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39 殴り込み
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夕刻になろうかという時間。
「侵入者だ!」
「止めろおおお!」
「領主様を守れ!」
ネーヴェ・カメリア東部領主の屋敷は、騒然となっていた。
原因は、無論俺たちが不法侵入しているからだ。
魔王を探すため、東と西を自由に行き来できるように直談判しに来た。
ついでに東と西の関税を撤廃して自由にそれぞれの市場へ売り物を流せるよう、話も通したい。
ちびフォールから魔法で作ってもらった氷の仮面を身につけ、薬草を渡した代わりに冒険者フリックからもらったマフラーを首に巻き、俺たちは領主の屋敷に侵入していた。
何人もの憲兵が向かってくる。
「ぐわあああっ」
「だっ、だめだ! なんて強さだ!」
俺は腰に下げていたブロードソードを抜き、向かってくるものの刃を防いで柄で殴って気絶させながら、屋敷の奥へ猛スピードで進んでいった。
「いやあ、さすがに魔王ちゃんに会うために体制そのものを変えようとするとは思わなかったよ」
「無論それだけではないがな」
フリックのように、自由に物を買えずに不便を強いられている者はたくさんいるだろう。
東西の壁など、不便なだけで意味がないように見えるからな。
「ここか! 領主の部屋は!」
死屍累々……いや、殺してはいないが、向かってくるものをなぎ倒していったので、屋敷じゅうに気を失った男たちが倒れている。
そのまま速度を落とさず兵を倒しながら、俺とちびフォールは領主の部屋へ殴り込みをかける。
「!」
逃げ遅れたらしい老年のひげの生えた男がいた。
「あれが領主だな?」
「そうよ」
俺の質問にちびフォールが答える。
同時に、領主を守る憲兵が向かってくるが、
「ぐおっ!」
「ぎゃあっ!」
殴り飛ばす。
「ひ、ひいいいいいっ!」
東の領主はうろたえた。
「落ち着け。殺しはしない。話をしたいだけだ」
俺は東の領主をなだめる。
「くせもの……いや、しかし……」
東の領主は、俺たちの姿をよく確認してから、なぜか背筋を伸ばし姿勢を正した。
「わっ、私は、あなたがたを歓迎します!」
意外な言葉だった。
「ほう?」
「お話がしたいということであれば、お話をお聞きしましょう。応接間へご案内します」
東の領主に、部屋を案内された。
「これは……」
「あらあ」
応接間の壁には、巨大な肖像画がかけられていた。雪山を背景に佇む、銀髪の美少女の姿。精霊スノーフォールの肖像画だった。
しかも、かなり特徴が合っている。まるで見てきて描いたかのような出来栄えだった。
「ご覧の通り、スノーフォール様の肖像画です」
と東の領主は答えた。
「大昔ですが、霊域グラシアルを踏破し、精霊スノーフォールと契約した精霊剣使いがおりました。そのものから伝わったとされる姿です」
「おっ、おう?」
「伝説の精霊剣使いです。その名も、ゼノン・ウェンライト。かの英雄譚にて犠牲になった『帰らぬ英雄』のゼノン様です。彼がその姿を伝え、昔の領主がその特徴をもとに肖像画に起こしました」
懐かしいな。そんなこともあったか。
いや、伝えたのは村長だったような気がするが。
「……昔、ここは、フォルスト村といったのではなかったか?」
「ええ、そうです! 発展し、東西に分かれてからは、ネーヴェ・カメリアと名前を変えました」
「やはりか」
東西の問題も、町の名前を変えてからか。
「侵入者だ!」
「止めろおおお!」
「領主様を守れ!」
ネーヴェ・カメリア東部領主の屋敷は、騒然となっていた。
原因は、無論俺たちが不法侵入しているからだ。
魔王を探すため、東と西を自由に行き来できるように直談判しに来た。
ついでに東と西の関税を撤廃して自由にそれぞれの市場へ売り物を流せるよう、話も通したい。
ちびフォールから魔法で作ってもらった氷の仮面を身につけ、薬草を渡した代わりに冒険者フリックからもらったマフラーを首に巻き、俺たちは領主の屋敷に侵入していた。
何人もの憲兵が向かってくる。
「ぐわあああっ」
「だっ、だめだ! なんて強さだ!」
俺は腰に下げていたブロードソードを抜き、向かってくるものの刃を防いで柄で殴って気絶させながら、屋敷の奥へ猛スピードで進んでいった。
「いやあ、さすがに魔王ちゃんに会うために体制そのものを変えようとするとは思わなかったよ」
「無論それだけではないがな」
フリックのように、自由に物を買えずに不便を強いられている者はたくさんいるだろう。
東西の壁など、不便なだけで意味がないように見えるからな。
「ここか! 領主の部屋は!」
死屍累々……いや、殺してはいないが、向かってくるものをなぎ倒していったので、屋敷じゅうに気を失った男たちが倒れている。
そのまま速度を落とさず兵を倒しながら、俺とちびフォールは領主の部屋へ殴り込みをかける。
「!」
逃げ遅れたらしい老年のひげの生えた男がいた。
「あれが領主だな?」
「そうよ」
俺の質問にちびフォールが答える。
同時に、領主を守る憲兵が向かってくるが、
「ぐおっ!」
「ぎゃあっ!」
殴り飛ばす。
「ひ、ひいいいいいっ!」
東の領主はうろたえた。
「落ち着け。殺しはしない。話をしたいだけだ」
俺は東の領主をなだめる。
「くせもの……いや、しかし……」
東の領主は、俺たちの姿をよく確認してから、なぜか背筋を伸ばし姿勢を正した。
「わっ、私は、あなたがたを歓迎します!」
意外な言葉だった。
「ほう?」
「お話がしたいということであれば、お話をお聞きしましょう。応接間へご案内します」
東の領主に、部屋を案内された。
「これは……」
「あらあ」
応接間の壁には、巨大な肖像画がかけられていた。雪山を背景に佇む、銀髪の美少女の姿。精霊スノーフォールの肖像画だった。
しかも、かなり特徴が合っている。まるで見てきて描いたかのような出来栄えだった。
「ご覧の通り、スノーフォール様の肖像画です」
と東の領主は答えた。
「大昔ですが、霊域グラシアルを踏破し、精霊スノーフォールと契約した精霊剣使いがおりました。そのものから伝わったとされる姿です」
「おっ、おう?」
「伝説の精霊剣使いです。その名も、ゼノン・ウェンライト。かの英雄譚にて犠牲になった『帰らぬ英雄』のゼノン様です。彼がその姿を伝え、昔の領主がその特徴をもとに肖像画に起こしました」
懐かしいな。そんなこともあったか。
いや、伝えたのは村長だったような気がするが。
「……昔、ここは、フォルスト村といったのではなかったか?」
「ええ、そうです! 発展し、東西に分かれてからは、ネーヴェ・カメリアと名前を変えました」
「やはりか」
東西の問題も、町の名前を変えてからか。
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