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2 覚醒、そして少女と出会う
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あれからどれだけの月日が流れたのか。
「…………!」
唐突に、俺の意識は覚醒した。
「――うおっ!? なんだ!?」
バランスを崩しそうになるのをこらえる。
俺は、石でできた祠のようなものの前に立っていた。
周囲を見回す。
祠の中に、錆びて朽ちかけた槍が地面に深々と刺さっていた。
ボロボロだが、間違いない。《封印の聖槍》だ。
聖槍は役割を終えたのか、ボロボロと崩れていく。
「……しかし、なぜ、俺は生きている?」
聖槍の損傷具合から、長い時間が経過していることが見て取れる。
俺の体がなぜその年月に耐えられたのか……それが謎だった。
それに、魔王に貫かれた腹の傷も治っている。聖槍が刺さった時の傷もだ。
「!」
右腕に刻まれていた、五つ目の紋章がうっすらと光っていた。
精霊剣の契約の紋章だ。
「《精霊王の剣》が――俺を守ってくれたのか?」
《第五精霊剣・精霊王の剣》。それが俺の体と魂を健全に保ってくれていたらしい。
《精霊王の剣》を召喚する。
「――!」
が、俺を守るのに力を全て使い切ってしまったのか、召喚した瞬間、剣は灰のように崩れて自壊していった。
右腕に刻まれた契約の紋章――その最後の五つ目が消えてしまった。
「……恩に着る。貴公のおかげで、俺は命を永らえた」
剣の契約を交わしてくれた精霊王に感謝する。
「魔王は――いないか」
周囲を見回しても、魔王らしき魔族はいない。
生きていたのなら俺のように外に出ているはずだが、どこにもいない。
どうやら、消滅したらしい。
祠の周囲は一面の森だ。どこかの山奥か。
「山の中……神域のように、人さえ立ち入らないように隠した祠だったのか。たしかにこれなら見つかるまいよ」
神聖な雰囲気が漂っている。賊さえ侵入を躊躇するような空気だ。
周囲を見回しながら、根本的な問題に立ち返る。
「俺は、一体何年封印されていたんだ?」
魔族は、魔力が高いが、魔力を奪われると弱体化し、完全に奪うと消滅する。
魔力を失いつくして、魔王は消滅した。
しかしそれがいったいどれくらいの期間かかっていたか、だ。
俺の肉体は、魔王と戦っていたあの時のままだ。鍛えているとはいっても、もう三十五のおじさんの体だが。
体調は悪くない。記憶の混濁もない。
足元を見る。
祠の前に、椀のような器に金のようなものがいくらかお供えされている。
「見たことがない金だな……」
何かと入り用になるかもしれない。もらっておこう。
この祠にお供えされていたのなら、祀られていた俺がもらっても差し支えないだろう。
「あの」
金を拾ったところで、声をかけられた。
「ん?」
そこにいたのは、黒いローブを着た少女だった。フードを少し深めにかぶっている。
見た目は、十歳から十五歳くらいだろうか。背は低く、長く赤い髪がフードから覗いている。瞳も赤い。
「大丈夫ですか?」
少女は心配そうに俺を覗き込んだ。
「あ、ああ」
「散歩をしていたら突然知らない人が祠にいたもので」
ん?
なんか、聞いたことのある声のような……。
気のせいか。
「ありがとう。少しゆかりのある祠だったものでな」
「そうですか」
「近くに村はあるかい?」
「はい。たぶん」
たぶん?
「案内しましょう」
「ああ、どうも、ありがとう……」
何か引っかかりを覚えつつ、しかしこの少女しか頼れる者はいない。一緒に行くことにした。
「…………!」
唐突に、俺の意識は覚醒した。
「――うおっ!? なんだ!?」
バランスを崩しそうになるのをこらえる。
俺は、石でできた祠のようなものの前に立っていた。
周囲を見回す。
祠の中に、錆びて朽ちかけた槍が地面に深々と刺さっていた。
ボロボロだが、間違いない。《封印の聖槍》だ。
聖槍は役割を終えたのか、ボロボロと崩れていく。
「……しかし、なぜ、俺は生きている?」
聖槍の損傷具合から、長い時間が経過していることが見て取れる。
俺の体がなぜその年月に耐えられたのか……それが謎だった。
それに、魔王に貫かれた腹の傷も治っている。聖槍が刺さった時の傷もだ。
「!」
右腕に刻まれていた、五つ目の紋章がうっすらと光っていた。
精霊剣の契約の紋章だ。
「《精霊王の剣》が――俺を守ってくれたのか?」
《第五精霊剣・精霊王の剣》。それが俺の体と魂を健全に保ってくれていたらしい。
《精霊王の剣》を召喚する。
「――!」
が、俺を守るのに力を全て使い切ってしまったのか、召喚した瞬間、剣は灰のように崩れて自壊していった。
右腕に刻まれた契約の紋章――その最後の五つ目が消えてしまった。
「……恩に着る。貴公のおかげで、俺は命を永らえた」
剣の契約を交わしてくれた精霊王に感謝する。
「魔王は――いないか」
周囲を見回しても、魔王らしき魔族はいない。
生きていたのなら俺のように外に出ているはずだが、どこにもいない。
どうやら、消滅したらしい。
祠の周囲は一面の森だ。どこかの山奥か。
「山の中……神域のように、人さえ立ち入らないように隠した祠だったのか。たしかにこれなら見つかるまいよ」
神聖な雰囲気が漂っている。賊さえ侵入を躊躇するような空気だ。
周囲を見回しながら、根本的な問題に立ち返る。
「俺は、一体何年封印されていたんだ?」
魔族は、魔力が高いが、魔力を奪われると弱体化し、完全に奪うと消滅する。
魔力を失いつくして、魔王は消滅した。
しかしそれがいったいどれくらいの期間かかっていたか、だ。
俺の肉体は、魔王と戦っていたあの時のままだ。鍛えているとはいっても、もう三十五のおじさんの体だが。
体調は悪くない。記憶の混濁もない。
足元を見る。
祠の前に、椀のような器に金のようなものがいくらかお供えされている。
「見たことがない金だな……」
何かと入り用になるかもしれない。もらっておこう。
この祠にお供えされていたのなら、祀られていた俺がもらっても差し支えないだろう。
「あの」
金を拾ったところで、声をかけられた。
「ん?」
そこにいたのは、黒いローブを着た少女だった。フードを少し深めにかぶっている。
見た目は、十歳から十五歳くらいだろうか。背は低く、長く赤い髪がフードから覗いている。瞳も赤い。
「大丈夫ですか?」
少女は心配そうに俺を覗き込んだ。
「あ、ああ」
「散歩をしていたら突然知らない人が祠にいたもので」
ん?
なんか、聞いたことのある声のような……。
気のせいか。
「ありがとう。少しゆかりのある祠だったものでな」
「そうですか」
「近くに村はあるかい?」
「はい。たぶん」
たぶん?
「案内しましょう」
「ああ、どうも、ありがとう……」
何か引っかかりを覚えつつ、しかしこの少女しか頼れる者はいない。一緒に行くことにした。
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