ナナ

楪 ぷぷ。

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6章

Suspicion

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今日も窓辺でお酒を飲む。



湊都はまだ仕事があるらしく、部屋でお仕事中。



光る街並みを見ながら私はララから聞いた話を湊都に相談するかどうか悩んでいた。



不審な行動…と言えばそうなのかもしれないけど。



空海さんの意図が分からない。



王雅さんとララが付き合っているのを知っている上でDouxに出向いてララを指名する意図が。



………嫌がらせ、とか。



考えたくもない考えが頭の中をグルグル駆け回る。



いや、そんなの絶対ありえない。



なにかもっと別の意図があるはず………。




例えば……。




……ダメだ。出てこない。




そもそもララに会いに行くだけなら納得出来る。




いつかの湊都みたいに。




でもそうじゃない。




きちんと娼館を“娼館として”使っている。




その意図は何だろう。



「はぁ……。」



ダメだ。考えすぎて頭痛くなりそう。



「どうした?ため息なんてついて。」



声に振り向くと湊都が心配そうな顔で私を見ていた。



「湊都…。仕事終わったの?」



「面倒だから明日やる。」



それでいいのか、社長。



湊都が床に座り、私をその腕の中に閉じ込める。



「何かあったか?」



「うん。まぁ………。」



「俺に相談できないことなのか?」



相談……していいのだろうか。



こんな私の憶測に過ぎない……もしかしたら全く検討はずれの“疑い”なんて。



「ナナ。」



「なに…?」



「いつも言ってるだろ。1人で抱え込むな。話せることなら全て俺に話せ。」



「……うん。分かった。」



そう返すと赤子をあやす様によしよし、と頭を撫でてくれる湊都。



「……実は、ララから聞いた話なんだけど…。Douxに空海さんが来たって…。」



「空海が?」



「うん……。それで…空海さんは王雅さんとララが付き合ってること…知ってるでしょ?」



「……あぁ。そうだな。」



「でも、それを知ってる上でDouxに行ってララを指名した、って…。」



「……。」



「会いに行くだけの目的なら私も納得出来たんだけど…。」




「ちゃんと最後まで…?」




「うん……したって。」




「………。」



「本当はこんなこと考えたくないし言いたくもないけど…。何かのいや……がらせ…とか。色々考えちゃって……。」



「……なるほどな。」



失望、させたかな。させたよね…。



こんなこと、考えるなんて……。



自分の非力さと貧相な考えに自分でも落胆する。



「ナナの言いたいことは分かった。ナナがさっき言ったことに負い目を感じてることも。」



想像とは違い優しい声色に驚いて湊都を見る。



「ナナが疑うのもよく分かる。俺が考えても恐らく同じような考えにたどり着いた。」



「ほん、とに…?」



「あぁ。………だいぶ怪しい。あいつはそんなことしない。何か意図がある。」



「意図、って……?」



「分からない。探ってみる必要がありそうだな。」



優しく微笑んでまた私の頭を撫でてくれる。



「よく話してくれたな。ありがとう。」




「……うん。」




王雅side



「何か進展は?」



「なしや。そっちは?」



「こっちもなし、だ。」



空海からララが狙われていると聞かされて約3週間が経った。



だが、関西の方でも関東の方でも怪しい動きは一切ない。



それが不思議でならない。



用意周到にこんなに大人しく準備…?



できるわけが無い。



空海は名の知れた情報屋、鴉の弟子であり2代目。



ましてや自分のホームなら情報を取り逃すようなことは99%有り得ないと言っても過言ではない。



そして関東はまずマークする数自体が少ない。



その中で怪しい動きを見逃す、なんてことも有り得ない。



じゃあ……なんだ。



今までで1番気持ちが悪い。



こんなにも情報が入ってこないなんて……。



「……空海。近々こっちに来れるか?直接会って話したい。」



「ええよ。丁度もうそろそろ行こう思っとったとこや。」



「あぁ。じゃあ、待ってる。」



ララは…いったい誰に狙われてるっていうんだ……。





「会社に…?王雅の?」



「あぁ。」



俺はララを守るべく、最終手段として会社に1度連れていくことを思いついた。



組長、若頭の妻や、それに値する者は守るべき存在(現にこの立ち位置の者は他の勢力から狙われやすく、過去にも重症を負わされたケースや、最悪死に至ったケースもある。)はお披露目会を通して組員全員に顔を知らせるようにする。



