『第四世界』

ナカムラ

文字の大きさ
上 下
3 / 25

3

しおりを挟む



俺より体の大きい、ヒグマかな?
茶色のもふもふの毛と、鋭い長い爪があって。
二本足で立って、木の扉を開けて、鼻をスンスンしてる。



「こんばんは。夜遅くにすみません。この辺りに、大きなブラックドラゴン、いませんか?」



森のくまさんは、スンッと鼻で空気を吸い込んで、俺を家の中に入れてくれた。



森のくまさんは、親切だった。
人化した俺よりはるかに大きかったけど。
俺に、人間の服を貸してくれた。
そう、俺は、しゅたっ、十点!のときに人化した。
人間の服は持っていなかったから、全裸。



、、、大丈夫。
人間みたいに、そんなに無防備な感じじゃないから。
こういうときって、気になるんだっけ?
アレが、見えるか、見えないか。



大丈夫。
俺の体は人間のように小さくなって、二足歩行になったけど、表皮は所々ドラゴン的な硬い鱗が残ってて。
特に、首まわりと、腹部と下腹部は、人間にとっても骨で守られていない弱い所だから、部分的に硬い鱗が残ってて。
見えるか見えないかで言うと、見えてないよ!
そもそもアレ、外に出てないし!
アレ、でわかるかな。
アレ。
、、、まあいい。
とにかく大丈夫!見えてないよ!



たぶんもうちょっと、ちゃんと意識すれば、完全な人間に近い感じになると思うんだけど。
今は、服を着ていないし、防具もないから、これ以上鱗を減らせない。
まあ、元々がドラゴンだから、人間の体よりも、皮膚とかずっと丈夫なんだけど。


、、ああ。人化しても硬いとか。
駄目だ。
今の俺は、硬いとか柔らかいとか、そういう話題でココロがめきょっとへこむ。



森のくまさんが貸してくれた生成りのシャツはぶかっとしていて、スカーフみたいな布を腰の位置できゅっと締めて、上から少しひっぱって、膝丈から膝上丈にした。
あんまり変わっていないって、言わないで。


ちなみにこの服とズボンと靴なんだけど。
ずいぶん前にこの森のくまさんの家に来たお客さんが置いていってくれたものがあって、それを貸してくれた。


なんでも、森のくまさんが留守にしているときにお客さんがふたり来てて、森のくまさんが帰ってきたら、用事を急に思い出したのかな?
急いで帰ってしまったらしい。
片方が、服を置いて、
もう片方は、ズボンと靴を置いて。
よっぽどど忘れしてた用事が大事だったのかな?
というか、なんで服とズボンと靴、脱いでたのかな??



でも助かった。
膝上というか、太ももくらいまである長いブーツで、俺の足の大きさにいい感じにはまって、
でも、なんだかデザインがちょっと女性っぽい??
なんでだろ??
お客さん、片方女の人だったのかな?
ズボンも、俺の体にちょうどいいくらい。
シャツを置いてったのは、男の人?
シャツの袖を折り上げようとしたら、太くて大きな手が伸びてきて、代わりにやってくれた。



「ありがとう」



森のくまさんを見上げてお礼を言えば、
グオゥ、って。
そんな鳴き声が聞こえて。






俺は熊さんと鳴き声でいろんな話をした。
この森の中のログハウスみたいな家は、全部森のくまさんの手造りで。
鍋なんかの調理器具は持ち込んだものだけど、狩りをしたり、薬草や木の実や果物なんかをとってきて、自給自足をしているらしい。
森のくまさんの生まれた村はもうちょっと人里から離れた所にあるらしくて。
そこを出て、人里にちょっとだけ近いこの辺が、落ち着くんだって。
たまに人間の村にたりない調味料や衣類を買いにいくこともあって、そのときは森で狩った獲物を持っていって、物々交換をするらしい。
ちなみにそのときには大きな体に外套をはおるんだとか。
いいな。この、スローライフ。
いつか俺もしてみたい。




うん。
それで、




ひとりでうろうろしてるのはなぜ
つがいはどうした




最後にそんなことを訊かれて。
俺はちょっとへこんだ。
森のくまさんは嗅覚が優れてて。
俺が人化したドラゴンで、しかも番がいるってわかるらしくて。
こんな夜中にウロウロしてる理由を訊かれた。


まあ俺、最初にこの辺に大きなブラックドラゴンいませんかって、訊いちゃったし。


この先、まっすぐ進めば、城塞都市があって。
そこのお城のお姫様を、大きなブラックドラゴンが守ってるって、教えてくれて。
どよんと沈み込む俺に、森のくまさんが肉球で頭をぽんぽんして慰めてくれた。




