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しおりを挟む氷のお城の中に入って、さらに驚く。
ものすごく広いエントランスホール、っていうの?
その上に、巨大なシャンデリア的な氷の飾りが吊り下げられてて。
やっぱり、歌いたくなるやつ。
もうきゅんきゅんが、忙しいんだけど。
だけど。
この氷のお城とか、テーマパークのあちこちに、ここをつくった氷竜の魔素の気配がして。
その魔素の多さと、魔力の綿密な使い方に、ちょっと、ふる、っと体が震えてしまう。
ここをつくった竜、相当、強い。
この氷と火山の大陸のフィールドも、大いに味方をしては、いるんだろうけど。
パキッ、と。
俺の顔の、左の目元辺りに鱗の結晶が出てしまって、慌てて片手で隠す。
服で隠れてる所も、たぶん鱗がパキパキ出てしまってる。
どうしたの、と。
そばにいた黒いのに覗き込まれるんだけど、ちょっと答えられる余裕がなくて。
そこに、チャラっとした風のが来て、
「え。防衛本能?」
だけど、俺が集中してるのは、もう少し奥の。
エントランスホールの階段の上から下りてきた、アイスブルーの髪の、体格のいい男の人。
人化して、風のより、だいぶ装飾は少ないけど、似たような貴族みたいな服を着てて。
その彼も、俺のことじっと見てて。
俺は自然と黒いのが自分の背中側になる位置で彼を見上げて。
先に視線をそらしたのは氷竜のほうだった。
「遠い所から、ようこそ。風のが、たぶんなにかしら騒動をおこしていると思うから、謝っておく。いろいろとつくったから、楽しんでいってほしい。いくつか温泉もあるから、好きなように過ごしてくれ。氷の城に、部屋を用意したから、談話室でお茶を飲んだら、案内をしよう」
落ち着いた、低い声でそう言ってくれて。
ようこそ、って。
歓迎してくれた。
「ひっど!いや、正解だけど。正解だけど!雛たちに紹介するね。あのデカいの、氷竜。氷のって呼んであげて。雛は、白銀のと、灰色のと、白いの。最近は色で呼ぶんだって」
風のがわーわー言いながら、紹介をしてくれて。
氷のと一緒に、俺たちを氷のお城の談話室に案内してくれた。
俺の目元の鱗が鎮まって、人化した皮膚に戻って、
服で隠れてる所の鱗も、気持ち落ち着いて。
よかった。
先に視線をそらしてくれて。
あれ以上目を合わせていたら、俺は竜化してた。
たぶんあの氷竜は、黒いのより大きくて。
重くて。
俺と同じくらい、氷でゴツゴツしてる。
でも。
俺の鱗のほうが硬いから、彼は俺を傷つけられないし、
最悪亜空間にしまってしまえば、終わらせられる。
だから、大丈夫。
俺は俺の本能が落ち着いてくれたのを感じて、ほっと力を抜いた。
氷のお城の談話室は、やっぱりあちこち床や天井や扉や壁が氷で。
でも絨毯とか、テーブルとか、椅子とか、その辺は木製の家具とかで、氷じゃなくて。
あと、暖炉とかは石造りで。
暖炉で火が燃えてるのに、部屋の氷がとけない。
氷に氷竜の魔素が含まれてるから、ちょっとのことじゃ、とけないみたい。
やっぱりすごい。
まあ俺たち竜だから、寒さは大丈夫で。
でも暖炉とかあると落ち着くよね。
様式美だっけ?
そういうの大事。
あと、召使いさんたちがいる。
人間のじゃなくて、氷の。
アイスゴーレムとか、あれの、すごく綺麗なやつ。
アイスドールっていうのかな?
