそらくエアリアルが無理やりここに連れてこられたのを知っているのだろう。
その上で賞品としている。
「よくわかった」
俺は言うと、その場から離れた。
会場を見ると、警備につまみ出されている魔王の姿を見た。
こっそり少しずつおかずを盗んでいけばいいものを堂々と大量に盗むからそうなるのである。放置。
改めて会場を見渡す。
正装しているすらっとした髪の長い青年が、グラスを片手に老人と談笑していた。
《暁の魔法使い》ライジング。
それに、話している老人は《剣客》レインシードだ。
二人とも決勝トーナメント進出者である。
ちょうどタイミングがいい。グラスをもらうと、俺も二人の中に入っていく。
「談笑のところ水を差してすまんが、俺も加わってもいいだろうか?」
「ええ、どうぞ。トントンさん……ですね?」
ライジングは爽やかな笑顔でうなずく。
「ああ。そちらは、ライジング殿とレインシード殿でよろしいか?」
二人はうなずいた。
「いや、このたびは稼がせてもらった。ありがとさん」
老剣士レインシードは気分良さそうに俺の背中を叩いた。
「俺に賭けたのか」
「無論。あんたの実力を見抜いたごく少数の者は皆大儲けしたことだろうよ」
「そういえばフューエルにも同じようなことを言われた」
「目標額にまた一歩近づいたよ」
レインシードは上機嫌である。
「レインシードさんはお孫さんがご病気で、治療のためのお金を稼ぐためにこの大会に出たそうですよ」
ライジングは言った。
「ほう、それは立派だな」
「もう隠居の身だったんだが、一肌脱がざるを得なくなった。一億あればなんとかなるからよ、ちょうどよかったのさ。ついでに《剣帝》の称号もいただいていくがな」
レインシードは笑いながら、強そうな酒をあおる。
「俺は精霊が目的なのだ。今回、精霊目当ての者は存外多いらしいな」
レインシードに言ってから、ライジングを見た。
「そうみたいですね」
ライジングはにこやかに答える。
好青年、といった風である。
「しかしあの精霊、本物だと思うか? なにやら可愛らしい子犬のようだが」
俺は試しに質問してみる。ライジングは少し考えた風で答えた。
「本物のような気がしますね」
「どうしてそう思う?」
「そうでないと賞品にはしないでしょう? 優勝した者が確認をするわけですし、偽物ならこの大会の名誉に傷がついてしまう」
「しかし本物なら捕まえられるかな? かの伝説にあるゼノンが契約した霊域持ちの精霊なのだろう?」
「相当骨が折れそうですよね」
「集団でどうにかしたと思うが、どういった作戦で捕まえたのだろう?」
「僕に聞かれても困りますが、何かしらの魔法でないと無理でしょうね」
「そうか? 知っていると思ったんだが」
「……どういう意味です?」
やや攻めてみたが、飄々としている。動揺している様子はなく、表情も変わらない。
……こんな場では何も引き出せはしないか。
「いや、すまん、最近の魔法に疎くてな。そういう魔法があるのかと思っていたが」
「さあ? 僕は知りませんが。実力でねじ伏せたのでは?」
そうこうしているうちに、
「では、これより決勝トーナメントの選出をさせていただきます!」
主催者のバームがパーティーにいる者に伝えた。
今決めるらしい。
決勝トーナメントの対戦表は主催者がくじ引きをして選出し、この場で明日戦う者が決まる。
「では、第一試合の組み合わせは――」
バームがくじ引きを行い、対戦表に記入していく。俺も含め、会場にいるものは全員その選出に注目した。
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