35 / 80
35 魔王、犯罪組織を制圧する
しおりを挟む
その日、西部貧民街の片隅にあったファンコイル商会の本部から火の手が上がった。
恐喝や法外の金貸しをおもな稼ぎとする犯罪組織・ファンコイル商会――その現場にいた構成員三十名あまりを相手に立ち向かおうとしていたのは、年端もいかない少女と、細身の剣を二振り構えた二十代の女、そして後ろに控えた二人の女。
魔王と、その部下である奴隷の女達。たった四人による強襲であった。
「ウルカ様、後ろの二人は戦闘が苦手です。ですので、私が二人の分まで戦わせていただきます」
双剣を構えた女奴隷フェネンが魔王に言った。
魔王はうなずいた。
「うむ。戦闘経験者がいて心強い」
「おたわむれを。ウルカ様一人でも十分とお見受けしますが――お背中くらいはお守りさせてください」
「頼りにしているぞ」
「はっ!」
ウルカの後ろからかかろうとしていた構成員の男二人をフェネンが切り伏せる。
「後ろはいいから、行く手を切り開け。目指すは親玉だ」
広い玄関で、三十人あまりの構成員を見据えて、魔王はフェネンに告げる。
「――おおせのままに」
うなずいたフェネンは、瞬く間に魔王の進路を切り開いてゆく。
「そういえば冒険者登録をしたのだろうフェネンよ。初期ランクはいくつだった?」
「Aです」
「すごいな。初期の登録でAランク判定が出るとは」
「昔、王国騎士団の副団長をしておりました」
さらに二人の男を切り捨てるフェネン。
「そんなに重要なポストなら、なぜあの時、自由にした時に我のもとを去らなかった?」
「私の祖国は、もうありません。海を隔てた先にありましたが、戦で全て灰になりました。私には、帰るべき場所もなく、待っていてくれる人もおりません」
「それはつらいな」
「ですが、一生をかけて仕えるべき主君に巡り会うことができました。ウルカ様、あなたに」
フェネンが一人でやっているので、魔王はやることがない。たまに《障壁》を作って、後ろの二人を守るくらいである。
堂々と、手間なく、彼女が切り開いてくれた進路をたどる。
「ですから、剣士トントンを殺せとお命じになるなら、そのようにします」
「奴相手ではさすがに分が悪かろう。それに、奴との決着は、我が自らつけねばならん。理屈ではなく、そうしなければいけないのだと我の心が言っている。まあ、もし助けてほしいときがあれば、都度言おう」
「かしこまりました。では、今はただ、あなたのお役に立たせていただきます!」
フェネンは二階の最後の部屋を力尽くで蹴り破る。
「うーむ、これはいい拾いものをした」
魔王はしみじみつぶやいて、尻もちをつく目の前の男を見やった。
「ひっ!」
昼間見た眼鏡の男である。この男がファンコイル商会を仕切っているらしい。
「これはこれは。小物っぽいと思ったら組織のトップだったか」
「て、てめえ、昼間の、あの孤児院にいたガキか……? ど、どうして」
フェネンが剣の切っ先を突きつけている。震える声で、眼鏡の男は尋ねた。
「難癖つけて弱者から端金をむしり取るのが貴様らのしのぎだそうだな。……奇遇だが、我もそうなのだ。貴様らのような弱い者たちをむごたらしくひねり潰すのが大好きでな」
「皮肉のつもりか。どこの組織のものだ?」
問われて、魔王はふと笑った。
そうか。そうだな、もう組織だった。
「魔王軍」
魔王は、すぐに答えた。
そして魔法陣から漆黒の炎を顕現させ、
「貴様に問おう。消えぬ炎に巻かれて苦しみの果てに焼け死ぬか? それとも我の手足となって我に尽くすか?」
「…………!」
眼鏡の男に選択を迫った。
恐喝や法外の金貸しをおもな稼ぎとする犯罪組織・ファンコイル商会――その現場にいた構成員三十名あまりを相手に立ち向かおうとしていたのは、年端もいかない少女と、細身の剣を二振り構えた二十代の女、そして後ろに控えた二人の女。
魔王と、その部下である奴隷の女達。たった四人による強襲であった。
「ウルカ様、後ろの二人は戦闘が苦手です。ですので、私が二人の分まで戦わせていただきます」
双剣を構えた女奴隷フェネンが魔王に言った。
魔王はうなずいた。
「うむ。戦闘経験者がいて心強い」
「おたわむれを。ウルカ様一人でも十分とお見受けしますが――お背中くらいはお守りさせてください」
「頼りにしているぞ」
「はっ!」
ウルカの後ろからかかろうとしていた構成員の男二人をフェネンが切り伏せる。
「後ろはいいから、行く手を切り開け。目指すは親玉だ」
広い玄関で、三十人あまりの構成員を見据えて、魔王はフェネンに告げる。
「――おおせのままに」
うなずいたフェネンは、瞬く間に魔王の進路を切り開いてゆく。
「そういえば冒険者登録をしたのだろうフェネンよ。初期ランクはいくつだった?」
「Aです」
「すごいな。初期の登録でAランク判定が出るとは」
「昔、王国騎士団の副団長をしておりました」
さらに二人の男を切り捨てるフェネン。
「そんなに重要なポストなら、なぜあの時、自由にした時に我のもとを去らなかった?」
「私の祖国は、もうありません。海を隔てた先にありましたが、戦で全て灰になりました。私には、帰るべき場所もなく、待っていてくれる人もおりません」
「それはつらいな」
「ですが、一生をかけて仕えるべき主君に巡り会うことができました。ウルカ様、あなたに」
フェネンが一人でやっているので、魔王はやることがない。たまに《障壁》を作って、後ろの二人を守るくらいである。
堂々と、手間なく、彼女が切り開いてくれた進路をたどる。
「ですから、剣士トントンを殺せとお命じになるなら、そのようにします」
「奴相手ではさすがに分が悪かろう。それに、奴との決着は、我が自らつけねばならん。理屈ではなく、そうしなければいけないのだと我の心が言っている。まあ、もし助けてほしいときがあれば、都度言おう」
「かしこまりました。では、今はただ、あなたのお役に立たせていただきます!」
フェネンは二階の最後の部屋を力尽くで蹴り破る。
「うーむ、これはいい拾いものをした」
魔王はしみじみつぶやいて、尻もちをつく目の前の男を見やった。
「ひっ!」
昼間見た眼鏡の男である。この男がファンコイル商会を仕切っているらしい。
「これはこれは。小物っぽいと思ったら組織のトップだったか」
「て、てめえ、昼間の、あの孤児院にいたガキか……? ど、どうして」
フェネンが剣の切っ先を突きつけている。震える声で、眼鏡の男は尋ねた。
「難癖つけて弱者から端金をむしり取るのが貴様らのしのぎだそうだな。……奇遇だが、我もそうなのだ。貴様らのような弱い者たちをむごたらしくひねり潰すのが大好きでな」
「皮肉のつもりか。どこの組織のものだ?」
問われて、魔王はふと笑った。
そうか。そうだな、もう組織だった。
「魔王軍」
魔王は、すぐに答えた。
そして魔法陣から漆黒の炎を顕現させ、
「貴様に問おう。消えぬ炎に巻かれて苦しみの果てに焼け死ぬか? それとも我の手足となって我に尽くすか?」
「…………!」
眼鏡の男に選択を迫った。
0
お気に入りに追加
158
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)
田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ?
コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。
(あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw)
台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。
読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。
(カクヨムにも投稿しております)
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
転生幼女は幸せを得る。
泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる