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しおりを挟む俺は今、ここの城塞都市の城主様宛に、『休暇届』を書いている。
ちなみにこの世界の人間の言葉もわかるし、文字も書ける。
俺たち竜は魔素でできてるから、世界の情報も、あちこち魔素に流れてて。
その魔素の集合体の竜は、生まれたときからある程度の世界の情報が頭にあるし、不足してるところは他の竜の魔素をもらったりして、補うことができる。
その、魔素を、そ、、そそがれたりして、、、
まって。
字が歪む。
すぅ、はぁ、と。
大きく息を吸って、吐けば、俺の向かい側でお茶を飲んでる黒いのが、どうしたの?って首を傾けてくる。
それに、なんでもないです、って首を振って。
ちゃんと集中する。
申請日のとこは、今日の日付。
所属は、、、城塞都市の、塔?塔で伝わるの?すごい。
氏名、クリスタルドラゴン、、、じゃなくて晶竜、じゃなくて、白銀竜、これだ。
俺たちが色で呼び合ってるから、人間たちが俺たちのことを色に竜をつけて呼ぶから、このほうが伝わりやすい。
べつにどれでもいいんだけどね。
期間、は、、ちょっと、でいいの?あでも、ちょっとってそれどのくらい??
人間のちょっとと竜のちょっとって、もしかしなくてもかなり違ってる?
竜のちょっと、は年。単位、とかあるあるだし。
とりあえず、一週間くらいですとかのほうがいいかな?でも、うっかり長居しちゃうこともあるかもだから、一か月、とかのほうがいいのかな。
ここは、青いのに確認したほうがいい?黒いのは、適当でいいよって言うんだけど。
えぇと、事由。温泉旅行に、行ってきます、っと。
備考、、あれ?黒いの、書いてない??
風のドラゴン、じゃわかりにくいかな?でも、この竜は色で自分のこと呼ばないみたいだから、風竜、でいいかな。
ええと、その、風竜に誘われました。
氷竜がテーマパークをつくったので、みんなで出かけてきます、っと。
一応書いてもいいか黒いのに確認して、いいよ、って言われたので書き込む。
承認欄、、、ここに、城主様のサインかなにか、もらうんだよね。
よし。できた。
俺は手袋越しに握ったガラスペンをそっと机に置いて、書き上げたばかりの書類を眺める。
ちなみに横に黒いのが書いたやつを置いて、お手本にしてて。
黒いのは、とても綺麗な文字を書いてる。
流麗、っていうのかな?
飾文字みたい。
こんな綺麗な文字を書くのは俺にはちょっとまだ難しい。
手袋してるし。
ガラスペンが折れないか内心ドキドキだし。
書いてるうちにだんだん字が下がっていっちゃうようなレベル?
もしくは気をつけて書いて、でも結局ガッタガタになるようなレベル。
達筆への道のりは遠い。はぁ。
インクが滲まないように、書類にふう、と息を吹きかけて、黒いのに、できたよ、と顔を向けたら。
「かわいい」
そんなことを言われた。
なんでだろ。
ちょっとよくわからない。
俺の書き上げた書類をさっと取って、黒いのが、
「これ、出さなくてもいいかな?俺のも出すんだし、他のも出すんだから、一枚くらい、なくても大丈夫だよね?俺の休暇届の備考欄に、一緒に行くって、書いておけば伝わるよね?」
えっ。
いらないの、それ!?
頑張って、書いたんだけどな。
青いのに書類をもらって、適当でいいから書けって言われて。
城塞都市の塔の黒いのの部屋で、書いてたところなんだけど。
「ごめんなさい。下手でしたか?」
気持ちしょぼんとして訊いたら、黒いのの縦長の瞳孔がふわ、とちょっと大きくなって。
「かわいい」
はい?
だから、なにが。
「書いてるところもかわいかったし、初めて文字、書いたんだよね?かわいいが過ぎる。俺がもらいたい。提出したくない。俺のにしたい」
えぇえ、、、?
確かに、生まれて初めて文字を書いた。
しかもガラスペンで。
ちなみにこのガラスペン、黒いのがつくったらしい。
すごい。
めちゃめちゃ綺麗。
透明なガラスに、純金が焼きつけてあるデザイン。
俺には詳しくはわからないけど、
先端の細い溝が、毛細管現象でインクを吸い上げるんだっけ?
