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憂い事 side ローラン

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午後の公務に行き詰まり、一息つくために公務室のドアを開け、王宮の庭園に続く廊下を歩いた。

季節は秋が終わり冬に移り変わる頃だった。だんだんと肌寒さを感じると人恋しさをより一層感じる。
今朝イリスと食事を交わしてから一度も顔を合わせていない。
確か今日はレイラ嬢とお茶会をすると話していたな。あの嬉しそうなイリスが可愛すぎて午前中の公務はそれだけで乗り切ることが出来た。
今頃イリスはお気に入りのガゼボでレイラ嬢とお茶会をしている最中だろう。
あぁ、羨ましい!!私だってイリスとお茶を飲みたい!!
はぁ。。イリス切れだ...イリスに会いたい...イリスに癒されたい...

...ん?いつの間にここに来てしまっていたのか。
この噴水はイリスのお気に入りの噴水だ。
夏になるとたまにここに腰掛けて、涼みながら取り留めのない話をしたな。
今はあの時より大分忙しくなってしまい、イリスとゆっくり庭園を散策する事すら難しくなってしまった。
イリスは寂しがっていないだろうか。イリスは頑張り屋だから辛い事は私に隠してしまう節がある。

ふむ。久しぶりにここに腰をかけたがやはり寒いな。イリスがここを散策する時には厚手のストールを用意する様に侍女に伝えておくか。

イリスとは再来年の春に結婚式を挙げる事が決まっているのに、日に日にイリスへの想いが募っていく。
イリスは美しく聡明で心優しく、国民にも愛されている。知名度も高いため私との結婚が決まっているというのに他国からの縁談が後を絶たない。
結婚式を前にイリスが何処の馬の骨ともわからぬやつに攫われてしまうのではないかと私は気が気では無いのだ。
はぁ。なんともどかしい...

「ローラン様!!」

「...誰だ」

なんだこの不躾な小娘は。

「ローラン様、御機嫌よう。私、ローズ・マカロンと申します。」

この娘に覚えはない。侍女でも王宮関係者でもないはずだ。

「何者だ。何故ここに居る。どうやってここに入った?王宮の庭園だぞ。関係者以外ここへは入ることは許されない。」

「私、王家御用達の業者のお手伝いで王宮に来たんですぅ。帰り道がわからなくなってぇ、いつの間にかここにたどり着いたんですぅ。」

なんと白々しい言い訳なんだ。怪しい。

「それで?目的はなんだ。」

「へ?あ、目的...?目的は出口を探しててぇ、えっとぉ、」

「なら、出口はあの廻廊を真っ直ぐ行き、突き当たりを右に曲がれば大広間への扉がある。大広間に入れば出入口はわかるだろう。そこから帰れ。」

「あ、はい!ありがとうございます!!...じゃなくて!あ、あの!何かお困りと言うか、お悩みではありませんか?」

「何?」

「あ、えっと、ため息が聞こえまして!憂いを帯びた様なお顔をしていらっしゃったので、気になりましてぇ。」

  「なんだと?無礼にも程があるぞ!!お前は私の弱みを握ろうとしてるのか?衛兵!!」

「ちょっ!ローラン様!!待って!!」

私が衛兵を呼ぶと焦りだした小娘は私に手伸ばして来たがその手を払った。

「気安く触ろうとするな!無礼者!!」

危ない!この娘は危険だ!