魔素を含ませた氷で人形みたいな体をつくって、魔力を流して、ある程度の簡単な思考とかができたり、命令に従えるよう、つくられてる。
本当にすごい。
魔素と、魔力の扱い方が、うまい。
俺もつくりたい。
無理かな。
その召使いアイスドールさんがお茶を淹れてくれて。
俺はおみやげのクッキーの詰め合わせを氷のに渡して。
氷のが喜んでくれて。
せっかくだからみんなで食べようって、お茶と一緒に出してくれて。
俺は今度はちゃんと風のから距離をとってソファーに座って。
ちなみに席順は、
氷の、俺、黒いの、灰色の、赤いの、白いの、青いの、風の、で氷のに戻って一周する。
「それで?風の。どんな被害を出してきたんだ」
氷のがそんなふうに風のに訊いて、クッキー横からぱくっと騒動を話した風のに、氷のが大きくため息をついて、俺と黒いのにすまなかった、って謝って。
「もうしません本当にごめんなさい。その後のアレやコレやが衝撃的すぎる」
ちょっと遠い目になった風のの説明がよくわからなかった氷のが首をかしげるけど、
風のは頼むから訊くな、ってクッキーを口に放り込んで。
紅茶味のやつだ。
俺、それも好き、って。
思ったら目の前に黒いのが紅茶味のクッキーを持ってきてくれて。
ぱくっと食べて。
おいしくて幸せになった。
氷のが、人間の世界で変わったこととか、なにかあるかって訊いて、青いのと赤いのが、最近あったあの呪いの首飾り事件の話をして。
調べたこととかを話してて。
大人組の情報交換、ってやつかな?
俺にはちょっと、難しくて頭がぼうっとしちゃうんだけど。
白いのと灰色のは、退屈じゃないのかな。
たぶんあの事件に関する話をまるっとまとめると、さっぱりわからない、って感じ?
誰が呪いの首飾りをつくったかとか。
どこでつくってるのかとか。
あのお姫様に首飾りを渡した司教様って人から話を聴いてる途中で、なぜか牢屋からいなくなっちゃったらしくて。
王都からたくさん人が来て、たくさん調べてたけど、調べきれずに終わっちゃった、みたいな?
俺が首飾りを跡形もなく壊しちゃったし。
というか、偉い人とか、毎日たくさんのアクセサリーを身につけるから、それが呪われてるのかどうなのかって、見分けがつかないから、どうしようって、なるよね。
アクセサリーをなしにするのはちょっと無理だし。
そもそも呪われてる本人は、呪われてるって気づかないから、そこからしてもうお手上げ?
ちなみに前に、黒いのに、俺ができるので、こんなのがあるよ、って。
伝えようとしたんだけど。
口にする前に、黒いのが手で俺の口をそっと押さえて、
「お願い。言わないで。お願い」
黒いの的にはナシだったらしい。
俺の鱗とか剥がして、あちこちにばら撒けば、呪いとか、悪いものを浄化できるんじゃない?って。
黒いの的に、それは俺がなますぎりになってあちこちに持っていかれるような気になるらしい。
俺が、あちこちで生活してれば、自然と魔素が流れ出て、その地がゆっくり浄化されていくから、気長にそれでもいいんだけど。
黒いのが嫌がることはしたくないし、いいか。
気長にいこう。
ナッツののったクッキーも差し出されて、ぱくっと食べて。
おいしくて幸せ。
、、、俺の興味は目の前のクッキーに集中しました。
大人組たちの情報交換も終わって、
この氷と火山の大陸の日照時間がだいぶ短くて、
そろそろ夕暮れ時?そんな時間になっちゃってて。
また明日、テーマパークと温泉に行くことにして。
今日はもう休むことになって。
そろそろ部屋に案内してもらうことになったんだけど、
そこで、赤いのが、
「遅くなったけれど、産卵、おめでとう」
そう言って、ひとかかえほどの大輪の薔薇の花束を風のに渡してた。
城塞都市のお城の薔薇園の薔薇だ。
え、産卵?って。
びっくりしたけど、風のが少し前に卵を産んだらしい。
慌てておめでとうございます、って言った。
風のが、笑ってありがとう、って言ってる耳元に赤いのが近づいて、こそ、っとなにかを言ったら、風のが真っ赤になって。
、、、、ソファーに沈んだ?