一度インクを吸い上げたら、結構たくさん文字が書ける。
でも細くて繊細で、加減を間違えて折らないか俺はちょっと緊張する。
とても硬いガラスだから、大丈夫だよ、とは言われたけど。
いろんな色のガラスペンを見せてくれて、どれがいい?って訊かれて。
もうすんごくきゅんきゅんしたんだけど。
一番強度の強いやつを貸してくださいってお願いした。
壊れてもまたつくるから気にしないで?って言われたけど。
無理。俺の心が折れる。
ちなみにこのガラスペンはあげるって黒いのがくれた。
めちゃめちゃうれしい。
インク瓶とセットでくれたから、亜空間にしまう。
あと、紙は獣皮紙?
狩った動物や魔獣の肉を食べて、余った皮は洗って余分な毛とかを削いで、薄く伸ばして乾かして、紙にしてる?
紙っていうか、皮??
皮なのに、なんで紙って文字がつくんだろうね。
木の繊維を使ってつくる紙もあるけど、それはメモ帳みたいな感じで使われてる。
繊維紙のほうがつくりやすいんだって。
どっちも城塞都市の外で職人さんがつくって、搬入されてるんだって。
あと、長期保存に向いてるのが魔獣の皮で、正式な書類とか、契約書みたいな重要書類はそれに書くらしい。
今書いた休暇届の書類も魔獣の皮で、高級!失敗できない!って緊張した。
黒いのは普通にさらさらさらっと書いてたけど。
慣れかな?
コンコンコンと部屋の扉がノックされて、黒いのがちょっとため息をついて、開けてもいいって意味で、部屋に張った障壁を消す。
うん。張ってました。障壁。
なんでかは、あとで説明します。
ちょっと、いろいろあって。
「書けたか?」
青いのが数枚の獣皮紙を片手に扉を開けて、入ってくる。
白い軍服みたいな制服姿で書類を持ってるから、なんだかすごく仕事のできるお役所の人みたい?
黒いのが、手に持ってる俺が書いた書類をなかなか青いのに渡さないから、青いのがなんだ、って首をかしげてる。
ええと、黒いのはそれを渡したくないみたいです。
困ったな。
せっかく書いたから、できれば俺は、提出、したいんだけど、、って、そうだ、その書類まだ未完だった。
俺はテーブルに置いてあった黒いのが書いた書類を青いのに見せて、気になってたところを質問した。
「あの、期間のところが、よくわからなくて。黒いのは、ちょっと、って書いてて。一週間、とか、ちゃんと書いたほうがいいですか?」
俺が渡した黒いのの書いた休暇届に目を通した青いのが、いや、と首を振る。
「あくまで形式的なものだからな。出すことが重要、くらいでいい。人間たちは決まり事が好きだから、あれらが書くなら細かいところまで書くんだろうが、俺たちは竜だから、適当でいい。ちょっと、とか、気分、とかでもいいぞ」
とにかく休暇で遊びにいってることが伝わればいい、って。
この休暇届、俺たち竜が城塞都市からいなくなって、王都の偉い人たちからなんで、って問い合わせがあったときに使うらしい。
俺たち竜はどこの国にも属してないから、基本的にどこにいてもよくて、好きな所に好きなだけいていいんだけど。
そのうち戻ってきます、とか。
そのへんをふわっと伝えておくと喜ばれるんだって。
ええと、ほうれん草?
たぶん違う。
報連相、これだ。
いや、ちょっとふわっとした報連相だなって思うんだけど。
でも確かに、日付をきちんと数えるの、苦手かも。
一度寝落ちたら、数日寝るのとか、しちゃうし。
ちなみに冬眠しよう、とか?そんな感じで寝たら余裕で年単位で寝れる。
たぶん百年とか。
寝ようと思えば寝れる。
この体、ごはんとか、いらないから。
そうだ。
期間のとこ、空欄にしたままだった。
ちゃんと書かないと、って。
俺の書いた休暇届を見たら、黒いのが休暇届を持ったまま、青いのと喧嘩?してた。
「渡せ」
「嫌だ。俺の休暇届の備考欄に一言書けばいいだろう」
「いや、せっかく書いたんだから、出せばいいだろう」
「嫌だ」
「はぁ」
ええと、青いのが、困ってる?
みんな書いてるみたいだし、せっかく書いたから、俺も出せたら出したいんだけど。
でも黒いのは嫌がってるし、、、
俺はふと思いついて、亜空間からガラスペンをもう一度取り出して、練習用にって黒いのがくれた獣皮紙も出して、そこに文字を書いた。
『黒いのへ ガラスペンありがとう だいすき』
もうちょっと、かっこいい言い回しとか、飾文字とか?
