『第四世界』

ナカムラ

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朝がきて。
俺は森のくまさんのログハウスを出た。
夜のうちにも少し泣いてしまったのか、起きたら床にクリスタルの結晶が落ちてて。



「あの、これ、いりますか?」



一晩クッションとして使ってしまったお詫びに差し出したんだけど、
ものすごい勢いで首を横に振られて。
俺はそれを亜空間にしまった。
キラキラだし、俺の体からつくられたものだから、魔素がかなり含まれてて。
乾電池か非常食的な使い道があるかなと、思ったんだけど。
なんでも自給自足できる森のくまさんには、いらなかったみたい。
残念。




大きな手と爪をフリフリして見送ってくれた森のくまさんに手を振りかえして、
教えてもらったほうへ、歩いて森を進む。
ちなみに、森のくまさんがフード付きの黒いケープを貸してくれた。
俺には普通に太ももくらいまでのサイズだけど。
直射日光や、砂埃から守ってくれる、とてもありがたいやつ。
日焼けしたり、髪が傷むとかはないけれど、砂埃とかで汚れたりはするから。



俺はドラゴンの体で飛んでいくのではなくて、人化して城塞都市を目指すことにした。
森のくまさんに訊いたら、べつにドラゴンの姿で飛んでいってもいいみたいなんだけど。
その。
なんとなく。
ドラゴンの姿で飛んでいって、ブラックドラゴンが出てきて、
捨てたはずの元番が追いかけてくるとかないわー、って。
そんな感じで見られたら。


死ぬ。
俺は間違いなく死ぬ。
想像しただけでどこかがぐちゃっとなった。
よろけた。
こける。
ぃゃこけそうになった。
ちゃんとまっすぐ歩かなくちゃ。



人化して、城塞都市に行って、できればお城に就職面接を受けにいって、
採用されたらちょっと働いて、
物陰から。
そう、物陰からコソッと。
コソッと様子を見て。
ええと。
お姫様を、守ってるんだっけ?
その、お姫様と、仲良くなったのかな?
幸せそうなら、いいし。
そのときは、俺はもう、どこかに行くから。
どこに行くか、決めてないけど。
もう、ものすっっっごく遠くに行くから。



最後に、一回だけ。
ブラックドラゴンを見にいきます。
会いにいきますじゃないよ。
見るだけ。
俺の体、めちゃめちゃ硬いクリスタルなのに、
ココロはガラスみたいに脆いみたい。




朝早くに出発したから、ちょっと遠かったけど、お昼過ぎかな?
そのくらいには、城塞都市の門にたどり着いた。
ずっと歩いて、じゃないよ。
森を抜けてから城塞都市までは、途中に小さい村や町がいくつかあって。
町からは街道があって、いろんな馬車が行き来してるみたいだったから。
それに乗ったんだよね。
生まれて初めて馬車に乗った。





俺が乗ったのは、定期的に運行してる路線バスみたいなのじゃなくて、
そういう馬車もあるみたいだけど、その乗り方はわからなくて。
まあいっか、で。
とりあえず歩いて進んでて。
そしたら酪農家のお爺ちゃんが、街道を歩いてた俺を見つけて声をかけてくれて。
酪農家のお爺ちゃんは城塞都市までチーズを売りにいくところだったみたいなんだけど、ついでだから乗りなって、乗せてくれた。
ほんといい人。
ありがたく乗せてもらうことにした。
その、思いっきり子どもと間違われたんだけど。



あれ?でも、生まれてそんなに経ってないから、子どもで合ってるのかな??
子どもじゃないつもりだったけど、よく考えたら子どもだった??
ち、ちょっとショック、、。
いや、でも、け、結婚したし、、!
、、、あっ。
ブーメランみたいに。
そのワードが、くるくる回って俺の後頭部を直撃した。
今俺、その旦那様?を、見にいくんだった。
会いにいくじゃなくて、見にいく。
、、、もう泣いていいかな?