赤いの、なんて言ったんだろ。
みんなにおやすみなさいの挨拶をして、
それぞれ召使いアイスドールさんに部屋まで案内されて。
俺は黒いのと部屋に入った。
すっごい!
すっごい!
すっごい!
お部屋が豪華でめちゃめちゃ綺麗!!!!!
なんだっけ、物語の王子様とか、お姫様とかの部屋って、こんな感じ?
もしくは、貴族的?
あちこち装飾がしてあって。
どれも細かい。
床も天井も扉も壁も氷なんだけど、絨毯とか家具とか、布製品は氷じゃなくて。
刺繍とか細かくて、すごく高そう。
城塞都市の塔の部屋は、だいぶ機能的な感じにしてあるから。
たまにはこういう部屋に泊まるのもいいね!
あと、床から天井まである大きな窓も、格子も全部氷で、薄い氷は窓ガラスみたいになってて、外の景色が見える。
もう太陽は沈んでて、でも空気が澄んでて、星がめちゃめちゃ綺麗に光ってて。
その、下に、テーマパークが見えて。
お城もテーマパークも、ライトアップされてるぅ、、!!!!!
もう絶景。
これたぶん外から氷のお城を含めて見たら、すごい景色になると思う。
今その氷のお城の中にいるんだって思ったら、
きゅんきゅんが止まらない。
来てよかったぁぁ、、、、、!!!!!
ちなみにこのライトアップ、俺が、手のひらサイズの丸い障壁の中に光を入れて、さっき、氷のに渡して。
それを風のがあちこちに風で運んで、設置したやつ。
やっぱりテーマパークの夜といえばライトアップだよね。
うまくいってよかった。
氷のお城の中にはあちこちランプが置かれてるんだけど、外はやっぱり寒いのと風で、火は消えちゃうみたいで。
障壁の中に俺の魔力でつくった光を入れちゃえば、結構長くもつと思って。
ちなみに光の色は、蛍光灯みたいな色じゃないよ。
光の三原色?っていうのを赤いのが教えてくれて。
全部同じ強さで混ぜちゃうから白くて、強度を変えて混ぜるといろんな色になる。
そもそも光は粒と波?
しかも目に見えるのと見えないのとがあって、
色が見えるのも、目の細胞が刺激を受けて興奮して電気信号を脳に送ってる?
赤いのの説明って細かい!!!!!
俺はほとんど感覚的に生きてるから、ふわっとしかわからない。
でも、頑張って赤いのの話を飲み込んで、俺の出す光の色が変わった。
赤、青、緑、が基本で、
それを混ぜると赤紫、空色、黄色ができて、
全部混ぜるから白になる。
手のひらサイズの丸い障壁には、いろんな色の光を入れて渡したから、テーマパークのあちこちをカラフルにできる。
俺の感性で、お城はなんとなく空色がいいと思ったから、空色を多くして、
テーマパークの中はピンク寄りの赤紫を多くして、
白も入れて、
でも気分が変わったとき用に、他の色も渡してあるから。
いいように変えてくれるって。
風のが、まかせろ、って言ってくれたから、めちゃめちゃ楽しみ。
「綺麗だね」
黒いのも一緒に窓の外の景色を眺めて、喜んでくれて。
俺はとても嬉しくなった。
そのまま、かぷ、っと黒いのに口づけされて。
しばらく夢中で舌を追いかけて。
流れ込んでくる魔素が、気持ちよくて。
体がうずうずしてしまって。
うしろがひくり、としてしまって。
キスが終わって俺は、真っ赤になって黒いのの胸元に顔をうずめた。
「体は、もう平気?」
そう訊かれた。
どこも、痛くない。大丈夫。
俺は小さく頷いたんだけど。
「でも、俺のをこの体で受け入れるのは、少し早いから、入るように、頑張って拡張、しようね?」
ええと?
黒いのの言ってることが、ちょっと、わからない。
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