封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

鶴井こう

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3 町へ向かう

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赤髪の少女と山道を歩く。

「ローブを目深にかぶっているのはどうしてだい?」

「寒がりなので」

「暑くないか」

「暑くないです」

陽光が燦々と照っているのだが。

「……あ、そこの山のふもとです」

景色を見渡せる崖の近くの場所まで来ると、山のふもとに大きめの町があった。

「あ、うん、よくこんな遠いところまで散歩に来られ――」

俺が振り向くと、

「…………」

少女は、俺に向けて石の塊をつかんで振りかぶっていた。

俺と目が合うと、少女は動きを止める。

「……その石礫いしつぶては?」

「えっと、さっきそこで拾ったものです」

なんか少女は汗を滝のように流している。

「なぜ拾う?」

「石を拾うのが好きなのです」

「なぜ俺に向けて振りかぶっている?」

「見せようと思って、勢い余りました」

「そ、そうか」

「捨てます」

「拾ったばかりなのに!?」

立ち止まりながら、少女に質問する。

「そういえばきみ、名前は?」

「ディ――」

「ディ?」

「忘れました」

「自分の名前なのに!?」

「おじさん、お名前は?」

「ゼノンだ。ゼノン・ウェンライト」

「忌々し――いえ、よいお名前だな……ですね」

ギリギリギリギリ……!

なんの音かと思ったら少女が歯を食いしばる音だった。ものすごく食いしばっていた。

「念のため確認したいが、俺たちは、初対面なのだよな?」

「ええ。もちろん」

どうも要領を得ない会話である。

「本当にどこかで会っていないか怪しいが――」

言っている途中で、俺は少女の背後に気を配り、言葉を切った。

「どうしたんです?」

「魔獣が出た。きみの後ろだ」

「えっ?」

巨大なカマキリのような魔獣……マンティスだった。

しかし一匹である。

「肩慣らしにはちょうどよかろう」

マンティスは、鎌のような鋭い腕を振り上げながらとびかかってくる。

常人なら一息で首が飛んでしまう一撃。

俺は少女の捨てた手ごろな石を拾って、距離を詰めた。

「石で!?」

少女が驚きの声を上げる。

俺は石で、斜めから振り下ろされた鎌を弾いた。

マンティスがバランスを崩す。

すかさず懐に入り、その腹に回し蹴りを繰り出した。

「!」

マンティスは血を吐きながら吹き飛び、崖の下へと落ちていく。

「前言を撤回せねば。――こんなのでは肩慣らしにもならん」

あの時から何年経ったのかはわからんが……昔の魔獣はもっと強力だったような気がするぞ。

「もう安全だ。ではゆこうか」

「…………」

少女は一瞬、何か焦ったように思案顔になるも、表情を戻す。

「あ、はい。行きましょう」
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