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20 霊域森羅
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気がつけば、俺は樹齢千年以上はあろうかという大樹ばかりの森の中にいた。驚くほど空気が綺麗だ。それに、うっすらと霧に覆われている。
さっきまでいた森ではない。
グランドイーターは、どこにもいない。
俺の精霊剣の紋章が反応して、この地に魂だけが呼ばれたのだろう。
ここは、第一精霊剣《ブーテッド》を鍛えた精霊がいた《森羅》と呼ばれている霊域だ。
全てが木々に飲み込まれたかのような、鬱蒼とした、見渡す限りの大樹。むせ返るような緑のにおい。木々の間から漏れる、限りなく広がる青い空。それが森羅の全てだった。
「久しいな人間」
目の前には、フードを被った長身の人影のようなものがゆらめいていた。
フードの中身は木の根の塊のような見た目だ。一箇所だけ赤い実がなっている。
「森羅よ、一つ問いたいのだが、精霊王はまだ健在か?」
第一精霊剣であるブーステッドの契約精霊、彼もまた森羅と呼ばれる。
森羅は、少し首をかしげ、
「さてな」
簡潔に答えた。
「では《ブーテッド》はいつまた使えるようになる?」
「さてな」
なるほど。何か考えがあるらしい。
俺が精霊剣を使えないのは、どうやら魔力の問題だけではないらしいな。精霊は、人間を試すのがじつに好きだ。
「貴公に、問う」
森羅は、抑揚のない声で俺に膝をつき、顔を上げる。赤い実が、俺を睥睨しているように感じられた。
俺は頷いた。
「これから貴公に立ちはだかるのは、単純なわかりやすい脅威ではなく、文化の違いだろう」
「打倒魔王以前の、俺を取り巻く環境の話か」
「左様。立ちはだかるのは、自分とは何の縁もゆかりもない社会や文化や、善意や悪意だ。受け入れることはできるか?」
「たしかに知らない単語ばかりで戸惑っている」
「対応できねば、生き苦しかろう」
「ま、それも時代だろうな」
俺は軽めに答えた。
「徐々に受け入れていくことにするよ。新しい時代に、新しい世代。期待しようじゃないか。ステータスもデータベースも、わかれば面白いものだと思うよ」
「……ふむ」
「なんだ? お気に召さない答えだったか?」
「及第点といったところだろう」
「お厳しいことで」
「ならば再び力を貸すことをここに誓う。我が力の一部、存分に振るって、その思いの一助とするがよかろう」
「……恩に着る」
濃くなってきた霧に視界を遮られたと思ったら、もとのクインタイルの森に戻った。
そして、眼前には、迫り来る超巨大ワーム――グランドイーター。
先ほどから、時間がほとんど経っていなかったらしい。
そして、俺の腕にある一つ目の紋章が光っていた。
さっきまでいた森ではない。
グランドイーターは、どこにもいない。
俺の精霊剣の紋章が反応して、この地に魂だけが呼ばれたのだろう。
ここは、第一精霊剣《ブーテッド》を鍛えた精霊がいた《森羅》と呼ばれている霊域だ。
全てが木々に飲み込まれたかのような、鬱蒼とした、見渡す限りの大樹。むせ返るような緑のにおい。木々の間から漏れる、限りなく広がる青い空。それが森羅の全てだった。
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目の前には、フードを被った長身の人影のようなものがゆらめいていた。
フードの中身は木の根の塊のような見た目だ。一箇所だけ赤い実がなっている。
「森羅よ、一つ問いたいのだが、精霊王はまだ健在か?」
第一精霊剣であるブーステッドの契約精霊、彼もまた森羅と呼ばれる。
森羅は、少し首をかしげ、
「さてな」
簡潔に答えた。
「では《ブーテッド》はいつまた使えるようになる?」
「さてな」
なるほど。何か考えがあるらしい。
俺が精霊剣を使えないのは、どうやら魔力の問題だけではないらしいな。精霊は、人間を試すのがじつに好きだ。
「貴公に、問う」
森羅は、抑揚のない声で俺に膝をつき、顔を上げる。赤い実が、俺を睥睨しているように感じられた。
俺は頷いた。
「これから貴公に立ちはだかるのは、単純なわかりやすい脅威ではなく、文化の違いだろう」
「打倒魔王以前の、俺を取り巻く環境の話か」
「左様。立ちはだかるのは、自分とは何の縁もゆかりもない社会や文化や、善意や悪意だ。受け入れることはできるか?」
「たしかに知らない単語ばかりで戸惑っている」
「対応できねば、生き苦しかろう」
「ま、それも時代だろうな」
俺は軽めに答えた。
「徐々に受け入れていくことにするよ。新しい時代に、新しい世代。期待しようじゃないか。ステータスもデータベースも、わかれば面白いものだと思うよ」
「……ふむ」
「なんだ? お気に召さない答えだったか?」
「及第点といったところだろう」
「お厳しいことで」
「ならば再び力を貸すことをここに誓う。我が力の一部、存分に振るって、その思いの一助とするがよかろう」
「……恩に着る」
濃くなってきた霧に視界を遮られたと思ったら、もとのクインタイルの森に戻った。
そして、眼前には、迫り来る超巨大ワーム――グランドイーター。
先ほどから、時間がほとんど経っていなかったらしい。
そして、俺の腕にある一つ目の紋章が光っていた。
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