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しおりを挟むあのとき、とても、びっくりして。
俺と黒いのが、攻撃されたと認識してしまって。
防衛本能で。
俺はあの骸骨アイスドールを殺してしまった。
亜空間にしまえないってことは、生きてるってことだから。
だけど、俺は、しまえる。
そして、しまったものは、おしまいになって、
出してももう、動かない。
新しく始めても、それはもう、前のとは違う。
部屋の、天蓋付きのベッドの上に運ばれて。
黒いのに横抱きにされたまま。
黒いのが、俺から流れ落ちる涙を、硬い結晶になる前に舐めて綺麗にしてくれるけど。
なかなか泣きやめない。
俺は、風のに初めて会ったときに。
長く生きてる、強そうな竜で。
とても軽くて速く飛ぶ竜だから、捕まえるのが難しくて。
だけど、亜空間にしまってしまえるから大丈夫だって。
そう、思った。
氷のに初めて会ったときも。
その場のどの竜よりも、強くて。
人化した目元に鱗が出現するのを、制御できないほどで。
だけど、これも、竜化すれば亜空間にしまってしまえるから大丈夫だって。
それが、どういうことなのか、ちゃんと考えずに。
本能で。
「もぅ、、こわ、ぃぃ、、、!!!!!」
俺は、俺のことが、とてつもなく怖くなった。
まだ、雛で。
力もそんなにうまく使えなくて。
それでも、俺が本能のまま、暴走すれば。
何百年と生きた竜ですら、終わらせることができて。
もっと、時間が経ったなら。
世界のすべてを終わらせることもできる。
そのとき、俺と一緒に立ってるのは。
灰色のだけ。
そしてまた、いちから始める。
「しぃ。もう、なにも考えないで、眠って。大丈夫。ずっとそばにいるから」
ガチガチになった俺の体から、制服を亜空間にしまって、代わりにナイトウェアを、着せてくれて。
抱き込んで、ベッドに横になって、掛布でくるんでくれて。
背中をゆっくりなでられて。
意識が、とろとろしてしまう。
「いつも、俺の前に立って、守ろうとしてくれて、ありがとう」
その力を、拒絶しないで。
「だいすき。なにがあっても。変わらないから」
眠りに落ちる寸前。
黒いののそんな声が聞こえた。
ぼんやりと、淡く光っているような空間。
どこかで聞いたことがあるような、細い旋律の音が、小さく聞こえていて。
オルゴールの音かな。
どうして聞こえているのかも、わからないけれど。
ずっと聞こえてくるその音を、ぼうっと、聞いていて。
ただただぼんやり、していたら。
淡く光っているような真っ白な空間に、灰色の長い髪の毛の、黒色の軍服にも見えるワンピースを着た女の子が不意に現れて。
俺と目が合って。
にこりと笑いかけられて。
嬉しくなって俺もにこりと笑い返した。
『遅くなって、ごめんなさい』
女の子が、謝って。
いつの間にか、淡く光っていた真っ白な空間が闇色になっていて。
淡く光っているのが俺だけになって。
俺の光に照らされて、女の子が闇の中で浮かび上がって。
俺は、その闇がとても心地よくて。
女の子が俺を横抱きにしてくれるのに身を任せて。
俺はそっと目を閉じた。
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