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53 予選

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予選のバトルロイヤルが開始された。

広い会場で、服の上につけた剣のブローチを奪い合うため、参加者は近くにいる参加者と対戦を始める。

会場は、一瞬にして戦場のような混沌とした様相へと変わる。

俺の周囲も、それは例外ではない。

「む?」

いや、やや例外だったか。

開始前の俺の発言が挑発のような印象を持たせてしまったらしい。

開始後、すぐに俺にかかってくる参加者が多くあった。一度に、五人ほど。

五人は目配せしながら協調し合い、まずは目障りな俺を片付けることに合意したようだ。

「ちょっと待て! そんな大勢で俺を片付けても、もらえるブローチは一個だけだぞ!」

俺は抜剣もせず、後退りしながら、大声で訴える。

「うるせえ!」

「そんなもの後から考えりゃあいい!」

「初代《剣帝》が自分だと!? それくらい強いってか!?」

「頭狂ってんのかゴミが!」

「てめえみてえな勘違い野郎が一番ムカつくんだよ! 最初に退場しとけ!」

聞く耳もたんか。

「死ねえ!」

男の一人が大剣を横殴りにぶん回す。ためらいなく俺を真っ二つにしようとする一撃。

「うおっ!?」

俺は大仰に驚いて、勢いよく転がりながらその一撃を避ける。

「…………」

……殺すことはペナルティだが、こんなごちゃついた中である。どさくさに殺しても最悪気づかれない。
会場の外周にいる十数人の立会人に見えないところならば、できなくはないな。たちの悪い参加者は平気でやるだろう。

二人目と三人目が剣を上段に振り下ろす。

俺はそれも転がって避けながら、抜剣。

四人目と五人目が挟み撃ちで剣を振るう。俺はそれをいなしながら、最小限の動きで瞬間的に剣を動かす。

「ええい、ちょこまかと逃げやがって!」

俺は避けざま、四人目と五人目のブローチを奪った。

瞬間的に三度ずつ、剣を振るって、ブローチを中心に服を三角形の形に切り取り、服ごとブローチを取ったのである。

どさくさに紛れて殺すこともできるが、しかし相手を殺すことはむしろ非効率である。
服一枚の薄さだけ切って服の一部ごとブローチを取った方が効率がいい。ごちゃついた中でどさくさに紛れるなら、その方法がいい。決闘形式ではないので、相手に負けを認めさせる必要も、戦闘不能にする必要もない。

「くそっ、こいつ逃げ足だけは早い!」

四人目と五人目はブローチを盗られたことに気づかない。

同様に、ほかの三人の参加者のブローチも避けざまに奪った。

コツは、服一枚のみ剣で切り取ることである。怪我をすれば気づくだろうが、服一枚程度なら必死に戦っていれば奪われたことに気づかない。

……予選は単純な腕っぷしもさることながら、剣の技術がものをいう。これくらいこなせなくては、予選をパスしていく猛者たちと釣り合いがとれんだろうな。

公式に配られた革の腰袋にブローチを入れて、五人から逃げる。この革袋も、ちゃんと奪われやすいように紐の部分が麻でできている。

逃げる俺を知らずに追いかけてくる五人。

「お前ら、ブローチはどうした!?」

「ああ!?」

「ブローチがなければ失格だぞ! ではな!」

あとは逃げ一辺倒で、立会人につまみ出されるのを待つ。

「こいつ! 昼間の一番弱そうな奴じゃねえか!」

「ラッキーだぜ! これで雪辱を果たしてやらあ!」

同じ予選になったらしいジョー・グレモン盗賊団三人と出くわす。ラッキーだ。すでにブローチをいくつか手に入れているらしく、革袋は少し膨らんでいる。気づかれないようにまとめて奪おう。

先程の五人にしたのと同様のことを盗賊団にもする。今回は革袋も奪う。そしてまたどさくさに紛れて逃げる。

それを繰り返していると、案外簡単に目標の数が集まった。

制限時間があるので、全員分奪わなくても問題ない。一番ブローチを所持している者一名が本線へ進めるなら、過半数の二十六個を確保すれば、あとは逃げるだけでいい。

「うおおおおっ!」

逃げながら、また大げさに転がったり、わざと服一枚分切られたりする。

そうしていると、やがて制限時間終了の鐘が鳴った。

「そこまでッッッ!」

終了の合図。

……ここからが勝負だな。

試合が終わると、俺は余計に転がったおかげで更にぼろぼろになったローブのフードを被り、剣を杖代わりに使う。

そしてあからさまに憔悴している風を装いながら、集計を待つ。

「本選出場者は、二十六個獲得の《Eランク冒険者》トントンとするッ!」

順位が発表され、俺に注目が集まる。
そのタイミングで、がくりと脱力したように膝をついた。

「大丈夫か!?」

「な、なんとか……」

ギリギリ勝つことができたような風貌に、どよめきと歓声が起こった。
これで印象操作は終了である。
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