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4話
浮気を知る女
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彼はポマードの香りがいつもしていた。
今どき誰も使わないようなべっとりしたのを毎日つけていた。
彼はこだわりが強かったの。
他の整髪料じゃ駄目だって言っていつもきっちりかっちり櫛で撫でつけていた。
私の服にまで自分の好みを押し付けてきちゃうくらいこだわりが強かった。
「お前は真っ赤な服が似合うから」
って言って真っ赤なコートとベレー帽をくれた時は本当に嬉しかったな。
彼に聞いてみたら普段無口な彼がまっすぐ私を見て
「綺麗だよ」
って言ってくれた。
今まで、自分をそうやって褒めてくれる相手に巡り会えなかったから私はもう彼にぞっこん惚れ込んだの。
その後、彼とはデートもしたし彼からプロポーズされて結婚もした。
その時も彼が真っ赤なバラをくれた。
そしてその都度、彼は私を
「綺麗だよ」
って言ってくれたの。
子供も産まれて夫婦の生活は順風満帆だった。
でもね、彼は浮気したの。
見ちゃったの、携帯の履歴。
たまたま彼がお風呂に入っている時、電源つけっぱなしで切ってあげようとしたら知らない女の名前が、、、ね。
私は彼を問い詰めなかった。
彼はこだわりが強い人だったからほんの一時の気の迷いだってそう自分に言い聞かせてた。
ううん、彼の口から浮気していたって聞きたくなかったの。
彼だけが私の事を褒めてくれた。
彼だけが私を綺麗だって言ってくれた。
だから本当の事を聞いたら私がどうなってしまうの?
子供だっているのに、そこで真実を彼の口から聞いたら、私、、、。
だから聞かなかったの。
その代わり、私は聞き続けたの。
彼の好きだった赤いコート、彼の好きだった赤いベレー帽を着てあの時みたいに。
彼は
「綺麗だよ」
って言ってくれた。
でも、なんだか薄っぺらいなって思っちゃった。
私はそれでも聞かなかった。
一度は夜に一人で泣き過ぎて、情緒不安定になって息子に当たり散らしちゃった事もあった。
そしたら息子がね
「ポマードポマード」
って言ったの。
母さんの当たる相手は僕じゃない。
そう息子は言ったの。
息子も浮気を知っていたみたい。
泣きじゃくる私に息子は小さなべっこう飴をくれて慰めてくれた。
それでも私は聞けなかった。
でも彼に心の底からもう一度
「綺麗だよ」
って言って欲しかったから浮気を問い詰めたかった気持ちもあった。
でも怖くて聞けなかった。
意気地のない意志とは裏腹に身体は素直だった。
でも、そんな事、口が裂けても言えないわ。
、、、口はこんなに裂けてるのにね。
だからいろんな人に聞いて安心したかったの。
彼が言ってくれたみたいに、、、
「私、綺麗?」
連日のように週刊誌が不倫疑惑をこぞって取り上げるような世の中ですね。
浮気を発見しても、浮気現場に出くわしても、それでもやぱり本当に辛いのは愛している人からその真実を聞かされる事でしょう。
何せ愛し、愛されたと思っていたその相手に面と向かって今までの愛がそんなものは無かったと否定されるのだから。
き口が裂けても言えないのに口が避けるほど言いたかった、そんなジレンマの間で彷徨ううちにいつしか彼女は
「口裂け女」
と呼ばれてしまうようになってしまったのでしょう。
ところで口裂け女についてですが都市伝説故に習性や服装に地域差があるようですよ。
私の聞いた話だと
赤いコートとベレー帽を身につけていて皆さんご存知の質問をしてきた後に襲われないようにするにはポマードポマードと唱えるかべっこう飴を差し出すと帰っていくそうです。
他にも赤い服じゃなくて白い服だったり、べっこう飴じゃなくてボンタンアメだったり、結構バリエーションも多いみたいです。
あなたはどんな口裂け女を知っていますか?
