封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

鶴井こう

文字の大きさ
上 下
41 / 106

41 教会を追い詰める

しおりを挟む
東西の精霊教会、その中心。

暖炉で暖かくなっているその部屋に、東の教会の神父と西の教会の神父が、絢爛な料理の数々を並べて酒を飲み交わしていた。

「いや、今日も今日とて食事がうまい」

「本当だな。しかし東と西で対立を促し、我々は流通の担い手になって手数料――いや流通免罪符として金を中抜きするというアイデアのおかげだな」

「素材の流通を担っている冒険者協会も、領主や教会に言われれば従わざるを得ない。よく考えられているシステムよな」

「まあ、住人は割を食っているがな」

「住人がひもじい思いをしたり死んだりしてくれているおかげで我らは贅沢ができるんだ。必要な贄よ。感謝しないとな」

「いや、全く。これほど楽しいものはないな!」

「本当にな! 思想を分けて対立させるのくっそ楽しいわ! クセになっちゃう!」

「俺らにとっちゃクソどうでもいいがな!」

「霊域の解釈なんて知ったこっちゃねえよってな!」

通常、魔獣を狩って得た素材は冒険者協会が市場へと流すが、この町では西へ素材を流す際には教会を通さなければならない。その際に高額の流通手数料を抜いて流す。抜いた金は、神父の懐に納める。外からくる素材は高い関税のせいで、やはり流通するときに高価になる。

しかも肝心の教会は、東西が対立しているわけではなかった。ただ、自分ら以外には対立を煽っている。

「なるほど、そういうことなのだな」

途中まで話を聞いていた俺は、部屋の中へ入っていく。

「なっ、なんだ、貴様は!」

狼狽える神父二人。

俺に次いで、ちびフォールも部屋の中に入る。

「市場への流通の間に教会を挟むことによって、金の中抜きをすることが可能と。それが目的らしいぞ、領主」

「残念ですね」

あとから、東の領主が入ってきて、残念そうに首を振った。

「なっ!?」

「領主まで!?」

神父は驚いたが、

「りょ、領主様、スノーフォール様がお怒りになりますよ。教会に対してこのような無礼など」

東の神父が領主に諭すように言う。

「べつに怒らないよ?」

ちびフォールは答えた。

「……は?」

「私、スノーフォールだけど怒らないよ。教会とかいうのも、人間が勝手に作った物だしね?」

「ス、スノーフォール様そっくりの、子ども?」

「本人だってば」

ちびフォールは頬を膨らませるが、言っても無駄な人間というのはいるものだからな。

「ええい! 護衛は何をしている!」

西の神父が叫ぶが、護衛は全て俺が倒している。もう誰も来ないだろう。

「おい領主! 付き合いの長い我々と、ぽっと出てきたこいつら、どっちを信じるんだ!?」

「こんなガキ、ただのスノーフォール様に似ているだけの子どもだろう! 騙されおってからに!」

すでに自分で悪事を自白しているというのに、無茶苦茶だ。東の領主も狼狽えるばかりである。

「じゃあ、この姿ならどう?」

ちびフォールは笑った。

冷気があたりを漂いだし、室内のはずなのに雪が降りだす。

そして、周囲一帯を凍り付かせていく。

降り積もる雪がちびフォールに集まり、大きくなって精霊スノーフォールが形作られた。

突貫で作られた氷の宮殿。そこに精霊スノーフォールが降り立つ。

「ひ、ひいっ、本物!?」

東西の神父が尻餅をつく。

「だからそう言ってんじゃん」

スノーフォールは不機嫌そうにプンプンと眉を釣り上げる。

「やはり、あなたがたが……」

東の領主はうやうやしく膝をついた。

「精霊スノーフォールよ、ネーヴェ・カメリアの東西を隔てる壁や関税は、あなたのためにあるらしい。必要か?」

俺があえて問う。

「んー、いらなーい」

スノーフォールは軽く答えた。

「精霊スノーフォールがそう言っている。これでも撤廃しない理由などあるまいな?」

「ぐっ!」

神父二人が歯噛みする。

その時、追加の僧兵がなだれ込んでくる。

「遅いぞ! さっさと全員殺せ! こいつらはスノーフォール様を侮辱する異端者だ!」

東の神父が僧兵に命令した。

「やれやれ……」

俺は腰の剣に、手をかける。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

元公務員が異世界転生して辺境の勇者になったけど魔獣が13倍出現するブラック地区だから共生を目指すことにした

まどぎわ
ファンタジー
激務で倒れ、そのまま死んだ役所職員。 生まれ変わった世界は、魔獣に怯える国民を守るために勇者が活躍するファンタジーの世界だった。 前世の記憶を有したままチート状態で勇者になったが、担当する街は魔獣の出現が他よりも遥かに多いブラック地区。これは出現する魔獣が悪いのか、通報してくる街の住人が悪いのか……穏やかに寿命を真っ当するため、仕事はそんなに頑張らない。勇者は今日も、魔獣と、市民と、共生を目指す。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...