『第四世界』

ナカムラ

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お城の大広間っていう所で、人間がたくさん集まってて。
みんな、一段高くなった場所にいる、黒いのと、お城のお姫様のことを嬉しそうに見てる。
俺はまだ挨拶ができていないんだけど、このお城の城主様と、ご子息様もいる。
ご子息様はまだ子どもなのかな?俺と、同じくらいに見える。


黒いのは、白い軍服みたいな制服を着てて。
俺が、昨日まで着てたのと同じ色。
お姫様のドレスが綺麗に見えるように、お城の人が白い制服を着てくれって言ったらしい。





綺麗だな、と思う。





ほっそりとしたお姫様が、とてもすてきなシャンパンゴールドのドレスを着てて、黒いのと並んで、大広間に集まった人たちのほうを向いてる。
ふたりの前に、台が置かれて、その上になにかの紙が置いてあって。
ふたりはそろってそれに、サインをするらしい。
それで、お姫様と黒いのが婚約をしたことになって、
その紙が王都の王様の所に運ばれて、王様がいいよって言ったら、一年後にお姫様と黒いのが結婚をして、ふたりが夫婦になって。
それで子どもをつくるらしい。



お姫様が望んで、黒いのも望めば、子どもができて。
人間と竜の合いの子ができて。
新しく竜人っていうのが生まれるみたい。
何人つくるのか、知らないけど。



青いのが、きっとこの先その竜人が王都の王族と結婚したりして、この世界の人間とたくさん混ざって、世界を安定させていくんじゃないかって話してくれた。



あと、人間の寿命は長くても百年もないから、それまでには黒いのが俺の所に帰ってくるだろうって。



その間、どこで待つか、青いのに訊かれて。
俺は答えられなかった。
この城塞都市の、竜たちが暮らす塔に、俺の部屋が用意されたし、
少し離れた所に黒いのがつくった巣穴があるし、
もっと離れた所には俺が生まれた雪山がある。






でも、どこも、俺にはつらくて。





青いのに、なるべく目の届く所にいてほしいって、言われたんだけど。


きゅ、っと。
黒い革手袋をはめた手に力が入ってしまって。
でも、うまく力を抜くことができない。


俺は今、白いのと、灰色のと一緒に、大広間を見下ろすことができる、建物の上のほうにいる。
黒いのが白い制服を着てるから、
俺は今日は反対に黒い制服をお願いして着させてもらった。
初めは避けた色だけど、なぜか今日はこの色が落ち着く。
色だけでも、俺のそばにいてくれる気になるからかな?



黒いのは呪いにかかってて、不安定だから、なるべく刺激をしないように、近くに行かないほうがいいって、赤いのに言われて。
でも、ある程度離れて気配を隠せば大丈夫だから、今日の婚約式を見にいくか訊かれて、頷いて。
灰色のが、俺の気配を隠してくれた。



「私は闇竜だから、こういうのは、得意なの」



灰色ののおかげで、俺は黒いのに気づかれないで大広間を見下ろすことができてる。
俺のきゅっと握った手を、灰色のが上からつつむみたいにそっと両手で触ってくれて、
反対側に、白いのがいてくれて、
青いのと赤いのは、下の大広間の所にいる。





もう、どこか、遠くに行こうかな。
どこか、どこでもいいから。遠くに。




ぼんやりと、黒いのの姿を見て。


かっこいいな、って。ぼんやりと思う。
背が高くて、すらっとしてて。
均整のとれた体格って、いうのかな。
髪の色は、竜体のときと同じ黒で。
白い制服が、とても似合ってる。




俺、あのかっこいい人と、結婚してたんだ。




今でもしてるって言えるのか、ちょっと、わからないんだけど。
俺を巣穴に連れていってくれて、
巣穴をキラキラにしてくれて、
いつも、空中に赤い炎の照明を焚いててくれて、
俺に、おいしい石を持って帰ってくれて、
食べさせてくれて。







俺のことを、大事にしてくれた。





俺は、幸せだったから。
最後に、さよならと、ありがとうが、言いたくて。
ここまで来た。








、、言えたかな、俺。
ちょっと、わかんない。




俺はそっと視線を下ろした。






もう、ここを、離れよう。
どこか、ずっと、遠くへ。






竜人が生まれて、世界が安定するのだとしても。


なぜだか俺は、それを見たくない。


俺はここに、いたくない。





黒い革手袋をはめた手を、強く握りしめて。
強く目を閉じた。








そのとき。























たくさんの人間の、息を呑む音と、
ざわりとした、不穏な空気。



顔を上げたら、黒いのの胸元辺りが、崩壊しはじめてて。



「黒竜様、、!」



近くにいたお姫様が、黒いのの胸元に手を伸ばして、



「わたくしは、こんなことを、望んだのではありません!誰か、これを、呪いの首飾りを、外してください!」



黒いのの崩壊しはじめた胸元に、白い制服の下に身につけていた、首飾りが見えていて。
お姫様が、むりやりその首飾りを外そうとして、一瞬で手袋が魔力で焼けてぼろぼろになって、高濃度の魔力にあてられたお姫様は意識をなくして倒れた。



