5 / 80
5 問題があります
しおりを挟む
さっきから様子がおかしいと思っていたがこいつ……。
「やはりか」
信じられん。槍の方が耐えられなかったのか。完全に魔王の魔力を消失させるまでに。
そして俺が目覚めるより少し早く復活していたらしい。
「ふん、ばれちまったら仕方がない!」
少女は被っていたフードを勢いよく脱いだ。
「我が魔王ディアブロであるぞ! ひざまずけい!」
「……うーん」
俺は魔王を名乗る少女の姿を見た。
「……そんな小っちゃかったか? 声もなんか、軽い。威圧感も感じない」
「うるさい! 著しく魔力を失ったせいだ!」
ちんちくりんがイキっているようにしか見えん。本当にこいつが魔王なのか疑わしくなってくる。
「なんか角もないな」
「おいやめろ!」
俺は少女の頭をつかむ。いや、あった。ものすごく小さいが、角があった。しかし赤い髪に隠れて見えない。
俺が取り押さえたときは俺より大柄だったように思ったが……魔族って弱体化すると縮むのか。知らなんだ。
「無礼者が! 今すぐ殺してくれようぞ!」
「……500年前の続きでもするか?」
弱っているのなら、封印しなくとも俺の精霊剣で魔力を削り切れるかもしれん。
魔王が構え、俺も同じように構えたが、すぐに自分の中の異変に気づき、構えを解いた。
「待て魔王」
「なんだ!」
「まずは現状の把握から入ろうではないか」
精霊剣が――出てこない。
精霊剣とは精霊と契約し、特殊な剣を召喚できるようになる能力だ。その剣を使う者が《精霊剣使い》である。
俺の右腕には、現在四つの契約の紋章が刻まれている。
紋章はまだ残っているから、契約は有効だ。切り札である『精霊王の剣』を召喚できる五つ目の紋章は崩れて消えてしまったが、あと四振りの精霊剣はまだ残っている。
……長年の封印でさすがに力が衰えたか。精霊剣を召喚できるまでには、俺が回復していないらしい。
このような状態で魔王と戦うのはまずい。いくら魔王も魔力を消耗しているとはいえ、俺の今の状態で完全に殺せるかは謎だ。
「……把握だと? どうするのだ?」
「まずは現代人の言葉がわからねば何もできん。お前も困るはずだ。そうだろう?」
俺は道具屋を探して、とあるアイテムを手に入れる。
《言語疎通のマナ・クォーツ》である。
マナ・クォーツは魔法を宿せる水晶で、俺の生きた時代では主流の魔法アイテムだった。身につけているだけで効果が及ぶものである。
今もあってよかったが、少し形式が変わっている。
祠にあったお供えものの銭で、どうにかぎりぎり買えた。
ただし、グレードの一番低いものしか買えなかった。方言を矯正してくれるくらいの効果しかない。
「ありがとうございました~」
まあ多少マナ・クォーツの形式が変わってはいるが、使える。「ありさっさっしたー!」と聞こえていたのが、俺たちのわかる言語に認識してくれていた。逆も可能なはずで、こちらから喋ってもちゃんと相手に伝わるはずである。文字を読むときも同様だ。
「我のぶんは?」
魔王が見上げて聞いてきたので、俺は首を振った。
「ない」
「おい」
「一人分しか買えなかった」
「だったらその金でメシ食ったほうがよかったろうが! 我ははらへりぞ!」
「んなこといわれても、言葉が通じねば何もできまいよ」
「ふざけおってからに……ふざけ、おってからに!」
魔王は泣いていた。そこまではらへりだったのか。
「で? それを買ってどうするのだアホ剣士!?」
「まずは金を稼ぐしかなかろう。お前の言う通り、腹ごしらえには金がいる」
どうしたもんかと考えたとき、思い至る。
じつはこいつも、俺を殺し切るだけの魔力がまだないのではないだろうか。
山を歩いているとき、こいつは石の塊で俺を殴ろうとした。殴って殺そうとしたのだ。本来の魔王の力なら魔法を使えば事足りるにもかかわらず、である。本来なら《魔弾》一発で俺はあの世行きだ。
《封印の聖槍》は、魔王を消滅させるには至らなかったが、魔王の力を著しく削ぐことには成功している。それこそ、少女の力ほどしか出せないほどに。
そして回復には時間がかかる。
つまり、俺と同じく、魔王もまだ力が戻らないのだとしたら……?
俺が魔王を見ると、魔王も同じ表情で俺を見た。
魔王も俺と同じ結論に思い至ったらしい。
だが、お互い『力が戻っていない』などとは言えない。敵に弱みを晒すことになるからだ。手の内を晒すことなく、相手の力が戻る妨害をしながら、自分は力を戻していかねばならない。
「おお、魔王よ。ここは提案なんだが」
だから俺は、こう切り出した。
「なんだ? 我も思うところがあるぞ」
「こんな知らない世界で、お互い心細かろう。ならばお互い助け合って生きていかないか?」
「うむ、それはいい提案だな。我も同じことを思っていた。よきにはからえ」
寝首をかくには、相手にはあくまでニコニコしながらも、背中には常に刃物を隠し持っているような立ち回りが求められよう。
しかしそれはお互い、言うことではない。
俺たちは同じことを思ったはずだ。
――早く力を取り戻さねば。この宿敵が、力を取り戻す前に!
