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46 一般冒険者と行く霊域踏破ツアー(精霊との雪合戦付き)
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後日。
《ブーステッド》を召喚した俺は、猛スピードで走りながらそりを引いていた。
そのまま霊域グラシアルを爆走している。
「えっと、あの、トントンさん!」
そりに乗せられているネーヴェ・カメリアの冒険者フリックは、俺に訴える。
「依頼は格安でお受けすると言いましたけど!」
以前、薬草を譲った代わりに格安で依頼を受けてくれると言ってくれたこともあり、俺は事件のあと早速依頼をすることにしたのだった。
「なんだ? 今さら撤回するのかフリックよ?」
「いや、撤回というか、なんというか! 物申したいのは依頼内容ですが!」
「やってみないとわからないだろう」
「無茶ですって!『スノーフォールと友達になってほしい』なんて依頼、聞いたことないですって!」
俺は冒険者協会を通して、フリックに依頼を出した。
それがフリックが文句を言っているそのままの内容だった。フリックは霊域持ちの大精霊と友達になるなど、できるわけないと主張する。
「こうして案内しているから大丈夫だ! 契約するわけではない。友達になるだけだから試練などもないぞ!」
「いやそれ可能なんですか!?」
「スノーフォールは、人間が大好きだ! だが、自分が近づくと怖がらせたり傷つけたりしてしまうと思いこんでいる! ゆえに『んなわけあるか』と言いに行く! 付き合え!」
「深部まで行くんですか!? 本当に!?」
「ああ、三日でな! 振り落とされるなよ!」
「嘘でしょおおおお!?」
同じくソリに乗っている魔王は、腕を組みながら憮然とした顔で鼻を鳴らした。スノーフォールとの義理があるのか、一応《獄炎》でソリ周囲を温めてくれている。
「普通の人間には、この寒さにこのスピードで風を受けて進むのはつらかろう」
「涙が出てきたよ! でもなんできみも平気なの!?」
フリックは少し涙目らしかった。
「涙は凍るから出さない方がいいぞ」
「もう凍りましたよ! 鼻水も!」
「《獄炎》がなければ臓腑も凍っている。しばしの我慢だ」
「うええええっ!」
なんやかんやで、深部までたどり着いた。
この日も空は晴れ渡っていた。
山に囲まれた窪地のようなところに、横たわる巨大な雪だるまがある。
そこに腰掛けて空を見ていたスノーフォールに、俺たちは声をかけた。
「遊びに来たぞ」
「……きたの?」
俺たちに目を向けて、スノーフォールは驚いたようだった。
「ほん、ほん、本当にスノーフォール様!?」
フリックはさらに驚いて腰を抜かしている。
「なんで?」
スノーフォールは俺を問い詰める。
「何がだ?」
「ここはもう通り過ぎるだけかと思った。精霊剣使えるようにしたんだからもう私に会いに来る用事なんてないじゃん」
「お前な……遊びに来てって言ったのはお前の方だぞ。それに、『友達ができない』と困っている友を助けるのに用事もクソもあるか。阿呆め」
「友達って……」
「ちょうど友達になってくれそうな地元人を見つけて来たんだぞ」
俺はそう言ってフリックを紹介した。
「超緊張してるじゃん」
緊張でガチガチになっているフリックを見て、スノーフォールは言った。
「寒いからだ」
「そう?」
「スノーフォールの性格に慣れれば緊張は解ける」
あとで焚き火でも焚いてやろう。
「西部の貧民街に孤児院がある」
なぜそんなことを知っているのかわからないが、魔王はスノーフォールに言った。
「そこにも遊びにいってみてくれ。人懐こい子どもと気さくな夫婦がいる」
「う、うん、ありがとう」
スノーフォールは戸惑いながらもうなずく。
「では遊ぶぞ! 我らは遊びに馳せ参じたのだ!」
魔王は楽しげに言った。
これには俺も頷かざるを得ない。
「今日はいい天気だ。遊ぶのにちょうどいい。太陽が見えない日だと、遊ぶどころじゃない寒さになるからな」
「今も十分寒いですが!」
フリックは相当寒そうである。
「何するの?」
「三人だったらできんが、四人なら雪合戦のチーム戦ができるし、雪だるまもより巨大なものが作れよう」
俺はさらに愛用の瓶を取り出した。
「そして、食事にはこれ、カレー粉だ。完璧だ」
「カレー粉を過信しすぎでは?」
フリックが横から指摘する。
「意見があったな人間。我もそう思うぞ」
魔王も頷いた。
スノーフォールは、堪えきれずに吹き出した。
「なんだか、遊ぶ前から楽しいよ。ありがとう……みんな大好き!」