もしかしたら口裂け女は一人ではないかもしれません
そして彼女達にはそれぞれ口が裂けるほど言いたい事があったのかもしれません。
都市伝説「口裂け女」 より
今どき誰も使わないようなべっとりしたのを毎日つけていた。
彼はこだわりが強かったの。
他の整髪料じゃ駄目だって言っていつもきっちりかっちり櫛で撫でつけていた。
私の服にまで自分の好みを押し付けてきちゃうくらいこだわりが強かった。
「お前は真っ赤な服が似合うから」
って言って真っ赤なコートとベレー帽をくれた時は本当に嬉しかったな。
彼に聞いてみたら普段無口な彼がまっすぐ私を見て
「綺麗だよ」
って言ってくれた。
今まで、自分をそうやって褒めてくれる相手に巡り会えなかったから私はもう彼にぞっこん惚れ込んだの。
その後、彼とはデートもしたし彼からプロポーズされて結婚もした。
その時も彼が真っ赤なバラをくれた。
そしてその都度、彼は私を
「綺麗だよ」
って言ってくれたの。
子供も産まれて夫婦の生活は順風満帆だった。
でもね、彼は浮気したの。
見ちゃったの、携帯の履歴。
たまたま彼がお風呂に入っている時、電源つけっぱなしで切ってあげようとしたら知らない女の名前が、、、ね。
私は彼を問い詰めなかった。
彼はこだわりが強い人だったからほんの一時の気の迷いだってそう自分に言い聞かせてた。
ううん、彼の口から浮気していたって聞きたくなかったの。
彼だけが私の事を褒めてくれた。
彼だけが私を綺麗だって言ってくれた。
だから本当の事を聞いたら私がどうなってしまうの?
子供だっているのに、そこで真実を彼の口から聞いたら、私、、、。
だから聞かなかったの。
その代わり、私は聞き続けたの。
彼の好きだった赤いコート、彼の好きだった赤いベレー帽を着てあの時みたいに。
彼は
「綺麗だよ」
って言ってくれた。
でも、なんだか薄っぺらいなって思っちゃった。
私はそれでも聞かなかった。
一度は夜に一人で泣き過ぎて、情緒不安定になって息子に当たり散らしちゃった事もあった。
そしたら息子がね
「ポマードポマード」
って言ったの。
母さんの当たる相手は僕じゃない。
そう息子は言ったの。
息子も浮気を知っていたみたい。
泣きじゃくる私に息子は小さなべっこう飴をくれて慰めてくれた。
それでも私は聞けなかった。
でも彼に心の底からもう一度
「綺麗だよ」
って言って欲しかったから浮気を問い詰めたかった気持ちもあった。
でも怖くて聞けなかった。
意気地のない意志とは裏腹に身体は素直だった。
でも、そんな事、口が裂けても言えないわ。
、、、口はこんなに裂けてるのにね。
だからいろんな人に聞いて安心したかったの。
彼が言ってくれたみたいに、、、
「私、綺麗?」
連日のように週刊誌が不倫疑惑をこぞって取り上げるような世の中ですね。
浮気を発見しても、浮気現場に出くわしても、それでもやぱり本当に辛いのは愛している人からその真実を聞かされる事でしょう。
何せ愛し、愛されたと思っていたその相手に面と向かって今までの愛がそんなものは無かったと否定されるのだから。
き口が裂けても言えないのに口が避けるほど言いたかった、そんなジレンマの間で彷徨ううちにいつしか彼女は
「口裂け女」
と呼ばれてしまうようになってしまったのでしょう。
ところで口裂け女についてですが都市伝説故に習性や服装に地域差があるようですよ。
私の聞いた話だと
赤いコートとベレー帽を身につけていて皆さんご存知の質問をしてきた後に襲われないようにするにはポマードポマードと唱えるかべっこう飴を差し出すと帰っていくそうです。
他にも赤い服じゃなくて白い服だったり、べっこう飴じゃなくてボンタンアメだったり、結構バリエーションも多いみたいです。
あなたはどんな口裂け女を知っていますか?
もしかしたら口裂け女は一人ではないかもしれません
そして彼女達にはそれぞれ口が裂けるほど言いたい事があったのかもしれません。
都市伝説「口裂け女」 より
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