57 / 106
57 剣ならば
しおりを挟む
本選第一リーグ第一試合。
《Eランク冒険者》トントンと《怪僧》ローズウェルの試合が始まろうとしていた。
俺はやや遅刻をした。
しかしどうにか試合には間に合った。
「よう、遅いご登場だったじゃないか」
ローズウェルは、大柄な筋肉ダルマだった。
その手に、巨大な長柄の剣――グレイブを握っている。
「ああ、少し立て込んでいてな」
「べつに棄権してもいいんだぜ?」
「忠告ありがとう。とてもいい提案だ。選択肢に入れておこう」
「それはそうと――俺の仲間どもをずいぶんと可愛がってくれたみたいじゃねえか」
「なにがだ?」
仲間?
身に覚えがなかった。
「ジョー・グレモン盗賊団って知ってるか?」
ローズウェルに言われて、思い出した。
「なるほど、お前があいつらの頭領か」
「そう、この俺がジョー・グレモン様よ!」
「名前はローズウェル・ランドリーではなかったのか」
「盗賊が知られてる名でこんな大会出るか!」
話していると、立会人がやってくる。
「……なんだあ? お前、剣がないのか?」
グレモンは立会人に聞こえるようにあからさまに大声で尋ねる。
「ああ、運悪く失くしてしまってな」
「くくくっ、そりゃあ災難だったなあ?」
ニヤニヤとしているグレモン。
そのグレモンの、腰にさしている剣。
それはまさしく、俺が失くしたはずのブロードソードだった。
「……その剣は?」
「ああ、大事な剣なんだよ」
「どこぞで拾ったか?」
「なんだ? 見覚えでもあるのか? まさか俺のだからよこせなんて言わないよな? 自分のものである証拠もなにもねえのに」
なるほど、道理でさっきからニヤニヤ馬鹿にしたように笑っているわけである。
「警備を買収して盗みに入ったか。盗賊らしいやりかただな」
そもそも警備は何も見ていないと言っていたが、誰も控室に入っていないなら剣が盗まれているはずはないからな。賄賂でも掴まされて見て見ぬふりをしてもらったのだろう。
「卑怯だとでも言うつもりか? トントンよ?」
「いや、勝負とはそういうものだ。考えつくあらゆる手を使えばいい。俺だってそうしている」
「は? よくわからねえが、剣がねえなら失格にならざるを得ねえよなあ?」
立会人も、俺に剣がないことに気づいた。
「帯剣がないのか!? ならば失格とするぞ!」
「…………」
不穏な空気。観客もざわざわとし始める。
「剣ならば、ある」
俺はポケットから食事用のフォークとナイフを取り出した。
「これだ」
会場が、どよめきに包まれる。
「ぎゃははははっ!」
グレモンは俺が両手に持ったナイフとフォークを指さして笑った。
「これ、ってお前! これからメシでも食うつもりか!?」
「仕方がなかろう。有り金すべて自分に賭けた後だったからな。金がなく、軽食屋で頭を下げて借りるしかなかった」
「底抜けの馬鹿かよお前!」
立会人が剣をあらためる。俺が持っている食事用のナイフとフォークを確認して、立会人は怪訝な顔になった。
「それが貴様の剣か!」
「いかにも」
「…………ならばよしッ!」
どのような形であれ帯剣していることが重要である。大トーナメントのルールにも記載されている。ナイフとフォークを自分の剣としていてもルール上問題はない。
第一試合から、精霊剣を晒すつもりはさらさらない。
食事用のナイフとフォークで戦うつもりと見えて、会場にどよめきと嘲笑が走った。
「なんだお前それは!」
「ふざけてんのか!」
「芸人にでもなるつもりか!?」
「恥を知れ!」
「ただの目立ちたがり屋なら帰れや! こっちは闘いを見に来てんだよ!」
「さっさと負けて退場しとけ! 次がつかえてんだからな!」
「おいローズウェル! 消化試合だぞこれは! お前に金入れたんだから、さっさと勝っとけ!」
観客のところどころから野次が飛んだ。
それから最終オッズが出揃い、マナ・クォーツから放たれる画面に名前とともに倍率が表示される。
最終オッズは――0.02倍対30倍。
グレモンが0.02倍で、俺が30倍である。
「見ろおっさん! これが第三者の評価だ! 実力差がこんなところでも出たなあ!? こんなんじゃ勝負にならんぜ!?」
グレモンが笑いながら皮肉を言った。
「うむ」
俺はうなずいた。
「もっと上昇すると踏んでいたのだがな。せっかくギリギリで勝ってきた感じを出したんだが……まあ、30倍でも十分か」
「死ぬ前に強がりとかやめたほうがいいぜ?」
「虚勢を張っているように見えるか。まあいいのだが」
距離を取って、お互い剣を構える。
「では――始めいッッッ!」
立会人が開始の合図を告げた。
《Eランク冒険者》トントンと《怪僧》ローズウェルの試合が始まろうとしていた。
俺はやや遅刻をした。
しかしどうにか試合には間に合った。
「よう、遅いご登場だったじゃないか」
ローズウェルは、大柄な筋肉ダルマだった。
その手に、巨大な長柄の剣――グレイブを握っている。
「ああ、少し立て込んでいてな」
「べつに棄権してもいいんだぜ?」
「忠告ありがとう。とてもいい提案だ。選択肢に入れておこう」
「それはそうと――俺の仲間どもをずいぶんと可愛がってくれたみたいじゃねえか」
「なにがだ?」
仲間?