そういうので書ければ、いいんだけど。
俺から黒いのへ、初めてのお手紙?
一応、今日の日付も書いておく。
あとから見たとき記念日がわかるのっていいよね。
ガラスペンをしまって、獣皮紙の両端を持って、ふう、と息を吹きかけて乾かして。
黒いのに、そっと差し出してみる。
「お手紙、受け取ってくれますか?」
あんまり上手じゃ、ないんだけれど、って。
差し出したら、
青いのと喧嘩してた黒いのが、嬉しそうに笑ってくれて、
「もちろん。ありがとう」
受け取ってくれた。
嬉しい。
あと、黒いのが持ってた休暇届はさっと青いのが回収してた。
期間のところは空欄なんだけど、問題ないらしい。
ふわっと報連相。
青いのが部屋を出ていって、また黒いのが部屋に障壁を張って。
というか、青いのが入ってきたときに張り直して、出ていったあとにまた張り直して。
黒いのがお茶のポットを持って、魔力で少し温めてくれて。
カップにお茶のおかわりをそそいでくれた。
苺ジャムのクッキーと、他のジャムのクッキーと、茶葉を練り込んだクッキーかな?あと、木の実がのってるクッキーもある。
いろんなお菓子が少しずつ綺麗なお皿にのせられてて、
黒いのがどれにする?って訊いてくれる。
ちなみに、クッキーののった綺麗なお皿は黒いのの近くにあって。
俺はちょっと気になった他のジャムのクッキーを選んで。
黒いのが、それをつまんで、
「きて?」
その、黒いのが、膝の上においでって。
俺はお茶のカップとソーサーを両手で持って、そろそろと黒いのの所へ移動して、膝の上にちまっと腰かけて。
黒いのが俺の腰を抱いて支えてくれて、
つまんだなにかのジャムのついたクッキーを食べさせてくれる。
おいしい。
ブルーベリーとか、ラズベリーかな?複数のベリー系の混ざった酸味のあるジャムだった。
個人的にはベリー系の酸味のある甘さが好きだから、嬉しくて、口角が上がってしまう。
手袋のままなんとかこぼさずにお茶を飲む。
今日のお茶には薔薇のジャムが添えてあって、混ぜて飲むとほんのり甘くて、ふわっと薔薇の香りがしてとてもおいしい。
あったかい飲み物って、ほっとする。
この城塞都市、お砂糖入りのジャムとか、結構保存食として作られてるらしい。
クッキーとかも、パンよりちょっと日持ちするから、よく作られてるんだって。
塔で出されるのは、上品に食べられるようにか、クッキーはやや小さめのサイズで。
クッキーのまんなかの部分が少しへこんでて、
そこにこぼれないようにジャムがつけられてるやつ。
見た目にとても綺麗で。
俺はこのクッキーが好きなんだけど。
「黒いのは、どれにする?」
おいしいよ、と。
お茶をテーブルにそっと置いて、
どれを選ぶのかな、と黒いのを見たら、俺の腰を抱いて支えてるのと反対の手がするりと頬に伸びてきて、顔を固定されてかぷ、っと口づけされた。
いきなりでびっくりして、体が逃げようとしてしまって。
腰に回されてる腕に力が入れられて、しかも膝に座ってた体勢から、膝をまたいで座るような体勢にさせられる。
首の後ろに手が移動して、ますます逃げられなくなる。
その、逃げるつもりは、ないんだけど。
まって、息、苦し、魔素が、たくさんあふれて、うわ、、!
俺は黒いのみたいに慣れてないから、すぐ息が上がってしまって、心臓もバクバクで。
魔素も、ぐるぐるで。
黒いのの、黒い軍服みたいな制服の胸元に手袋をした手をついて、
ちょっと休憩したいのだけど、黒いのが離してくれないから、そのうち腕もぷるぷるして。
口の中の気持ちいいところを全部こすられて、背中はゾクゾクするし、魔素はぐるぐるだし、こ、腰が、ずくん、として。
じわ、と勝手に涙が出てきた頃に、ようやく口を離してもらえて。
俺は息も絶え絶えで、支えてもらってなかったら、くたりと倒れ込んでる。
ぼんやりと黒いのを見れば、
ちょっと泣きそうな黒いのが、
「求愛給餌、俺だけにして」
ああやっぱり。
まだ、引きずってた。
あれは、事故です。
不本意です。
俺の意思じゃない。
俺が持ってたクッキーを、風竜が勝手に食べただけです。
断じて求愛給餌じゃないと、思うのだけど。
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