「俺、捨てられちゃったかも、しれなくて」




口に出して言うと、より現実味が出てくる。
どうしよう。
もう、泣きそう。




それはぜったいありえない




スンッと鼻を動かした森のくまさんが、そんなふうに答えてくれるけど。
もう、何日も、帰ってこなくて。
あれ?何週間、だっけ?何か月???
ちゃんと数えてなかったから、正確にわからない。



とりあえず探しにきたんだけど。
上から見たときに、ずっと遠くにお城とか、そんな建物が見えたから、誰かいるかな?と思って、こっちのほうに飛んで。
ドラゴンのまま夜にお城の近くを飛んでもいいのかな?もしかして飛行許可とか、いるのかな?って考えてたときに、ちょうど真下に森のくまさんの家を見つけて。
入れてくれてよかった。
情報収集って大事だよね。



ええと、それで。
この先に大きな壁に囲まれた城塞都市があって。
入るのに、お金がいるって教えてくれたから。


俺は両手を合わせて、目的のものを手の中に出す。
ずしりと、重たい手応えがして。



「これで、たりる?」



両手を広げたら。
手のひらにじゃらじゃらと、金貨。



ブッ!!!!!



森のくまさんがなぜかむせた。
お茶を淹れてくれて、それ飲みながら話してたんだよね。
変なとこに入ったのかな。
大丈夫?


ええと、そう、金貨。
しまってたとこから出したやつ。
亜空間収納というやつだろうか。
できるかな?と思ってやってみたら、できた。
便利だよね。
でも、服とか、初めから持ってないものはつくり出せない。
ものすっごく、頑張ればできるのかな??
やったことないからわかんない。
あとで誰かに訊いてみようか。



そう、それで、その金貨を、家に入れてくれて、服を貸してくれて、いろいろな話をしてくれたお礼にって。
森のくまさんに両手でどうぞってしたら、ガタガタ震えていらないと言われたから。
俺はちょっと困って。



「あの、俺の、鱗とかでも、いいですか?」



キラキラしてるから、売ればちょっとはお金になるかな?
おなかの辺りの鱗なら、頑張れば剥げるかな?と。
邪魔な金貨をテーブルにガチャガチャと置いて、
腰を縛ってる布をほどこうとしたら。
森のくまさんの大きな手というか、爪が、テーブルの上に置いた金貨を一枚つまんで、激しく首を縦に振るから。
やっぱり、俺の鱗より金貨がいいってなったみたい。
よかった。



この金貨、あの洞窟の中にあったのだから、ブラックドラゴンのだけど。
勝手に使ったってあとで怒られたら、鱗を剥がして弁償しよう。
弁償になるのかな?
ならなかったら、頑張って仕事をして返そう。
なにか仕事、あるのかな。



そうだ。
この世界、人間もいるけど、獣人もいて。
手先が器用なのが人間で、
身体能力に長けているのが獣人で。
みんな大なり小なり生まれつき魔力をもっていて。
魔力の扱いに長けている人や、身体能力の優れた人は、だいたい人間のお城でお仕事をしてるんだって。



森のくまさんみたいに、人里と獣人の村の間で暮らすこともあるけれど。
大抵、獣人は獣人の村で暮らしていて。
たまに、人里で人間に混じって暮らす獣人もいて。
両種は適当にあちこち混ざり合って暮らしてるらしい。
獣人の声帯は人間のとは違うから、言葉でのコミュニケーションは難しいけど、簡単な意思の疎通はできるし、細かいところは思念を魔力でふわっと伝える感じ?
さっきからずっとコレで会話、してるんだよね。
魔力って、便利。



あと、繁殖能力に優れているのは人間のほうで。
獣人は、番としか繁殖行為をしないし、なかなか数は増えないらしい。


森のくまさんは絶賛番募集中なのかな?
ええと。ここ、森の中だから、獣人の村とか、出会い系のイベントに行かないと、見つけられないんじゃ???
まあいっか。そのへん人それぞれだよね。ごめん。



ブラックドラゴンと過ごしてるときに、なんとなくこの世界や、ドラゴンに関しての知識みたいなものは、俺に流れ込んできてたけど。
俺、ほとんど気絶してることが多くて。
まだちょっと知識がたりない。
獣人のこととか、プラスアルファでたくさん教えてもらえて、よかった。



森のくまさんが鼻歌を歌いながらたくさん飲み物を淹れてくれて。
ハーブティーかな?あと、蜂蜜も入れてくれた。
おいしい。
やっぱりくまさんといえば、蜂蜜?
とるのが得意なのかな。
お茶、とってもおいしかったです。



