ナナ

楪 ぷぷ。

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5章

boss

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「うわ、大きい。」


「本家だからな。」


「そういうもの?」


「そういうもの。」



The 日本 みたいな大きな家。



こういう家を表すのに豪邸以外の言葉はいらないと思う。



門を開けて中に入ると日本庭園が広がっていた。



「綺麗・・・。」



豪華絢爛な佇まいに圧倒される。



惜しみなくお金を注ぎ込まれたであろうこの家だからこそ出せる風格だった。



「お待ちしておりました、若。」


「久しぶりだな。」


「どうぞこちらへ。」



湊都よりも遥かに年上の人の案内の元、部屋へと連れていかれる。



「こちらで少々お待ちくださいませ。用意が整いましたらお呼び致します。」


「あぁ。頼む。」



静かに襖が閉められる。



「ナナ、少し休もう。」



ここまで来るのに時間はかからなかったからその類の疲労はないけどやっぱり心疲れはするものだ。



「凄いところだね。」


「そうか?」



やっぱり自分が育ってきた場所だから慣れてるのかな。



生まれた時からこの屋敷に住んでいれば・・・まぁ、そうなるか。



「何人くらいの人が住んでるの?」


「まぁ・・・組員全員じゃないから50くらいじゃないか?」

  

ひとつの屋敷に50人ってどれだけ広いのよ・・・。



「ねぇ、湊都。」


「ん?」


「湊都は・・・組長さんのことを尊敬してる?」


「あぁ。」


「湊都は組長になるの?」


「どうだろうな。現組長次第だ。俺にそれだけの器量があると判断されれば組長になる。判断されなかったらならない。それだけだ。」



やっぱり組織として最低限のルールってもんがあるのかな。



でも・・・これだけ多くの人達がこの屋敷に住んでいるということはやっぱり組長さんはそれなりの信頼がなきゃできないこと。



人の上に立つ人って・・・湊都を見てても思うけど・・・やっぱり器量、というかオーラが違う。



生まれ持っての何かがあるんだろうな。



人として上に立ちたいという欲は必ずしもあるはずなのに“組長になりたい”とはっきり言わない湊都の言動がその象徴だ。



私ならどんな手を使ってもNo.1になるためならいいと思ってたし。



そこが湊都と私の間にある器量の違い。



余裕の違い。



私ももっと大人にならなきゃな。






しばらくして、準備が整ったという報せを受けて組長さんのところに向かった。



長い廊下を渡り、何度も角を曲がってついた少し隔離された部屋。



ここにいることができるのは偉い人だけということは一目瞭然の部屋。



「親父、入るぞ。」



応答の声が聞こえ、襖を開ける湊。



「悪いな、忙しい時に。」


「親父の頼みだ。断れねぇよ。」



「うちの若頭は忠実で助かるなぁ。ま、そこに座れ。」



今のところ私に一瞥もしない組長さん。



とりあえず命じられたソファに湊都に手を引かれ腰掛ける。



キンッ。と音を鳴らしライターでタバコに火をつける組長さん。



煙を吐き出し、少しは落ち着いたのかこちらに視線を向ける。



「・・・で、そいつがお前の女か。」


「あぁ。」


「<ruby>Doux<rt>ドゥー</rt></ruby>の娼婦、だったか。高級娼婦だっただけあって容姿は申し分ないな。」



褒められているんだか貶されているんだか分からない組長さんの言葉に戸惑う。



「容姿だけじゃなくて中身もいい女だ。いつも親身になって俺を支えてくれてる。」



「ほぅ・・・。我が組の有能な若頭を支える女、か。それは無下にできないなぁ。」



威圧溢れる2人の会話に圧倒される。



なんなの、これ。

 

こんなに威圧的な会話の場、初めてだ。


「女。」


「は、はい。」


「湊都は我が組の有能な若頭だ。もし、お前さんが湊都の命を危険に晒すようなことをすることがあれば、わしはお前さんを湊都の傍に置いておくことは許せん。」


「・・・。」



「お前さんの命だって普通に生きるよりは危険に晒されるだろう。痛い目を見たくなきゃ湊都から離れるのが賢明だ。」


「親父!」


「お前は黙っとれ!」


あまりの威圧に体がピクっと反応する。


「勿論、湊都もお前さんをそんなことに巻き込まないよう全力を尽くす。それが男ってもんだ。だがな、守ると言っても100%守りきれるわけじゃない。お前さんも自分の行動には気をつけなきゃならん。」


「・・・。」


「それが湊都の、ヤクザの隣にいるということだ。」


「・・・。」


「覚悟が必要なんだ。それでも一緒にいたいか。」


「はい。」


「痛い目を見るとしても、だな。」


「はい。」



真っ直ぐに組長さんの目を見て答える。



「・・・いい返事だ。良かろう、認めよう。」


「親父・・・。」


「なに、分かっとる。お前たちが結婚するとかしないとかそういう話にまだなっとらんことは。だがな、覚悟もなしにお前の周りをうろちょろされても困るんだ。だから確認しておきたかっただけだ。」


「ありがとな。」


「礼を言うことなど何もないだろう。さ、さっさと部屋に戻れ。」









「流石だな。」


「ん?何が?」


「親父を目の前にして泣かない女はいない。」


「あー・・・。」



私も泣く寸前でしたけどね。



「泣いたら多分湊都に迷惑かかるし、何よりその程度の女としか見られないって思ったら涙くらい堪えられたよ。」



「ごめんな、怖かったろ。」



「うん、まぁ・・・。」



映画のヤクザとかオーバーすぎると思ってたけど逆にあれくらいじゃ生ぬるいかも。



多分ヤクザに囲まれたら恐怖のあまり声も出ないんだろうな・・・。



「あ、ねぇ、湊都。」


「なんだ?」


「組長さんのこと、親父って呼ぶのはヤクザの決まりなの?」


「あぁ。組員全員、組長は親父って呼ぶ。俺の場合は本当の親父だがな。」


「え。」


「・・・?言ってなかったか?」


「言ってない。」


「あー・・・それはすまん。」



確か湊都のお父さんって今湊都が社長を務めてる会社の創設者でもあるんだよね・・・?



・・・やっぱり化け物だ。
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