だが、俺はその立場じゃない。



お披露目会が開かれない、ということはララが何か危険に晒された時でも対処出来ない奴が多い、ということ。



丁度、この間のナナちゃんのように。



その代わり、会社に連れていけば少なくとも社員の組員達はララの顔を見ることになる。



俺の恋人として。



普通はこんなこと有り得ないから、会社に連れていくのだって正しい判断かどうかは分からない。



そもそも狙われるのはいつも、うちの組の場合ナナちゃんただ1人だ。



俺の周りなんて攻撃したところで意味が無い。



根本的に話がおかしいんだ。



本来狙われるはずのナナちゃんと狙われるはずのないララ。



そりゃ、街中でいきなり襲われる、みたいな話はあるだろうが、組をあげて潰しにかかるのはまず若頭の周囲。



何かが、おかしいんだ…。



それが何なのか…。



いくら考えても答えは出ない。



だったら最悪の事態が起こった時に、最善の対策ができるように備えるしかない。




「ナナちゃんにも会えるし…1回来ないか?」




「それは別に構わないけど…。大丈夫?仕事の邪魔になったりしない?」




「大丈夫だ。そこは別に気にしなくていい。」




「じゃあ…行く。王雅の仕事してる姿見たいし。」



「あんまり大した仕事してねーぞ?」



「そういうこと言う人に限ってめちゃくちゃかっこいいから安心して。」



「お、おう…?」






ナナside


「ララが?うちの会社に?」



「うん!でもやっぱり不安じゃん?だって社員全員天木組の組員なんでしょ?めちゃめちゃ怖かったらどうしようと思って。」



ララから珍しく電話がかかってきたと思えば、なんとうちの会社に遊びに来るとのこと。



「うーん、怖くはない、とは思う。多分。」



「え、なんか曖昧じゃない?」



挨拶は怖い。



人は怖くない。



たまに怖い。



一般人は多分そんな感じだとは思うけど…。



私も最近ようやく慣れて恐怖を感じなくなってきたくらいだし…。



「ララ、物怖じするタイプじゃないでしょ。」



「ま、まぁ…。でも不安じゃん!王雅の職場だよ?!失礼のないように、したい、じゃん…。」



「ララが失礼のないようにとか違和感しか無いんだけど。」



「……それが失礼なんだけど。」



「ごめんごめん。でも多分大丈夫だよ。ララが思ってるよりも…きっと。」



「そっか……。それ聞いてなんか安心した。とりあえず遊びに行くから無視しないでちゃんと構ってね~。」



「はいはい。」




「じゃ、またね~。」



「ばいばーい。」



通話終了ボタンを押して、着信の切れたスマホを見つめる。



ララが、会社に…か。



いきなりどうしたんだろ。




王雅さんが遊びに来いって言わない限り来ないと思うけど…。



なんで?



「電話終わったのか?」




「あ、うん。ララがうちの会社に遊びに来るらしいよ。」



「……何で?」



「知らないけど…でも王雅さんが誘わないと遊びになんて来ないよね?」



「そう、だな………。あいつ、何か隠してんのか…?」




「空海さんの話もそうだけどなんだかララの周りの話って最近謎が多いね。」



「あぁ。」




「なんかあったのかな…?」



「………まぁ、せっかく遊びに来るんだからその日は仕事しないで2人で雑談でもしてていいぞ。」



「え、ほんと?!」



「あぁ。なかなか会えないって言ってたしな。」



そう言う湊都に思い切り抱きつく。



「ありがとう、湊都!大好き!」



抱きついた私をしっかりと受け止め、少し笑いながら



「あぁ。知ってる。」




と呟きやさしいキスをしてくれた。




ララside



「ララちゃん、やっぱり可愛ええなぁ。」



私を後ろから抱きしめ、私の髪を指に巻きつけて遊ぶ空海さん。



「ありがとうございます。」



「ララちゃんって、彼氏おるん?」



「えー、なんですか~?いきなり~。」



「いやぁ~、こんな可愛ええ子だったら男は誰でも気になるやん?」




「ふふっ。いませんよ~。」



例えいたとしても仕事中に言うわけないでしょ?




私たちの仕事は“男をその気にさせて金を貢がせる”ことなんだから。




男が萎えるようなことは言わない。




これは鉄則だ。



ナナはそこら辺を上手く利用して金を巻き上げてたけど…私はそんなに器用なことは出来ない。



ただ男が悦ぶ言葉だけを口にする。




それだけで金を落としてくれる。




「………そうなんや。」




ぼそっと呟いたかと思えばベッドに押し倒される。




私の手を頭の腕でまとめあげ片手で留める。




優しいキスから激しく。




下着を取られて、体を貪られる。



ただ声をあげるだけ。



………楽な仕事だよ。なのに。



どうして最近こんなにも苦しくなるんだろう………?





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