「衛兵!!衛兵!!」

衛兵を呼ぶと王宮内に待機していた衛兵が15人ほどすぐに集まった。

「ローラン様!!」

「侵入者だ!!この娘を摘みだせ!!この娘の他にも侵入者がいるかもしれない!王宮内をくまなく探せ!!隊長!!イリスの元へ!!一刻も早く無事を確認して来てくれ!!」

「はっ!!お前達行くぞ!!」

隊長は部下2人を連れてイリスの元へ急ぎ向かい、小娘は2人の衛兵に捉えられた。

「は?ちょっとぉ!!痛い!!離しなさいよ!!私はヒロインよ!!こんな事して許されるとでも思ってるの!?」

大声で喚き暴れ出した娘は衛兵3人掛かりで取り押さえられた。これがこの娘の本性か。なんと凶暴なんだ。イリスとは正反対だな。

「この娘をさっさと捕えよ!!マカロン嬢と言ったな。マカロン家には正式に抗議文を送るからな。」

「なぁにが抗議文よ!このヤンデレ王子が!!ちょっと!痛い!離しなさいよ!!ちょっとぉ!!!!」

凶暴な娘は警備兵2人に両腕を掴まれ、意味不明な言葉を喚き散らしながらズルズルと引き摺られて行った。
早急に王宮内の警備を見直す必要があるな。
あの娘は何者だったのか。何故、部外者がここまで侵入出来たのか。
...まさか!あの娘は私を引き止める為の囮で、イリスを攫いに他の侵入者がいるとか!!こうしてはいられない!!

イリスの元へ向かおうとした時、イリスの元へ行った警備兵の隊長が戻ってきた。

「イリスは!?無事だったか!?」

「はっ!!イリス様もレイラ様もご無事でありました。」

「そうか。ありがとう。私はイリスの元へ向かう。この辺一帯、不審者がいないかくまなく探してくれ。」

「はっ!!」

イリスは無事だと聞いたが、自分の目で確かめなくては気が済まない。

「イリス!!」

「まぁ!ローラン様!!どうしてここへ?」

「いや、キミが無事な事を自分の目で確かめたくて。」

「私なら何ともありませんし、レイラとお茶会をしていただけですわ。何かありましたの?」

「いや、無事なら良いんだ。安心した。」

本当に何事も無かったようで安心したが油断は出来ない。
私はさりげなくイリス達のそばにいる衛兵に目配せをし、警戒態勢をとらせた。

「?…まぁ!ローラン様!!この手の傷どうなさったのです?手当をしなければ!!...あれ?この傷、まるで猫ちゃんに引っかかれた様な...」

あの娘にやられた傷か。こんなかすり傷でさえ心配してくれるなんて、私のイリスは何て心優しいんだ。

「あ、あぁ、そうなんだ。実は野良猫に引っかかれてしまってね。かなり凶暴で手こずったよ。」

「さっき警備兵の隊長がここに来て、同じことを言っていたわ。凶暴な野良猫がいたって。その猫ちゃんはどうなったの?」

「王宮の外に追いだ...んん。門から丁重にお帰りいただいたよ。」

「そう。猫ちゃん、私も会ってみたかったですわ...」

あの凶暴娘とイリスが鉢合わせなくて良かった。一応あの娘を捕らえたが、無実とわかれば釈放する予定だ。

「あんな危険な野良猫にイリスを合わせる訳にはいかない。もう二度と野良猫1匹入らせないよう警備や検問を見直さなくてはな。イリスとの結婚も控えているし、厳重にしなくては。」

「ローラン様、私、そんなに守って貰わなくても...」
 
あの娘が無実だとしてもイリスが攫われる可能性が出てきてしまった今、厳重な対策を取らなければ。

「イリス、私がやりたいんだ。キミを守るのは夫である私の勤めであり、私の最優先事項なんだ。それに、結婚式は一生の思い出だ。危険な事など起きて欲しくないし完璧な式にさせてあげたい。キミに何不自由なく、無事に結婚式を終えて欲しいんだ。」

「ローラン様...」

これは本音だ。イリスには最高の結婚式を迎えさせてあげたい。

「イリス。私のイリス。早く結婚してキミを妻に迎えたい。私は待ちきれないんだ。明日にでも、いや、今すぐにでも妻にしたいんだ。」

「ローラン様...私も一刻も早くローラン様の妻となり、アナタを支えたいわ。」

私のイリスはなんていじらしいんだ!
感極まりイリスを抱きしめた瞬間、私は決意した。一刻も早くイリスを妻に迎えなければと。
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