馬車に乗せてくれた酪農家のお爺ちゃんに、人間じゃなくて、ドラゴンですって自己紹介して。
酪農家のお爺ちゃんはびっくりして、なぜだか縁起がいいって、喜んでくれた。
あちこちに獣人はいるけど、ドラゴンはなかなか数が少なくて、普通は滅多に会えないらしい。



今のところ、この近くにいるのはブラックドラゴンとブルードラゴンとレッドドラゴンらしい。
カラフル?
みんな人化して、この先の城塞都市のお城でお仕事をしてるらしい。
働く大人って感じ。すごい。


レッドドラゴンはとても綺麗な女の人で、お城の魔術師として働いていて、お城の城主様を守ってて、
ブルードラゴンは男の人で、武芸に秀でていて、お城の城主様のご子息様を守ってて、剣術の指南もしてて。
ブラックドラゴンは魔術に優れていて、お城の城主様のご息女様、つまりお姫様を守ってるって。
ちなみにお姫様がお姉ちゃんで、ご子息様が弟らしい。




酪農家のお爺ちゃん、情報通。
ゴシップネタっていうんだっけ?
その、ブルードラゴンとレッドドラゴンはもうとんでもなく美男美女でお似合いなのに、ふたりともくっつかないとか。
ブラックドラゴンはお城のお姫様が小さい頃からお姫様を大切に守ってきて、とってもいい仲で、お姫様がいよいよ美しいレディになったから、ご成婚に向けて動きだすんじゃないかとか、
数か月ぶりに城塞都市に来たから、また新しく情報を仕入れて村にもって帰るのが楽しみだ、って。
そんな感じで話してくれた。
ちなみに酪農家のお爺ちゃんは文字が読めないから、全部誰かの噂話を聞いて、村にもって帰るらしい。



いや、あの、ドラゴンと人間のお姫様って、け、結婚、するの、、?!ていうか、できるの、、!?



俺がびっくりしてたら、酪農家のお爺ちゃんが笑って、
寿命が違うから、最期までつれそうことは難しいけど、国の法律的に結婚はできるし、子どもだってもしかしてできるんじゃないか?って。



ちなみに、ドラゴンの子どもはドラゴン同士で番わないとできないんだけど。
俺の知識が、間違ってるのかな?
雌雄は関係なくて、魔素を混ぜて。
卵を、産むんだけど。
百年単位でつくるのに時間がかかって。
その、魔素を混ぜて固めてってのが、大変で。
しかも産んでから卵は放置かな?
ええと、滅多に見つからないような所に隠す、が正しい?
数百年単位で孵化しないから。
ええと、そうじゃないやつ、だと、、
ハーフのつくりかた??
人間とドラゴンの混血??
俺、そっちなら、知らない、、、



ちなみにこの国の王都は、もうちょっと北のほうにあって。
今から行く城塞都市は、辺境のお城。
ここからもっと南には、温かい海があるらしい。
イメージ的に、地中海?
、、、地中海?まあいいか。
あったかそうだなあ。
ここを離れたら、行ってみようかな?



酪農家のお爺ちゃんに城塞都市の門の所まで乗せてもらって、お礼を言って、ちなみにちゃんと乗せてもらった運賃をお支払いしたよ。
金貨を渡そうとしたら、酪農家のお爺ちゃんがいらないって受け取ってくれなかったから、
ちょっと困って。
ふと、思いついて、金貨にほんの少しだけ魔力を込めて。



「交通安全の、お守り」



ぽかんとされたけど、酪農家のお爺ちゃん、町っていうか、村かな?けっこう遠くから馬車で来るみたいだから。
交通安全、大事だよね?


家族経営してる牧場があって、
息子さんとお孫さんが乳牛のお世話をしてて、
奥さんと息子さんのお嫁さんがチーズを作ってて。
お爺ちゃんが販売担当らしい。
ちなみにいつもは近くの町に牛乳を売りにいくだけだけど、数か月に一回、城塞都市まで行って、チーズを売るんだって。
いいタイミングで出会ったな。
よかった。
城塞都市まではちょっと遠いから、なかなか牛乳とか、新鮮なものを運び込むのは難しいらしい。


ちなみに城塞都市の中で牛を飼えないのかって訊いたら、牛のごはんを用意するのが大変で、ちょっと難しいんじゃないかって。
酪農家のお爺ちゃんの所は放牧してて、いい牧草地帯があって、すごく広い場所で牛が牧草を食べてるらしい。
のどかだなあ。いいなあ。



城塞都市って、基本的に戦争が起きたときに門を閉めて中の人を守る役割のあるお城だから、ぐるっとまわりを壁で囲まれてて、ちょっと狭いのかな?
壁の外に農村地帯があって、農家の人が穀物を育てて、城塞都市に運んで、戦争が起きれば門の中に逃げ込むような感じらしい。
食料の備蓄も大切だから、日頃から日持ちのする加工品をたくさん運んでるって。



ちなみに戦争がたくさんあるのかって酪農家のお爺ちゃんに訊いたら、昔はよくあって、
今は、昔に比べたら平和になったらしい。
ドラゴンとかが、お城にいても、戦争になるんだなあ、って思ってたら、
酪農家のお爺ちゃんが、ドラゴンは敵から守ってくれるけど、敵をやっつけてはくれないから、気候変動や食料難とか、世界が不安定になると戦争はやっぱり起きるって教えてくれた。
守るけど、やっつけないってとこが微妙によくわからなくてきょとんとしてたら、
酪農家のお爺ちゃんが、ドラゴンなのに、なんでドラゴンのことがわからないんだって、笑われたけどね。



まあ、言われてみれば、なんとなく、わかるような?
目の前で人間同士が戦争してたら、
俺はどっちかを殺すより、とりあえずストップをかけたくなる。
自分がいる国に、敵からの攻撃が飛んでくれば、守りたくなるけど、積極的に敵を殺したいとは思わない。
なるほど。
守るけど、やっつけない。
それに、そんなにたくさんのドラゴンがいるわけじゃないから、守りの薄い所は攻撃されちゃうらしい。



って、そんな感じで、酪農家のお爺ちゃんにいろんなことを教えてもらったから。
情報のお礼と、運賃。
ちゃんと金貨のお守りって形でお支払いをして。
ええと、俺の鱗のほうがいい?って一応訊いたからかな。
金貨のほうを受け取ってくれた。
俺の鱗って人気ないみたい。
残念。
でもやっぱり金貨は多いからって、お釣りで銀貨と銅貨をくれた。
ええと、お釣りにはたりないけどこれしかなくてごめん、でもたぶん銀貨や銅貨のほうが使えるから、って。
なんかそんなこと言って渡してくれた。
ちょっとしたお買い物なら、こっちのほうが便利なんだって。
金貨って、使えないお金なのかな??
森のくまさんも、酪農家のお爺ちゃんも、なかなか受け取ってくれなかったし。


キラキラしてて、俺は好きなんだけど。
お買い物するときにはお金がいるのはシャカイジョウシキだって思ったんだけど。
そのお金に金貨、使わない?
俺の知識、微妙に間違ってるのかな??
シャカイジョウシキ、社会、常識?これだ。








酪農家のお爺ちゃんと別れて、
俺は今旅人専用の門の列に並んでます。


酪農家のお爺ちゃんは門の場所が違うみたいで。
業者さん専用みたいな門の所に行って。
俺は旅人専用みたいな門の列。


通行証があれば、酪農家のお爺ちゃんみたいに別の門からさっと入れるみたいだけど。
たくさんの人が出入りしてるから、特に入るには、通行証がない人は結構厳しいチェックと、お金がいる。
そのチェックとか、支払いに、時間がかかるのかな。
結構列が長いです。


