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21 第一精霊剣《ブーステッド》
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「ようやく本来の力の一部が戻ってきたか」
感覚でわかる。第一精霊剣は、もうすでに使えるようになっている。
「ではゆくぞ。……《ブーステッド》!」
同時に、グランドイーターの巨大な口が、俺のいた空間をあまねく飲み込んでいた。
俺はそれを上から見ていた。人間の限界を超え遥かに高く跳躍して。
俺は、その手に精霊剣を握っている。
霊樹の柄に、鉱石の結晶のような六面体が合わさったかのような刀身の剣だ。
第一精霊剣ブーステッド。
霊域森羅の生命力に溢れたその魔力は、身体機能の著しい強化を可能にする。
「久しぶりで加減ができるかわからんが――」
落下しながら、俺は剣を構える。
方向を変え、こちらを向くグランドイーター。
「斬らせてもらうぞ!」
交差の寸前で木の幹を蹴り、落下の方向を変える。
着地して、振り返りざま、即座に踏み込み、
「ぬんっ!」
俺は剣を横に一閃。
グランドイーターの頭が胴から離れて、その血液をまき散らしながら沈黙した。
一歩遅れて、剣圧が周囲の木々を揺らす。はらはらと落ちる枝葉を見やりながら、俺はブーステッドを魔法陣に納める。
「相変わらずの、力に任せた一撃。単純だがそれゆえに強い。久方ぶりの森羅の剣、身に染みたぞ」
そしてうまいこと絶命してくれたおかげで、あまり傷つけずに素材を手に入れることができた。
「よしよし、これはいい稼ぎになりそうだな」
仕留めたグランドイーターをアイテムボックスに入れる。これでもう容量いっぱいだ。
「あとは、川に水浴びしにいくか」
川辺を探して一歩進む。
――と、
「むう?」
また風景は森羅の森になった。
「またか」
そして目の前には、樹木のような人のようなゆらめいた存在。
「一つ、忠告しておく」
森羅は、やはり抑揚のない声で俺に言った。
「なんだ?」
「グランドイーターだが、貴公が倒したのは小さい雌の個体だ。片割れのさらに巨大なワームが、今クインタイルに迫っている」
「!」
今倒したグランドイーターより巨大で強力な個体が、町を襲おうとしているというのか。
「このままいけば、弱っている魔王はグランドイーターに飲み込まれて死ぬ可能性はあるな。巨大ワームの胃酸は魔力を持つゆえ強力で、樹木や岩さえ容易に溶かす。弱った魔族なぞ一飲みだろう」
「食われてくれるのはありがたい限りだが、その代わり、町にも被害は出るだろうが」
「しかし貴公の悲願は達成されよう。町への被害を多少許容すればいいだけだ。運が良ければ犠牲者は一人も出ないだろうし、魔王を飲み込んだタイミングですぐに倒せばいい。さあ、どうする?」
「……よほど精霊は人間を試すのが好きとみえるな」
「さてな」
「忠告感謝する」
また一歩進むと、もとの森に戻った。
「……ゆくか」
かかっているのは、縁もゆかりもない人々の命。
魔王ごと助けるか? 魔王ごと見捨てるか?
――そんなのは、聞くまでもないことだろう。
感覚でわかる。第一精霊剣は、もうすでに使えるようになっている。
「ではゆくぞ。……《ブーステッド》!」
同時に、グランドイーターの巨大な口が、俺のいた空間をあまねく飲み込んでいた。
俺はそれを上から見ていた。人間の限界を超え遥かに高く跳躍して。
俺は、その手に精霊剣を握っている。
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一歩遅れて、剣圧が周囲の木々を揺らす。はらはらと落ちる枝葉を見やりながら、俺はブーステッドを魔法陣に納める。
「相変わらずの、力に任せた一撃。単純だがそれゆえに強い。久方ぶりの森羅の剣、身に染みたぞ」
そしてうまいこと絶命してくれたおかげで、あまり傷つけずに素材を手に入れることができた。
「よしよし、これはいい稼ぎになりそうだな」
仕留めたグランドイーターをアイテムボックスに入れる。これでもう容量いっぱいだ。
「あとは、川に水浴びしにいくか」
川辺を探して一歩進む。
――と、
「むう?」
また風景は森羅の森になった。
「またか」
そして目の前には、樹木のような人のようなゆらめいた存在。
「一つ、忠告しておく」
森羅は、やはり抑揚のない声で俺に言った。
「なんだ?」
「グランドイーターだが、貴公が倒したのは小さい雌の個体だ。片割れのさらに巨大なワームが、今クインタイルに迫っている」
「!」
今倒したグランドイーターより巨大で強力な個体が、町を襲おうとしているというのか。
「このままいけば、弱っている魔王はグランドイーターに飲み込まれて死ぬ可能性はあるな。巨大ワームの胃酸は魔力を持つゆえ強力で、樹木や岩さえ容易に溶かす。弱った魔族なぞ一飲みだろう」
「食われてくれるのはありがたい限りだが、その代わり、町にも被害は出るだろうが」
「しかし貴公の悲願は達成されよう。町への被害を多少許容すればいいだけだ。運が良ければ犠牲者は一人も出ないだろうし、魔王を飲み込んだタイミングですぐに倒せばいい。さあ、どうする?」
「……よほど精霊は人間を試すのが好きとみえるな」
「さてな」
「忠告感謝する」
また一歩進むと、もとの森に戻った。
「……ゆくか」
かかっているのは、縁もゆかりもない人々の命。
魔王ごと助けるか? 魔王ごと見捨てるか?
――そんなのは、聞くまでもないことだろう。
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