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31 抜け駆け
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早くからやっていた朝市で主に肉と火打ち石を買って、登山の準備は整った。
「野菜や薬草がやたら高かったがまあいらんだろう。カレー粉と肉があれば十分だしな」
町の外で魔王と待ち合わせをする。
正直出し抜いて先に行ってやろうと考えたが、魔王から目を離すわけにもいくまいと思い直した。
魔王はネーヴェ・カメリア西部に滞在している。
昨日、滞在先を選ぶ際、俺が「東部」を選ぶと、魔王は対抗するように「じゃあ我は西部ー!」と別の地域を選択した。正直意味がないと思うのだが俺の意見は無視された。
そして夜を越した次の日の朝に、町の入口で待ち合わせをする約束を交わした。
「遅れるなよ」
「貴様こそな! どちらが早く待ち合わせ場所につけるか勝負だ!」
「いや、待ちくたびれるから普通に行く」
そんな会話を交わして東部と西部に別れた。
……のだが。
「遅い!」
魔王は一向に待ち合わせ場所に来る気配がなかった。
「なぜ来ない……なぜ来ないのだ魔王」
グラシアル踏破は過酷だ。朝早くから出発せねば時間の浪費になってしまうことは必至。
朝の約束だったはずが、昼に差し掛かりつつあった今も魔王は姿を見せなかった。
あんなに待ち合わせにやる気だったのに寝坊したのか?
「…………」
いや、待て。
そうじゃないとしたら。むしろ逆だとしたら。
……よもや出し抜かれたか?
朝早くに待ち合わせをする約束をしておき、自分は夜のうちからグラシアルへ向かったのだとしたら?
そしてスノーフォールに会い、俺は来ないとか本当はどうでもいいと言っていたとか嘯いて精霊剣の契約を解消させる企てをしていたのだとしたら。
いや、むしろ魔族がまだ存在しているとわかった以上、俺との決着にこだわる理由が、やつにはなくなったのでは?
グラシアルを通過し、真っ先に境界の地グッドフェロウまで行けば、ほかの魔族はまだ残っている。
グッドフェロウへ直行し、仲間の魔族をしたがえて、俺ごと人間を滅ぼす計画を立てているのだとしたら。
可能だ。
魔王の魔力が完全に戻っていなくても、俺を打倒することが。
精霊剣の力をまだ十分に取り戻せていない以上、魔族が多勢でかかられたら、俺はひとたまりもないだろう。
「……くそっ、どうして夜のうちに考えが及ばなかった! 旅の疲れを癒やすため、俺は一晩ぬくぬくまったり休んでしまった!」
なぜ魔王の言葉をそのまま信じた?
俺の阿呆。
「勝負だ」とか寝言を抜かすほど、早朝の待ち合わせにこだわるような素振り。
俺を出し抜いていち早く行動するための策略だと、なぜ気づかなかった?
そもそも滞在場所を一緒にしなかった時点から、怪しむべきだったのだ。
相手はあの魔王だぞ。
あんながっつり精神年齢低そうな言動を俺はなぜ信じてしまった?
「こうしてはおれん」
俺は踵を返し、霊域グラシアルへ向けて走り出す。
「霊域グラシアルへ――精霊スノーフォールへ、すぐに会いに行かねば」
考えに至るまで、だいぶ時間を使ってしまった。
急がねばなるまい。
「野菜や薬草がやたら高かったがまあいらんだろう。カレー粉と肉があれば十分だしな」
町の外で魔王と待ち合わせをする。
正直出し抜いて先に行ってやろうと考えたが、魔王から目を離すわけにもいくまいと思い直した。
魔王はネーヴェ・カメリア西部に滞在している。
昨日、滞在先を選ぶ際、俺が「東部」を選ぶと、魔王は対抗するように「じゃあ我は西部ー!」と別の地域を選択した。正直意味がないと思うのだが俺の意見は無視された。
そして夜を越した次の日の朝に、町の入口で待ち合わせをする約束を交わした。
「遅れるなよ」
「貴様こそな! どちらが早く待ち合わせ場所につけるか勝負だ!」
「いや、待ちくたびれるから普通に行く」
そんな会話を交わして東部と西部に別れた。
……のだが。
「遅い!」
魔王は一向に待ち合わせ場所に来る気配がなかった。
「なぜ来ない……なぜ来ないのだ魔王」
グラシアル踏破は過酷だ。朝早くから出発せねば時間の浪費になってしまうことは必至。
朝の約束だったはずが、昼に差し掛かりつつあった今も魔王は姿を見せなかった。
あんなに待ち合わせにやる気だったのに寝坊したのか?
「…………」
いや、待て。
そうじゃないとしたら。むしろ逆だとしたら。
……よもや出し抜かれたか?
朝早くに待ち合わせをする約束をしておき、自分は夜のうちからグラシアルへ向かったのだとしたら?
そしてスノーフォールに会い、俺は来ないとか本当はどうでもいいと言っていたとか嘯いて精霊剣の契約を解消させる企てをしていたのだとしたら。
いや、むしろ魔族がまだ存在しているとわかった以上、俺との決着にこだわる理由が、やつにはなくなったのでは?
グラシアルを通過し、真っ先に境界の地グッドフェロウまで行けば、ほかの魔族はまだ残っている。
グッドフェロウへ直行し、仲間の魔族をしたがえて、俺ごと人間を滅ぼす計画を立てているのだとしたら。
可能だ。
魔王の魔力が完全に戻っていなくても、俺を打倒することが。
精霊剣の力をまだ十分に取り戻せていない以上、魔族が多勢でかかられたら、俺はひとたまりもないだろう。
「……くそっ、どうして夜のうちに考えが及ばなかった! 旅の疲れを癒やすため、俺は一晩ぬくぬくまったり休んでしまった!」
なぜ魔王の言葉をそのまま信じた?
俺の阿呆。
「勝負だ」とか寝言を抜かすほど、早朝の待ち合わせにこだわるような素振り。
俺を出し抜いていち早く行動するための策略だと、なぜ気づかなかった?
そもそも滞在場所を一緒にしなかった時点から、怪しむべきだったのだ。
相手はあの魔王だぞ。
あんながっつり精神年齢低そうな言動を俺はなぜ信じてしまった?
「こうしてはおれん」
俺は踵を返し、霊域グラシアルへ向けて走り出す。
「霊域グラシアルへ――精霊スノーフォールへ、すぐに会いに行かねば」
考えに至るまで、だいぶ時間を使ってしまった。
急がねばなるまい。
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