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【学びの季節、育みの年】
よく学べ!→よく遊べ!⑥
しおりを挟む自分の内面に意識を向けるということ。
つまり、オレの中にいるイドの存在を感知するのと同じこと……だよね?
【はい。その認識で問題ありません。姫の自我を統括・補助しているのはシステム・イドですから。その要領で体内に存在する魔核を感知することは、姫にとって造作もないことと思われます】
なるほど。
と言っても、オレにとってイドの存在を感知する事は呼吸するぐらい自然な事だから……。
あれ?
でもこの、イドの存在の大きさの……倍ぐらいある熱の塊……これなんだろう。
【今姫が意識の端で触れたそれこそが『魔力』です。今度は全体を優しく包み込む様に意識を向けて下さい】
包み込む……ように。
こう、かな?
【その熱は一つの大きな塊ですが、いくつもの節が外側に向かって伸びているのが分かりますか?】
うん。分かる。
まるで血管のように、細いものから太いもの。いくつも枝分かれしているものから、伸びた先でどんどん溜まっているもの。
それはまるで人の形をなぞるように、精神の中央から流れては戻っていく──────力の循環。
【その流れを把握し、全てに余す事なく『姫』を混ぜ合わせて下さい。それは指向性を持って姫の意思に従順となり──────】
オレの意思のままに動き出し──────。
【皮膚を通して外側へ──────】
熱を吐き出すように──────。
【意識を──────】
力を──────。
「姫!! ラァラ!」
耳に響く4号の声に、オレはハッと顔を上げる。
「ラァラ姫! もういいにぃ! 魔力の放出をゆっくり弱めるにぃ!」
「ひ、ひめ。本当にゆっくりにゃあ? そーっと、そーっとやるにゃあ?」
心配そうにオレを見る3号の横で、ボゥトのオールを片手に4号が手を伸ばす。
「へ?」
な、なに?
どうしたの?
「姫、こっちに来るにぃ! アタシの足を取ってボゥトにしがみつくにぃ!」
「う、うん」
オレはとことこと地面を歩き、腰を落として4号の右前足を掴む。
ん? あれ?
とことこ?
なんでオレ、湖の底を歩いてるんだ?
「3号! 物理結界にぃ!」
「わ、わわわかったにゃあ! ど、どの結界でいくにゃあ!?」
「強度が強けりゃなんでもいいにぃ! 姫、来るにぃ!」
え、あの、な、なんでそんな慌てているの?
瞬間、大きな波の音が遠くオレの耳の奥までゴゴゴと轟いた。
「へ?」
振り向いてみる。
無い。
湖の水が、あんなにたくさんあった水が。
一滴も残って無い。
干からびたかのように、吸われたかのように。
緑色の苔や茶色い岩肌を露出して、湖の水が全て無くなっている。
水平線は地平線に。
平坦な水面は窪んだ盆地──────いや、これは崖と言ってもおかしく無い深さの、亀裂に。
目を閉じる前と閉じた後の景色が、がらりと変わっている。
「伏せるにぃ!」
「あ、あうっ」
惚けるオレに痺れを切らしたのか、ボゥトから飛び出してきた4号がオレの頭を乱暴に抑えて、地面に押し付ける。
湿った土と石ころが頬に当たって、ちょっと痛かった。
「結界ぃいいい! 全力展開にゃあぁあああ!」
3号が大声を上げた直後──────巨大な振動とともに、轟音がオレの鼓膜と身体を激しく揺さぶった。
「う、うわぁあああああああ!?」
「3号! 耐えるにぃ!」
「わ、分かってるにゃあ! だけどこんな巨大な質量の水の塊にゃんて! 超大規模魔法と似たようなもんにゃあ! 私でも耐え切れるかどうか!」
「倉庫から晶結界石をありったけ出すにぃ! もったいないなんて言ってらんないにぃ!」
「ま、マジックポーションもよろしくにゃあ!?」
「あの!? えぇ!? きゃあ!」
「姫は伏せとくにゃあ!」
「姫は伏せとくにぃ!」
「ご、ごごご、ごめんなさい!」
事態を飲み込めず顔を上げようとしたら二匹にめちゃくちゃ怒られた。
轟音と地響きは相変わらず続いているけれど、二匹の声だけはしっかりと耳に入ってくるのはなんでなんだぜ!?
ねぇ! イド!
【──────ひ、め】
イド!?
どうしたのイド!?
【ひ、姫の魔力の突発的な放出に、システム・イドがオーバーフローを起こし──────ました。不覚、です。お父様が予測していたよりも、姫の内包魔力が──────】
ブツブツと、まるで電波が不安定なラジオみたいにイドの声が途切れる。
な、なんだってんだー!?
何が一体どうなってんだー!?
にゃにがにゃんだかさっぱりだにゃーーー!!??
その音と地震が止むまでにおよそ10分──────オレは訳もわからずにただ土と砂利と小石に顔を埋めて混乱していた。
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