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10 黒竜視点
しおりを挟む帰りたい。
帰りたい。
帰りたい。
帰らないと、いけない。
もう、夜だ。
いや違う。
姫はここにいる。
ここにいないといけない。
ここにいて、よりそわないと。
、、、イライラする。
俺は、城に用意された部屋で、暗くなった窓の外を眺めて。
イライラしてる。
なんでだろう。
ここ最近、ずっと、イライラしている。
ちょっと前までは、モヤモヤ程度だったけれど。
なぜだか焦りに変わって、
もう最近は、ずっと、イライラしている。
窓の外では、暗くなった城塞都市のあちこちに夜間警備のための篝火が点々と見えて、
夜空にはキラキラの星がまたたいている。
キラキラの、星、、、
イッラア、、ッ!!!!!
ミシリ、と。
あらかじめ障壁で保護した窓ガラスが、割れそうになってハッとする。
何日か前に割ってしまって。
最近は部屋に入って障壁を張るようにしていて。
よかった。
割れてない。
最近ろくに、寝られない。
この部屋に、寝台は用意されているけれど。
なぜか、横になって眠る気にならない。
落ち着けと。
息を吐いて。
そうして今夜も、夜が明けていく。
、、、夜が、明けてしまった。
姫に茶に誘われて。
深く考えることもなく応じる。
人化していても竜だから、そもそもエネルギー摂取が不要で、喉も渇かないから、あまり意味のない行為ではあるけれど。
赤いのは、茶を飲むという行為と、その時間そのものを楽しむためによく茶を飲んでいるけれど。
茶も、並べられた色とりどりの綺麗な菓子も、俺の興味を引くことはない。
それより、適当に魔獣の討伐に出かけて、報奨で魔石をもらいたい。
自分で鉱山に行ってとってもいいけれど、竜体で鉱山を破壊すると周辺の被害がデカイから、あまりいい顔をされないし。
繊細な作業は人間のほうが得意だから、彼らが丁寧に採掘したものをもらうほうが、双方有益だから。
魔獣は肉や血液に魔素をたくさん含んでいるから、討伐したら亜空間に入れて、人間に渡すと喜ばれる。
彼らは魔素を含む動植物を摂取して、魔力の補充をしているから。
魔素を体内に取り込んで、溜め続ければ、魔力になる。
俺たち竜は、魔獣は食べない。
魔石のほうが魔素が固まって、魔力を帯びているから、食べるならそっちのほうが、、、おいしいと思う。
きっと、よろこんで、たべてくれ、る
ダレ、ガ?
ピッ、と。
繊細なカップにヒビが入ってしまい、茶がこぼれそうになる。
「すまない。加減を間違えた」
姫が侍女に命じて、茶器が下げられて、すぐに新しい茶に替えられる。
新しく淹れられた茶をぼんやりと眺めていたら、中庭に近づいてくる青いのの気配。
珍しい。
姫と俺が茶を飲んでるだけの空間に、なんの用だろう。
ぼうっとしていたら、姫が青いのと喋って。
青いのが亜空間からなぜか茶器を取り出して。
俺はその茶器にくぎづけになった。
青いのが姫と喋ってる。
でも内容が頭に入ってこない。
どうでもいい。
青いのが持ってるそれが欲しい。
手を伸ばして、茶器を取る。
冷めた茶の入ったカップと、ソーサーにいくつか置かれた、赤いジャムのついたクッキー。
誰かが近づいてきて、俺からコレを奪おうとする。
「触るな。俺のだ」
なにかが倒れる音がした。
素で殺気を放ってしまった気もするが、そんなのどうでもいい。
赤いジャムのついたクッキーが、色鮮やかで。
ひとつ口に入れて、夢中になって全部食べて。
茶も、一滴残らずすべて飲み干して。
誰かに奪われる前に、大事な茶器を亜空間にしまう。
満たされる。
ひさびさに、心地がいい。
久方ぶりに味わう、その気配に。
しばし酔いしれるけれど。
塔に行くかという青いのの誘いに、頷くことができない。
青いのが、なぜか姫を問い詰めて。
姫が、真っ青になりながら、
呪いの首輪と言った。
ふと、今まで気にしていなかった首元の首飾りに、制服の上から触れる。
しまいこんで、肌に触れさせるように身につけていたらしい。
ほぼ、忘れていた。
そういえば、いつだか、姫からこれを首にかけられた。
これまでも、城から報奨として金貨や宝石をもらったりしていて。
その中に、指輪や首飾りもいくつかあって。
これも、そのうちのひとつになると。
軽い気持ちで受け取って。
すぐに外して亜空間にしまって、巣穴に持ち帰って、飾りのひとつにするつもりだったのに。
外せない。
塔にも行けない。
竜体にもなれない。
まだ、本懐を遂げていないから。
頭に浮かぶそれに、ようやくこの身に起きている事態を把握して、愕然とする。
巣で、番が待っているのに。
そのことを、今の今まで、意識できなかった。
いや、違う。
俺が、自分で意識から、切り離した。
危険だと。
思考が誘導される。
無理に逆らおうとすれば、できなくはないけれど、かなり危険な予感がする。
外せない首飾りをむりやり外すのだから、
外せないものを外すというその矛盾した行為に、
俺の自我が一時崩壊するだろう。
人化を保てなくなり、竜体となって。
暴走するままに、あの子を襲ってしまう。
邪魔なものをすべて破壊して。
だから、無意識に、切り離した。
今は、番のわずかな魔素と、姫の言葉で一時的に正気であるようだけれど。
それでもコレは、外せない。
外せば、俺は一時俺でなくなる。
そうなったら、なんとかとめてくれと。
青いのに頼んだけれど。
赤いのと一緒に、なんとかとめてくれるだろうか?
消し炭までいかなければ、なんとかなる?
あの子が怖がるだろうか。
でも、あの子が無事ならいいかな?
あまり怖がらせたくは、ないのだけれど。
それにしても、変態って。
自覚は、あるけれど。
改めて言われると、確かに酷い。
そして、本当に他意はないのだけど、やっぱり、青いのの、口の中を舐めてもいいだろうか。
それは、俺のだと思うのだけど。
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