だがそれでいい。これはもう一つの、誰にも知られずに行われる、俺と魔王の戦争なのだから。
「やはりか」
信じられん。槍の方が耐えられなかったのか。完全に魔王の魔力を消失させるまでに。
そして俺が目覚めるより少し早く復活していたらしい。
「ふん、ばれちまったら仕方がない!」
少女は被っていたフードを勢いよく脱いだ。
「我が魔王ディアブロであるぞ! ひざまずけい!」
「……うーん」
俺は魔王を名乗る少女の姿を見た。
「……そんな小っちゃかったか? 声もなんか、軽い。威圧感も感じない」
「うるさい! 著しく魔力を失ったせいだ!」
ちんちくりんがイキっているようにしか見えん。本当にこいつが魔王なのか疑わしくなってくる。
「なんか角もないな」
「おいやめろ!」
俺は少女の頭をつかむ。いや、あった。ものすごく小さいが、角があった。しかし赤い髪に隠れて見えない。
俺が取り押さえたときは俺より大柄だったように思ったが……魔族って弱体化すると縮むのか。知らなんだ。
「無礼者が! 今すぐ殺してくれようぞ!」
「……500年前の続きでもするか?」
弱っているのなら、封印しなくとも俺の精霊剣で魔力を削り切れるかもしれん。
魔王が構え、俺も同じように構えたが、すぐに自分の中の異変に気づき、構えを解いた。
「待て魔王」
「なんだ!」
「まずは現状の把握から入ろうではないか」
精霊剣が――出てこない。
精霊剣とは精霊と契約し、特殊な剣を召喚できるようになる能力だ。その剣を使う者が《精霊剣使い》である。
俺の右腕には、現在四つの契約の紋章が刻まれている。
紋章はまだ残っているから、契約は有効だ。切り札である『精霊王の剣』を召喚できる五つ目の紋章は崩れて消えてしまったが、あと四振りの精霊剣はまだ残っている。
……長年の封印でさすがに力が衰えたか。精霊剣を召喚できるまでには、俺が回復していないらしい。
このような状態で魔王と戦うのはまずい。いくら魔王も魔力を消耗しているとはいえ、俺の今の状態で完全に殺せるかは謎だ。
「……把握だと? どうするのだ?」
「まずは現代人の言葉がわからねば何もできん。お前も困るはずだ。そうだろう?」
俺は道具屋を探して、とあるアイテムを手に入れる。
《言語疎通のマナ・クォーツ》である。
マナ・クォーツは魔法を宿せる水晶で、俺の生きた時代では主流の魔法アイテムだった。身につけているだけで効果が及ぶものである。
今もあってよかったが、少し形式が変わっている。
祠にあったお供えものの銭で、どうにかぎりぎり買えた。
ただし、グレードの一番低いものしか買えなかった。方言を矯正してくれるくらいの効果しかない。
「ありがとうございました~」
まあ多少マナ・クォーツの形式が変わってはいるが、使える。「ありさっさっしたー!」と聞こえていたのが、俺たちのわかる言語に認識してくれていた。逆も可能なはずで、こちらから喋ってもちゃんと相手に伝わるはずである。文字を読むときも同様だ。
「我のぶんは?」
魔王が見上げて聞いてきたので、俺は首を振った。
「ない」
「おい」
「一人分しか買えなかった」
「だったらその金でメシ食ったほうがよかったろうが! 我ははらへりぞ!」
「んなこといわれても、言葉が通じねば何もできまいよ」
「ふざけおってからに……ふざけ、おってからに!」
魔王は泣いていた。そこまではらへりだったのか。
「で? それを買ってどうするのだアホ剣士!?」
「まずは金を稼ぐしかなかろう。お前の言う通り、腹ごしらえには金がいる」
どうしたもんかと考えたとき、思い至る。
じつはこいつも、俺を殺し切るだけの魔力がまだないのではないだろうか。
山を歩いているとき、こいつは石の塊で俺を殴ろうとした。殴って殺そうとしたのだ。本来の魔王の力なら魔法を使えば事足りるにもかかわらず、である。本来なら《魔弾》一発で俺はあの世行きだ。
《封印の聖槍》は、魔王を消滅させるには至らなかったが、魔王の力を著しく削ぐことには成功している。それこそ、少女の力ほどしか出せないほどに。
そして回復には時間がかかる。
つまり、俺と同じく、魔王もまだ力が戻らないのだとしたら……?
俺が魔王を見ると、魔王も同じ表情で俺を見た。
魔王も俺と同じ結論に思い至ったらしい。
だが、お互い『力が戻っていない』などとは言えない。敵に弱みを晒すことになるからだ。手の内を晒すことなく、相手の力が戻る妨害をしながら、自分は力を戻していかねばならない。
「おお、魔王よ。ここは提案なんだが」
だから俺は、こう切り出した。
「なんだ? 我も思うところがあるぞ」
「こんな知らない世界で、お互い心細かろう。ならばお互い助け合って生きていかないか?」
「うむ、それはいい提案だな。我も同じことを思っていた。よきにはからえ」
寝首をかくには、相手にはあくまでニコニコしながらも、背中には常に刃物を隠し持っているような立ち回りが求められよう。
しかしそれはお互い、言うことではない。
俺たちは同じことを思ったはずだ。
――早く力を取り戻さねば。この宿敵が、力を取り戻す前に!
だがそれでいい。これはもう一つの、誰にも知られずに行われる、俺と魔王の戦争なのだから。
7
お気に入りに追加
158
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)
田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ?
コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。
(あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw)
台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。
読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。
(カクヨムにも投稿しております)
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?
夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。
気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。
落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。
彼らはこの世界の神。
キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。
ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。
「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる