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しおりを挟む俺より体の大きい、ヒグマかな?
茶色のもふもふの毛と、鋭い長い爪があって。
二本足で立って、木の扉を開けて、鼻をスンスンしてる。
「こんばんは。夜遅くにすみません。この辺りに、大きなブラックドラゴン、いませんか?」
森のくまさんは、スンッと鼻で空気を吸い込んで、俺を家の中に入れてくれた。
森のくまさんは、親切だった。
人化した俺よりはるかに大きかったけど。
俺に、人間の服を貸してくれた。
そう、俺は、しゅたっ、十点!のときに人化した。
人間の服は持っていなかったから、全裸。
、、、大丈夫。
人間みたいに、そんなに無防備な感じじゃないから。
こういうときって、気になるんだっけ?
アレが、見えるか、見えないか。
大丈夫。
俺の体は人間のように小さくなって、二足歩行になったけど、表皮は所々ドラゴン的な硬い鱗が残ってて。
特に、首まわりと、腹部と下腹部は、人間にとっても骨で守られていない弱い所だから、部分的に硬い鱗が残ってて。
見えるか見えないかで言うと、見えてないよ!
そもそもアレ、外に出てないし!
アレ、でわかるかな。
アレ。
、、、まあいい。
とにかく大丈夫!見えてないよ!
たぶんもうちょっと、ちゃんと意識すれば、完全な人間に近い感じになると思うんだけど。
今は、服を着ていないし、防具もないから、これ以上鱗を減らせない。
まあ、元々がドラゴンだから、人間の体よりも、皮膚とかずっと丈夫なんだけど。
、、ああ。人化しても硬いとか。
駄目だ。
今の俺は、硬いとか柔らかいとか、そういう話題でココロがめきょっとへこむ。
森のくまさんが貸してくれた生成りのシャツはぶかっとしていて、スカーフみたいな布を腰の位置できゅっと締めて、上から少しひっぱって、膝丈から膝上丈にした。
あんまり変わっていないって、言わないで。
ちなみにこの服とズボンと靴なんだけど。
ずいぶん前にこの森のくまさんの家に来たお客さんが置いていってくれたものがあって、それを貸してくれた。
なんでも、森のくまさんが留守にしているときにお客さんがふたり来てて、森のくまさんが帰ってきたら、用事を急に思い出したのかな?
急いで帰ってしまったらしい。
片方が、服を置いて、
もう片方は、ズボンと靴を置いて。
よっぽどど忘れしてた用事が大事だったのかな?
というか、なんで服とズボンと靴、脱いでたのかな??
でも助かった。
膝上というか、太ももくらいまである長いブーツで、俺の足の大きさにいい感じにはまって、
でも、なんだかデザインがちょっと女性っぽい??
なんでだろ??
お客さん、片方女の人だったのかな?
ズボンも、俺の体にちょうどいいくらい。
シャツを置いてったのは、男の人?
シャツの袖を折り上げようとしたら、太くて大きな手が伸びてきて、代わりにやってくれた。
「ありがとう」
森のくまさんを見上げてお礼を言えば、
グオゥ、って。
そんな鳴き声が聞こえて。
俺は熊さんと鳴き声でいろんな話をした。
この森の中のログハウスみたいな家は、全部森のくまさんの手造りで。
鍋なんかの調理器具は持ち込んだものだけど、狩りをしたり、薬草や木の実や果物なんかをとってきて、自給自足をしているらしい。
森のくまさんの生まれた村はもうちょっと人里から離れた所にあるらしくて。
そこを出て、人里にちょっとだけ近いこの辺が、落ち着くんだって。
たまに人間の村にたりない調味料や衣類を買いにいくこともあって、そのときは森で狩った獲物を持っていって、物々交換をするらしい。
ちなみにそのときには大きな体に外套をはおるんだとか。
いいな。この、スローライフ。
いつか俺もしてみたい。
うん。
それで、
ひとりでうろうろしてるのはなぜ
つがいはどうした
最後にそんなことを訊かれて。
俺はちょっとへこんだ。
森のくまさんは嗅覚が優れてて。
俺が人化したドラゴンで、しかも番がいるってわかるらしくて。
こんな夜中にウロウロしてる理由を訊かれた。
まあ俺、最初にこの辺に大きなブラックドラゴンいませんかって、訊いちゃったし。
この先、まっすぐ進めば、城塞都市があって。
そこのお城のお姫様を、大きなブラックドラゴンが守ってるって、教えてくれて。
どよんと沈み込む俺に、森のくまさんが肉球で頭をぽんぽんして慰めてくれた。
「俺、捨てられちゃったかも、しれなくて」
口に出して言うと、より現実味が出てくる。
どうしよう。
もう、泣きそう。
それはぜったいありえない
スンッと鼻を動かした森のくまさんが、そんなふうに答えてくれるけど。
もう、何日も、帰ってこなくて。
あれ?何週間、だっけ?何か月???
ちゃんと数えてなかったから、正確にわからない。
とりあえず探しにきたんだけど。
上から見たときに、ずっと遠くにお城とか、そんな建物が見えたから、誰かいるかな?と思って、こっちのほうに飛んで。
ドラゴンのまま夜にお城の近くを飛んでもいいのかな?もしかして飛行許可とか、いるのかな?って考えてたときに、ちょうど真下に森のくまさんの家を見つけて。
入れてくれてよかった。
情報収集って大事だよね。
ええと、それで。
この先に大きな壁に囲まれた城塞都市があって。
入るのに、お金がいるって教えてくれたから。
俺は両手を合わせて、目的のものを手の中に出す。
ずしりと、重たい手応えがして。
「これで、たりる?」
両手を広げたら。
手のひらにじゃらじゃらと、金貨。
ブッ!!!!!
森のくまさんがなぜかむせた。
お茶を淹れてくれて、それ飲みながら話してたんだよね。
変なとこに入ったのかな。
大丈夫?
ええと、そう、金貨。
しまってたとこから出したやつ。
亜空間収納というやつだろうか。
できるかな?と思ってやってみたら、できた。
便利だよね。
でも、服とか、初めから持ってないものはつくり出せない。
ものすっごく、頑張ればできるのかな??
やったことないからわかんない。
あとで誰かに訊いてみようか。
そう、それで、その金貨を、家に入れてくれて、服を貸してくれて、いろいろな話をしてくれたお礼にって。
森のくまさんに両手でどうぞってしたら、ガタガタ震えていらないと言われたから。
俺はちょっと困って。
「あの、俺の、鱗とかでも、いいですか?」
キラキラしてるから、売ればちょっとはお金になるかな?
おなかの辺りの鱗なら、頑張れば剥げるかな?と。
邪魔な金貨をテーブルにガチャガチャと置いて、
腰を縛ってる布をほどこうとしたら。
森のくまさんの大きな手というか、爪が、テーブルの上に置いた金貨を一枚つまんで、激しく首を縦に振るから。
やっぱり、俺の鱗より金貨がいいってなったみたい。
よかった。
この金貨、あの洞窟の中にあったのだから、ブラックドラゴンのだけど。
勝手に使ったってあとで怒られたら、鱗を剥がして弁償しよう。
弁償になるのかな?
ならなかったら、頑張って仕事をして返そう。
なにか仕事、あるのかな。
そうだ。
この世界、人間もいるけど、獣人もいて。
手先が器用なのが人間で、
身体能力に長けているのが獣人で。
みんな大なり小なり生まれつき魔力をもっていて。
魔力の扱いに長けている人や、身体能力の優れた人は、だいたい人間のお城でお仕事をしてるんだって。
森のくまさんみたいに、人里と獣人の村の間で暮らすこともあるけれど。
大抵、獣人は獣人の村で暮らしていて。
たまに、人里で人間に混じって暮らす獣人もいて。
両種は適当にあちこち混ざり合って暮らしてるらしい。
獣人の声帯は人間のとは違うから、言葉でのコミュニケーションは難しいけど、簡単な意思の疎通はできるし、細かいところは思念を魔力でふわっと伝える感じ?
さっきからずっとコレで会話、してるんだよね。
魔力って、便利。
あと、繁殖能力に優れているのは人間のほうで。
獣人は、番としか繁殖行為をしないし、なかなか数は増えないらしい。
森のくまさんは絶賛番募集中なのかな?
ええと。ここ、森の中だから、獣人の村とか、出会い系のイベントに行かないと、見つけられないんじゃ???
まあいっか。そのへん人それぞれだよね。ごめん。
ブラックドラゴンと過ごしてるときに、なんとなくこの世界や、ドラゴンに関しての知識みたいなものは、俺に流れ込んできてたけど。
俺、ほとんど気絶してることが多くて。
まだちょっと知識がたりない。
獣人のこととか、プラスアルファでたくさん教えてもらえて、よかった。
森のくまさんが鼻歌を歌いながらたくさん飲み物を淹れてくれて。
ハーブティーかな?あと、蜂蜜も入れてくれた。
おいしい。
やっぱりくまさんといえば、蜂蜜?
とるのが得意なのかな。
お茶、とってもおいしかったです。
俺の体、ドラゴンだから、世界の魔素が固まってできてて、基本的に自分の体がエネルギー源だから、食事はいらなくて。
一応、口から飲み込めるんだけど、原子だっけ?分子だっけ??もう、とんでもなく分解されて、溶け合うというか。
食べたものに魔素がたくさん含まれていれば、ちょっとは体に浮かんでくれるけど、そんなに魔素がなければ、あっという間に溶けて消えてく。
あの、ブラックドラゴンが食べさせてくれてた石には、たくさんの魔素が含まれてて、
俺のキラキラの鱗に、金箔が散ったみたいになってたけど。
あ。まってへこむ。話題変えたい。
ええと、お茶。
このハーブティーには、魔素はほんのちょびっとしかなくて。
その辺に生えてる草とか野生の動物にも、多少の魔素はあるんだけど。
でも、ドラゴンの俺からしたら、ほとんどないに等しくて。
でも、味とか香りはわかるから。
あと、温度も。
森のくまさんが、全部手作りしたのかな?
つんできたハーブと、とってきた蜂蜜と。
手をかけて淹れてもらったお茶が。
俺のおなかをあったかくしてくれた。
ここで温まるといい、って。
ログハウスの中の、暖炉の前で。
パチパチとはぜる薪と火を、ぼうっと眺めているうちに、うとうとして。
木の床の上にラグが敷かれてて、そこに座らせてくれて、森のくまさんが俺によりそってくれて、クッションみたいになってくれて。
俺は久しぶりに、ぬくぬくになって眠ることができた。
あの洞窟を出てよかった。
じゃないと、あの火の消えた寒い空間で。
誰とも話さず、ただひとり。
クリスタルの結晶がかつかつ落ちる音を聞くしか、できなかっただろうから。
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