「姉様!!!!!」



城主様のご子息様が叫んで。
倒れたお姫様を、城主様がかかえて、青いのが障壁を張りつつ城主様とお姫様とご子息様を下がらせて。
大広間の人間たちは、あふれ出てる黒いのの魔力にあてられて、ほとんど意識をなくして倒れてる。
赤いのが、大広間の人間たちを守るように、障壁を張ったんだけど。
それでも駄目で。






阿鼻叫喚って。
こういうのを、言うんだっけ?
でも、誰ももう、叫んでないから、違うのかな?




俺は、握りしめた俺の手を上から握ってくれてた灰色のの手をとんとんして、そっとほどいて、大広間を見下ろせる上のとこから無造作にストンと、、うん、建物の二階から一階に下りるみたいに、かな。下りて。



ゆっくりと前に進んで、黒いののとこに行く。
黒いのとお姫様の前にあったはずの紙は、あふれた魔力で燃えてなくなっちゃったみたい。



近くにきて、よくわかる。
黒いのは、自我を崩壊させたんじゃなくて。
肉体を崩壊させたんだって。



自我を縛られて、誘導されて。
流されれば、楽なのに。
抵抗して、自我が崩壊して、竜体になって暴れるところを、
自我を保ったまま、わざと内部から肉体を崩壊させることで、体が暴れないように、って。
このままだと、魔素に還ってしまう。



手を伸ばして、黒いのの胸元にある首飾りの、宝石を片手で握りしめて。
魔力を込める。
これは、触れた者の魔力を吸って、動いてるみたいだから。


赤いのと、青いのが、近づいてこようとしてるけど、ちょっと危ないから、俺たちを中心に球状の障壁を張って。











俺の口元はたぶん、笑ってた。



なぜかはわからないけど、大丈夫だと、感じる。





魔力を吸いたいなら、吸えばいい。
















































吸いきれるものなら。


























手の中で宝石の温度がありえないほどに上がって。
白く光って溶けて。
跡形も残さず消えた。
俺の手のひらには、傷ひとつついてない。
、、、というか手袋したままなんだけど。手袋も無事です。
なんでかって?
、、、わかんない。
わお、魔法みたいだね。
まあたぶん、完璧に魔力をコントロールしてるから、が。答えなんだと思う。










黒いのは俺より大きいから、
頑張って背伸びをして。
、、、それでもたりないから、黒いのの体をちょっとひっぱって。
かぷ、っと口づけて。
そっと魔力を流す。







遠い昔の話に、なるけれど。
厨二病を発症するほどのこの想像力を。
舐めないでほしい。


ほとんど、思い出せないんだけど。
ここより前の世界に。
とっても楽しい世界が、あったんだよね。


魔法とか、こうだよね?って、世界を変えるってことだから。
イメージが強ければ強いほど。
世界を変えやすい。



まあ、あまり、昔のことは、細かいところまでは、思い出せないんだけど。
ネット小説とかネット小説とかネット小説とか。
なんだかたくさん、あった気がする。
あれ、おもしろいよね。
ほんと。
ああいうのって、ほんと、ザ・想像力。








そっと離れて、黒いのの胸元を見れば。
崩壊しかけてた体が形を取り戻してた。
黒いのが目を開けて、俺のことを見てくれたから。
下から見上げて。





「おうちに、つれてかえってくれる?」






おれも、いっしょに。




そう、訊いたら。
次の瞬間、
戦車ほどの大きさのブラックドラゴンに、パクッと咥えられて。




俺は連れ去られてた。















ちなみに俺の張った障壁は、ちゃんと消しといたよ。
ごんってぶつかると、痛いからね。



あと、大広間の大きな扉が壊れたのって、あとで城主様に、怒られるのかな?
どうしよう。
怒られたら、俺の鱗を剥がしてごめんなさいすれば、許してくれるかな。
青いのがやるなって言ってたけど。







だめ おねがいやめて






そんな声、っていうか、思念が伝わってきた。
やっぱり駄目らしい。


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