身に覚えがなかった。
「ジョー・グレモン盗賊団って知ってるか?」
ローズウェルに言われて、思い出した。
「なるほど、お前があいつらの頭領か」
「そう、この俺がジョー・グレモン様よ!」
「名前はローズウェル・ランドリーではなかったのか」
「盗賊が知られてる名でこんな大会出るか!」
話していると、立会人がやってくる。
「……なんだあ? お前、剣がないのか?」
グレモンは立会人に聞こえるようにあからさまに大声で尋ねる。
「ああ、運悪く失くしてしまってな」
「くくくっ、そりゃあ災難だったなあ?」
ニヤニヤとしているグレモン。
そのグレモンの、腰にさしている剣。
それはまさしく、俺が失くしたはずのブロードソードだった。
「……その剣は?」
「ああ、大事な剣なんだよ」
「どこぞで拾ったか?」
「なんだ? 見覚えでもあるのか? まさか俺のだからよこせなんて言わないよな? 自分のものである証拠もなにもねえのに」
なるほど、道理でさっきからニヤニヤ馬鹿にしたように笑っているわけである。
「警備を買収して盗みに入ったか。盗賊らしいやりかただな」
そもそも警備は何も見ていないと言っていたが、誰も控室に入っていないなら剣が盗まれているはずはないからな。賄賂でも掴まされて見て見ぬふりをしてもらったのだろう。
「卑怯だとでも言うつもりか? トントンよ?」
「いや、勝負とはそういうものだ。考えつくあらゆる手を使えばいい。俺だってそうしている」
「は? よくわからねえが、剣がねえなら失格にならざるを得ねえよなあ?」
立会人も、俺に剣がないことに気づいた。
「帯剣がないのか!? ならば失格とするぞ!」
「…………」
不穏な空気。観客もざわざわとし始める。
「剣ならば、ある」
俺はポケットから食事用のフォークとナイフを取り出した。
「これだ」
会場が、どよめきに包まれる。
「ぎゃははははっ!」
グレモンは俺が両手に持ったナイフとフォークを指さして笑った。
「これ、ってお前! これからメシでも食うつもりか!?」
「仕方がなかろう。有り金すべて自分に賭けた後だったからな。金がなく、軽食屋で頭を下げて借りるしかなかった」
「底抜けの馬鹿かよお前!」
立会人が剣をあらためる。俺が持っている食事用のナイフとフォークを確認して、立会人は怪訝な顔になった。
「それが貴様の剣か!」
「いかにも」
「…………ならばよしッ!」
どのような形であれ帯剣していることが重要である。大トーナメントのルールにも記載されている。ナイフとフォークを自分の剣としていてもルール上問題はない。
第一試合から、精霊剣を晒すつもりはさらさらない。
食事用のナイフとフォークで戦うつもりと見えて、会場にどよめきと嘲笑が走った。
「なんだお前それは!」
「ふざけてんのか!」
「芸人にでもなるつもりか!?」
「恥を知れ!」
「ただの目立ちたがり屋なら帰れや! こっちは闘いを見に来てんだよ!」
「さっさと負けて退場しとけ! 次がつかえてんだからな!」
「おいローズウェル! 消化試合だぞこれは! お前に金入れたんだから、さっさと勝っとけ!」
観客のところどころから野次が飛んだ。
それから最終オッズが出揃い、マナ・クォーツから放たれる画面に名前とともに倍率が表示される。
最終オッズは――0.02倍対30倍。
グレモンが0.02倍で、俺が30倍である。
「見ろおっさん! これが第三者の評価だ! 実力差がこんなところでも出たなあ!? こんなんじゃ勝負にならんぜ!?」
グレモンが笑いながら皮肉を言った。
「うむ」
俺はうなずいた。
「もっと上昇すると踏んでいたのだがな。せっかくギリギリで勝ってきた感じを出したんだが……まあ、30倍でも十分か」
「死ぬ前に強がりとかやめたほうがいいぜ?」
「虚勢を張っているように見えるか。まあいいのだが」
距離を取って、お互い剣を構える。
「では――始めいッッッ!」
立会人が開始の合図を告げた。
24
お気に入りに追加
175
あなたにおすすめの小説

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる