ナナ

楪 ぷぷ。

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5章

kitten

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「で、私に相談したいと。」


「そういうこと。」



仕事を辞めてから初めてララと会った。



「貴重な休日なんだからありがたく思いなさいよ。」


「ありがとう。」


「素直でよろしい。」



湊都にプレゼントするものを相談しにララとおしゃべりも含めてカフェで昼食。



「うーん。ナナはネックレス貰ってるんだからネックレスで返すっていうのもいいけど・・・。なんか無難だよね。」


「やっぱりそう思う?」


「うん。」


「何がいいかな・・・。」



ララはマフィンとミルクティー。



私はブラウニーとアールグレイ。



今回も“貴重な休みを”って奢らされた。



「・・・ジッポライターとかどう?」


「・・・いいかも。」


「オリジナルとかで作ってあげれば喜ぶんじゃない?」


「採用。」


「よし。決まったことだし食べよう。」



ララの目はもうマフィンに釘付け。



苦笑しながら私もブラウニーを口に運んだ。



「ナナ。」


「んー?」


「仕事辞めて暇じゃないの?」


「暇だよ。」


「新しく仕事しようとか思わないの?」


「彼氏が許してくれるかどうか・・・。」


「まぁ、Douxドゥーに来てたお客様なんだからお金には困らないわよね。」


「うん。」


「彼氏って結構厳しい人なの?」


「うーん。どうだろ。あんまり甘えたことないから分かんない。」


「甘えたことないの?」


「セックスの時くらい。」


「・・・ナナがそういう人だったの忘れてたわ。」


「大体甘えたところで何かしてくれる?」


「分かんないけど。やってみる価値はあるんじゃないの?」


「どうやって?」


「・・・仕事したいとか?」


「それって甘えるに入るの?」


「知らないわよ。」


「・・・。」


「何よ、その目は。」


「いや、別に?」


「仕方ないじゃない。“まともな”恋愛なんてしたことないんだから。」


「私だってできると思ってなかったわ。」


「・・・ナナの恋愛が“まとも”とは思えないけどね。」


「そう?」


「相手がヤクザってまともじゃないわよ。」


「・・・まぁ、そっか。そうだよね。」


「とりあえず、甘えてみたら?案外男って弱いわよ。」


「自信あるのね?」


「仕事でしてる。」


「・・・あぁ。そっか。」



妙に納得していると



「すいませーん。チーズケーキ下さーい。」



とララが店員に声をかけた。



「え。」


「人のお金なんだから、食べられるだけ食べないとね。」



・・・私、ララにどれだけ貢いだんだろう。












「ただいま。」


「おかえり。」



湊都の帰りは基本的に遅い。



「起きてたのか。」


「うん。」



それでも顔が見たくて頑張れる範囲で起きている。



湊都が普段どんな仕事をしてるのかは知らないけど、極道の世界だしきっと想像もつかない事なんだろう。



私みたいな人には未知の世界だ。



「ねぇ、湊都。」


「何だ?」


「仕事しちゃダメ?」


「・・・理由による。」



予想通りだ。



湊都はいつも私の意見とか考えとか思いとか。



真っ向から否定はしない。



1度受け入れてから一緒に考えてくれる。



「仕事辞めたら暇になっちゃって。」


「まぁ、そうだろうな。」


「湊都の休みも少ないし。」


「・・・。」


「だから仕事したいなって。」


「ナナ。」



酷く優しい声で私の名前を呼ぶ。



「おいで。」



湊都に手を引かれるままリビングのソファに腰かける。



「極道の世界っていうのはいつも命を狙われる。」


「うん・・・。」


「俺は出来る限りナナを外に出したくない。」


「・・・。」


「俺の手元から離れた場所で何かあってもすぐに対処出来ないから。」


「そう、だね。」



俯いて返事をする。



私は全然分かってないんだ。多分。



湊都と付き合うという事の重大さが。



天木湊都という人物がどういう立場にいるのか。



極道という職業が。



極道という世界が。



「でもナナの気持ちもよく分かる。誰とも一緒にいない時間は酷く孤独だ。」


「・・・。」


「あとはナナの覚悟次第だ。ナナの情報が他の組に流れて、もし俺の女だってバレたら、監禁されて拷問されるかもしれない。」


「・・・っ。」


「どうする?」



湊都の女である以上、軽々しく行動はできない。



改めて認識させられた。



自分勝手に生きられない。



我儘も通用しない。



貢いでくれる男もいないからどうにもならない。



全てがDouxドゥーにいた頃とは違う。



「・・・もし。」


「ん?」


「もし私が誘拐されて監禁されて拷問されたとしても湊都は助けに来てくれるでしょ?」


「あぁ。勿論だ。」


「なら・・・働きたい。」


「・・・ナナ。」


「湊都の隣に立つ女だよ。胸張って堂々としていなきゃ。そんなのに怯えてたら私この先何も出来なくなっちゃう。」


「・・・流石だな。」


「へ・・・?」


「流石・・・俺の惚れた女だよ。」



眉を下げて笑う湊都に何故か悲しい気持ちになる。



「分かった。ただし、働く先は俺が決める。それでいいか?」


「うん・・・。」


「いい子だ。」



頭を撫でられる。



たまに湊都は私を子供のように扱う時がある。



いつも“大人”でいることを求められていた私にはそれが少しくすぐったくて。



でも、嫌な気はしない。



湊都だから・・・?



微笑む湊都に微笑み返す。



湊都の胸に顔を埋める。



何も言わずとも後頭部に手を置き、引き寄せてくれる。



これが“甘える“ってことなのかな。
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