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57 剣ならば

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本選第一リーグ第一試合。

《Eランク冒険者》トントンと《怪僧》ローズウェルの試合が始まろうとしていた。

俺はやや遅刻をした。
しかしどうにか試合には間に合った。

「よう、遅いご登場だったじゃないか」

ローズウェルは、大柄な筋肉ダルマだった。
その手に、巨大な長柄の剣――グレイブを握っている。

「ああ、少し立て込んでいてな」

「べつに棄権してもいいんだぜ?」

「忠告ありがとう。とてもいい提案だ。選択肢に入れておこう」

「それはそうと――俺の仲間どもをずいぶんと可愛がってくれたみたいじゃねえか」

「なにがだ?」

仲間?
身に覚えがなかった。

「ジョー・グレモン盗賊団って知ってるか?」

ローズウェルに言われて、思い出した。

「なるほど、お前があいつらの頭領か」

「そう、この俺がジョー・グレモン様よ!」

「名前はローズウェル・ランドリーではなかったのか」

「盗賊が知られてる名でこんな大会出るか!」

話していると、立会人がやってくる。

「……なんだあ? お前、剣がないのか?」

グレモンは立会人に聞こえるようにあからさまに大声で尋ねる。

「ああ、運悪く失くしてしまってな」

「くくくっ、そりゃあ災難だったなあ?」

ニヤニヤとしているグレモン。

そのグレモンの、腰にさしている剣。
それはまさしく、俺が失くしたはずのブロードソードだった。

「……その剣は?」

「ああ、大事な剣なんだよ」

「どこぞで拾ったか?」

「なんだ? 見覚えでもあるのか? まさか俺のだからよこせなんて言わないよな? 自分のものである証拠もなにもねえのに」

なるほど、道理でさっきからニヤニヤ馬鹿にしたように笑っているわけである。

「警備を買収して盗みに入ったか。盗賊らしいやりかただな」

そもそも警備は何も見ていないと言っていたが、誰も控室に入っていないなら剣が盗まれているはずはないからな。賄賂でも掴まされて見て見ぬふりをしてもらったのだろう。

「卑怯だとでも言うつもりか? トントンよ?」

「いや、勝負とはそういうものだ。考えつくあらゆる手を使えばいい。俺だってそうしている」

「は? よくわからねえが、剣がねえなら失格にならざるを得ねえよなあ?」

立会人も、俺に剣がないことに気づいた。

「帯剣がないのか!? ならば失格とするぞ!」

「…………」

不穏な空気。観客もざわざわとし始める。

「剣ならば、ある」

俺はポケットから食事用のフォークとナイフを取り出した。

「これだ」

会場が、どよめきに包まれる。

「ぎゃははははっ!」

グレモンは俺が両手に持ったナイフとフォークを指さして笑った。

「これ、ってお前! これからメシでも食うつもりか!?」

「仕方がなかろう。有り金すべて自分に賭けた後だったからな。金がなく、軽食屋で頭を下げて借りるしかなかった」

「底抜けの馬鹿かよお前!」

立会人が剣をあらためる。俺が持っている食事用のナイフとフォークを確認して、立会人は怪訝な顔になった。

「それが貴様の剣か!」

「いかにも」

「…………ならばよしッ!」

どのような形であれ帯剣していることが重要である。大トーナメントのルールにも記載されている。ナイフとフォークを自分の剣としていてもルール上問題はない。
第一試合から、精霊剣を晒すつもりはさらさらない。

食事用のナイフとフォークで戦うつもりと見えて、会場にどよめきと嘲笑が走った。

「なんだお前それは!」

「ふざけてんのか!」

「芸人にでもなるつもりか!?」

「恥を知れ!」

「ただの目立ちたがり屋なら帰れや! こっちは闘いを見に来てんだよ!」

「さっさと負けて退場しとけ! 次がつかえてんだからな!」

「おいローズウェル! 消化試合だぞこれは! お前に金入れたんだから、さっさと勝っとけ!」

観客のところどころから野次が飛んだ。

それから最終オッズが出揃い、マナ・クォーツから放たれる画面に名前とともに倍率が表示される。

最終オッズは――0.02倍対30倍。

グレモンが0.02倍で、俺が30倍である。

「見ろおっさん! これが第三者の評価だ! 実力差がこんなところでも出たなあ!? こんなんじゃ勝負にならんぜ!?」

グレモンが笑いながら皮肉を言った。

「うむ」

俺はうなずいた。

「もっと上昇すると踏んでいたのだがな。せっかくギリギリで勝ってきた感じを出したんだが……まあ、30倍でも十分か」

「死ぬ前に強がりとかやめたほうがいいぜ?」

「虚勢を張っているように見えるか。まあいいのだが」

距離を取って、お互い剣を構える。

「では――始めいッッッ!」

立会人が開始の合図を告げた。
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