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しおりを挟むかつん。
かつん。
かつんこつん。
薄暗い洞窟に、寂しげな硬い音が響く。
空中に浮かんで燃えていた赤い炎の照明が消えて。
新しく光を空中に浮かべたけれど。
その光は冷たい蛍光灯のような色で。
この洞窟のあちこちに積み上げられている金貨や宝石を冷たく照らすばかりで。
とても寂しい。
ブラックドラゴンが、帰ってこなくなった。
火の消えた洞窟の中で。
俺の目からこぼれ落ちた涙が、硬いクリスタルの結晶になって、地面に落ちて音を立てる。
いつも、俺が疲れて眠ってしまっている間に、どこかに出かけて。
とてもおいしそうな石を咥えて戻ってくれていたのに。
あの大きな体で、ゴツゴツと、硬いばかりの俺の体を抱き込んで、
世界のすべてから俺を守ってくれるようにつつみ込んで、
俺を温めてくれていたのに。
ここは、温かい空間ではなくなってしまった。
かつんかつんかつん。
洞窟の床に転がるクリスタルの結晶を見て、さらに悲しくなる。
俺の体、硬いから、嫌になったのかな?
結婚したと、思ったのだけど。
嫌になって、どこかに行っちゃったのかな?
ていうか、その、もしかして。
お、おれ、、、あきられ、、、た、、?
かつんかつんかつんかつんかつん。
ああ。こんなものまで、硬いから。
もう、何日になるだろう。
きっと、もうすぐ、帰ってくるって。
洞窟の入り口のほうを見つめて。
朝になって。
夜になって。
朝になって。
夜になって。
洞窟の床に、たくさんのクリスタルの結晶が積もって。
何日目かの、夜がきて。
俺は洞窟を出た。
もうここには、いたくない。
そう思ったから。
そういえば、俺は目を回してひっくり返ってる間にこの洞窟に連れてこられたから。
ここがどこだか、いまいちわからない。
生まれた所が、ものすごく標高の高い岩山の間だったことは覚えているけれど。
確か、ちょっと、雪もあったような?
イメージ的には、北欧の、ナントカ山脈。
、、、北欧?まあいいか。
竜体だから、寒くはないんだけど。
なんとなく気分的に寒い?
いや、寒くはないけど。
もう、どっち。
ブラックドラゴンと住んでた洞窟は、まわりをたくさんの木に囲まれてて。
山がたくさん連なっているうちの、日中には陽の当たるだろう斜面にぽかっと入り口の穴があいてて。
ちょっとスケールのおっきい、子どもの秘密基地みたいな?ふり返って見るとそんな場所だった。
中にたくさんの財宝があるし。
宝の洞窟?
なんだろう。夢が詰まってて、きゅんきゅんする?
、、、、そんなすてきな場所、だった。
今はちょっと悲し、、、なんでもない。
翼を広げて、空に舞い上がって。
皮膜が風を捉えて、安定する。
だけど、この体、鳥みたいに羽ばたいて飛んでるわけじゃなくて。
体内の魔力で世界に干渉して飛んでいる。
俺も感覚的に捉えているから、ちゃんとした説明とかは、難しい。
あのブラックドラゴンなら、もっとわかりやすく説明できるのかな?
キラキラした、クリスタルの鱗。
夜空の満天の星が俺の鱗をキラキラさせるけど。
綺麗だって、満足そうに喉を鳴らしてくれる彼は今いない。
キラキラにちょっときゅんきゅんしてた心がしょぼんとして。
しばらく飛んで、俺は高度を落として森の中に降りた。
地面に下りる直前で、くるりと前回りをするみたいに回って、綺麗に着地できた。
しゅたっ、十点!みたいな?
、、、十点?まあいいか。
暗い森の中なんだけど。
獣道みたいな道があって、遠くにログハウスみたいな家がある。
窓ガラスはなくて、木の扉があって。
屋根も木を切ってつなげてるから、ちょっと歪んでいるけれど。
灯りがついていて、その光が木の隙間から漏れているから。
たぶん誰かいる。
俺はなんとなくその家に近づいて。
コンコンコンと右手でノックをした。
しばらくして、ゆっくりと木の扉が開いて。
「森のくまさん?」
森のくまさんがいた。
あれ?そんな歌が、あるんだっけ?
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