そうだ。その長い列のあちこちにチラホラと獣人の姿がある。
圧倒的に人間のほうが多いけど。
見つけてちょっとテンションが上がった。
魔力の扱いに長けた獣人は、人里に出たらだいたいお城でお仕事をするんだっけ?
獣人の体の大きさはばらばらで、森のくまさんみたいに大きな獣人もいれば、俺くらいの大きさの獣人もいる。
フード付きのコートとか、ケープをはおったり、たまに防具かな?
部分的に体を守るパーツを装着してるけど、
モフモフの毛並みが綺麗だし、
なによりみんなケモ耳がある!
かっわいい!
やっぱりケモ耳っていいよねぇ。
あと、靴ははかずにそのまま歩いてる。
爪とかすごい。
獣人って、かわいいとかっこいいがセットになってるよね。
ほんとすごい。


爬虫類系の獣人とか、鳥類系の獣人はいるのかな??って、いろいろ見渡すけど、モフモフ系が多い。
だいたいの外見で何系の獣人かわかるのが楽しい。
俺も、ドラゴンだって、わかるかな?
だいぶ人間の感じに、近いんだけど。


にこにこと、列の後ろに並んで眺めてたら。
だいぶ先のほうにいる猫獣人さんかな?
三角の耳をびこん、と立てて、その耳をぺたんとイカ耳にして。
そろろ、っと俺のほうをふり返って、俺と目が合ったかな、、、なとこでブワッとその毛を逆立たせた。
なんで?



イカ耳と、オニギリ??
あれって、猫とかが、びっくりしたり怖がって威嚇するときにするやつだよね??
ええ??



ぽかんと見ていたら、その猫獣人さんの後ろの人間が、ちゃんと進んでくれ、って猫獣人さんを促して、ようやく猫獣人さんは前を向いて進みだした。
イカ耳オニギリのままで。
なんだか、全身で緊張してる?
まあ、いいか。
緊張、するよね。
もうちょっとで審査だし。




そうだ、入国審査、あれ、なにを訊かれるのかな?
目的とか?
え。お城に就職したいです?
あっ。ドラゴンですって、言っていいの??
、、、、ちょっとまって。
酪農家のお爺ちゃん、ドラゴン珍しくて、この城塞都市には、黒いのと赤いのと青いのしか、いないって、言ってなかった!?しまった!もっと、普通にいるかと思って。
こっそりお城で仕事して、
こっそりブラックドラゴン見にいって、
こっそりブラックドラゴンにさよならして、
こっそりあったかい海のほうに行く予定だったのに!
これ、正直にドラゴンですって言ったら、こっそりお城で働ける!?
珍しいって、こっそりと、対極にない!?
ドラゴンって、言わずに、就職できる!?
種族はなんですかって。
訊かれたらどうしよう!?
え、どうしよう!?






捨てたはずの番が、職場まで追いかけてきたとか、ないわー、、、って!
俺が来たの、ブラックドラゴンにバレて、そんな感じに思われて、俺、死ぬやつ、、!
俺、今すぐ人化やめて竜体になって南のあったかい海に向かって飛んでってもいいかな!?
いいよね!?
し、死ぬよりマシだし、、っ!







ちょっともう、謎にパニックになってて。
門の前で列に並んでた人たちが、上を見てざわっとしたのとか、わからなくて。





突然の大きな気配に。
え?と。
気づいたときには、目の前に綺麗な青があって。













、、、青?












ぽけっとしてたら、
俺はパクッと咥えられて。
空にいた。




戦車よりは小さい、でも竜体のときの俺よりはたぶん大きい、ブルードラゴンによって。






あっという間に門から連れ去られた。







ちなみに突然の出来事に、門の前の人間たちは腰を抜かして座り込んでたし、
あの猫獣人さんは泡を吹いてひっくり返ってた。








俺も一緒にひっくり返りたい。
パクッとされてるから、無理か。


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