俺の体、ドラゴンだから、世界の魔素が固まってできてて、基本的に自分の体がエネルギー源だから、食事はいらなくて。
一応、口から飲み込めるんだけど、原子だっけ?分子だっけ??もう、とんでもなく分解されて、溶け合うというか。
食べたものに魔素がたくさん含まれていれば、ちょっとは体に浮かんでくれるけど、そんなに魔素がなければ、あっという間に溶けて消えてく。


あの、ブラックドラゴンが食べさせてくれてた石には、たくさんの魔素が含まれてて、
俺のキラキラの鱗に、金箔が散ったみたいになってたけど。
あ。まってへこむ。話題変えたい。



ええと、お茶。
このハーブティーには、魔素はほんのちょびっとしかなくて。
その辺に生えてる草とか野生の動物にも、多少の魔素はあるんだけど。
でも、ドラゴンの俺からしたら、ほとんどないに等しくて。
でも、味とか香りはわかるから。
あと、温度も。
森のくまさんが、全部手作りしたのかな?
つんできたハーブと、とってきた蜂蜜と。
手をかけて淹れてもらったお茶が。
俺のおなかをあったかくしてくれた。




ここで温まるといい、って。
ログハウスの中の、暖炉の前で。
パチパチとはぜる薪と火を、ぼうっと眺めているうちに、うとうとして。
木の床の上にラグが敷かれてて、そこに座らせてくれて、森のくまさんが俺によりそってくれて、クッションみたいになってくれて。
俺は久しぶりに、ぬくぬくになって眠ることができた。








あの洞窟を出てよかった。
じゃないと、あの火の消えた寒い空間で。
誰とも話さず、ただひとり。
クリスタルの結晶がかつかつ落ちる音を聞くしか、できなかっただろうから。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

【R18】息子とすることになりました♡

みんくす
BL
【完結】イケメン息子×ガタイのいい父親が、オナニーをきっかけにセックスして恋人同士になる話。 近親相姦(息子×父)・ハート喘ぎ・濁点喘ぎあり。 章ごとに話を区切っている、短編シリーズとなっています。 最初から読んでいただけると、分かりやすいかと思います。 攻め:優人(ゆうと) 19歳 父親より小柄なものの、整った顔立ちをしているイケメンで周囲からの人気も高い。 だが父である和志に対して恋心と劣情を抱いているため、そんな周囲のことには興味がない。 受け:和志(かずし) 43歳 学生時代から筋トレが趣味で、ガタイがよく体毛も濃い。 元妻とは15年ほど前に離婚し、それ以来息子の優人と2人暮らし。 pixivにも投稿しています。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

王様との縁談から全力で逃げます。〜王女として育った不遇の王子の婚姻〜

竜鳴躍
BL
アリアは、前王の遺児で本来は第一王子だが、殺されることを恐れ、地味メイクで残念な王女として育った。冒険者になって城から逃げる予定が、隣国の残酷王へ人質という名の輿入れが決まって……。 俺は男です!子どもも産めません! エッ。王家の魔法なら可能!? いやいやいや。 なんで俺を溺愛するの!?

αなのに、αの親友とできてしまった話。

おはぎ
BL
何となく気持ち悪さが続いた大学生の市ヶ谷 春。 嫌な予感を感じながらも、恐る恐る妊娠検査薬の表示を覗き込んだら、できてました。 魔が差して、1度寝ただけ、それだけだったはずの親友のα、葛城 海斗との間にできてしまっていたらしい。 だけれど、春はαだった。 オメガバースです。苦手な人は注意。 α×α 誤字脱字多いかと思われますが、すみません。

アイテムボックスからドロップされた俺が魔王様と幸せになるまで。

キノア9g
BL
魔王×男子高校生 エロなし。プロローグ、エピローグを含め14話構成。予約済み。 元タイトル 人間は食べ物に入りますか?〜魔族のアイテムボックスからドロップされてしまった俺〜 修正と作り直しをしました。 異世界トリップに願望などなかった。 ……けど、食材として、アイテムボックスからドロップされるなんて聞いてない! 100歩譲って勇者召喚じゃなくてもいい。突然森でもいい。巻き込まれでもいい。 だから、突然魔族のテーブルはやめて欲しい。 神様、俺は食材ですかーーー? 異世界ファンタジーボーイズラブ小説 視点が主役2人で切り替わりながら進みます。

誕生日会終了5分で義兄にハメられました。

天災
BL
 誕生日会の後のえっちなお話。

処理中です...