「冗談ではなく本気なんだが」
言ったのだが、誰も聞いていなかった。
《ブーステッド》を召喚した俺は、猛スピードで走りながらそりを引いていた。
そのまま霊域グラシアルを爆走している。
「えっと、あの、トントンさん!」
そりに乗せられているネーヴェ・カメリアの冒険者フリックは、俺に訴える。
「依頼は格安でお受けすると言いましたけど!」
以前、薬草を譲った代わりに格安で依頼を受けてくれると言ってくれたこともあり、俺は事件のあと早速依頼をすることにしたのだった。
「なんだ? 今さら撤回するのかフリックよ?」
「いや、撤回というか、なんというか! 物申したいのは依頼内容ですが!」
「やってみないとわからないだろう」
「無茶ですって!『スノーフォールと友達になってほしい』なんて依頼、聞いたことないですって!」
俺は冒険者協会を通して、フリックに依頼を出した。
それがフリックが文句を言っているそのままの内容だった。フリックは霊域持ちの大精霊と友達になるなど、できるわけないと主張する。
「こうして案内しているから大丈夫だ! 契約するわけではない。友達になるだけだから試練などもないぞ!」
「いやそれ可能なんですか!?」
「スノーフォールは、人間が大好きだ! だが、自分が近づくと怖がらせたり傷つけたりしてしまうと思いこんでいる! ゆえに『んなわけあるか』と言いに行く! 付き合え!」
「深部まで行くんですか!? 本当に!?」
「ああ、三日でな! 振り落とされるなよ!」
「嘘でしょおおおお!?」
同じくソリに乗っている魔王は、腕を組みながら憮然とした顔で鼻を鳴らした。スノーフォールとの義理があるのか、一応《獄炎》でソリ周囲を温めてくれている。
「普通の人間には、この寒さにこのスピードで風を受けて進むのはつらかろう」
「涙が出てきたよ! でもなんできみも平気なの!?」
フリックは少し涙目らしかった。
「涙は凍るから出さない方がいいぞ」
「もう凍りましたよ! 鼻水も!」
「《獄炎》がなければ臓腑も凍っている。しばしの我慢だ」
「うええええっ!」
なんやかんやで、深部までたどり着いた。
この日も空は晴れ渡っていた。
山に囲まれた窪地のようなところに、横たわる巨大な雪だるまがある。
そこに腰掛けて空を見ていたスノーフォールに、俺たちは声をかけた。
「遊びに来たぞ」
「……きたの?」
俺たちに目を向けて、スノーフォールは驚いたようだった。
「ほん、ほん、本当にスノーフォール様!?」
フリックはさらに驚いて腰を抜かしている。
「なんで?」
スノーフォールは俺を問い詰める。
「何がだ?」
「ここはもう通り過ぎるだけかと思った。精霊剣使えるようにしたんだからもう私に会いに来る用事なんてないじゃん」
「お前な……遊びに来てって言ったのはお前の方だぞ。それに、『友達ができない』と困っている友を助けるのに用事もクソもあるか。阿呆め」
「友達って……」
「ちょうど友達になってくれそうな地元人を見つけて来たんだぞ」
俺はそう言ってフリックを紹介した。
「超緊張してるじゃん」
緊張でガチガチになっているフリックを見て、スノーフォールは言った。
「寒いからだ」
「そう?」
「スノーフォールの性格に慣れれば緊張は解ける」
あとで焚き火でも焚いてやろう。
「西部の貧民街に孤児院がある」
なぜそんなことを知っているのかわからないが、魔王はスノーフォールに言った。
「そこにも遊びにいってみてくれ。人懐こい子どもと気さくな夫婦がいる」
「う、うん、ありがとう」
スノーフォールは戸惑いながらもうなずく。
「では遊ぶぞ! 我らは遊びに馳せ参じたのだ!」
魔王は楽しげに言った。
これには俺も頷かざるを得ない。
「今日はいい天気だ。遊ぶのにちょうどいい。太陽が見えない日だと、遊ぶどころじゃない寒さになるからな」
「今も十分寒いですが!」
フリックは相当寒そうである。
「何するの?」
「三人だったらできんが、四人なら雪合戦のチーム戦ができるし、雪だるまもより巨大なものが作れよう」
俺はさらに愛用の瓶を取り出した。
「そして、食事にはこれ、カレー粉だ。完璧だ」
「カレー粉を過信しすぎでは?」
フリックが横から指摘する。
「意見があったな人間。我もそう思うぞ」
魔王も頷いた。
スノーフォールは、堪えきれずに吹き出した。
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言ったのだが、誰も聞いていなかった。
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