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【学びの季節、育みの年】

よく学べ!→よく遊べ!①

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 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「今日はとっても良い天気だにゃあ♡」

 お昼ご飯の入ったバスケットを両手で抱えて、3号はとても上機嫌だ。
 
 だだっ広い草原の真ん中に、草を刈っただけで作られた道をまっすぐ進む。
 今日の目的地は大きな湖。

 昨日歩いた距離より遠いから見た事はないけれど、猫たちの話では水平線が見えるぐらい大きいらしい。

「3号、重くない? 持とうか?」

「大丈夫にゃあ。4号には負けるけど、3号も結構力持ちにゃ」

 そう?
 3号の背丈だとバスケットが大きすぎて、歩きづらそうに見えるんだけど。

「姫はまだその小さい木刀の重さすら慣れてないにぃ。重い物はアタシらに任すにぃ」

 先導する4号が振り返ってオレの手にある木刀を指差す。
 短いもこもこの指は、注意してみないと指しているのかどうかも分からない。

「倉庫に入れておくと楽なんじゃない?」

「良いにゃ。ピクニックなんだから気分の問題にゃ。手ぶらだと面白くないにゃあ」

「3号は形から入る猫だからにぃ」

「にゃあ? 大事な事にゃあ?」

 ポカポカした陽気の草原の道をオレたちは歩いている。

 オレが培養器から出てもう1週間が経った。
 その間に痛かった喉はすっかり良くなり、舌ったらずながらもオレは普通に喋れる様にまで回復している。

 この1週間で、色んな物を見て色んな事をした。

 まずは自分の体がどうなっているかを把握するために、2号と4号に見守られながら軽い体力テストをした。

 と言っても、オレが前世の学校でやった様なスポーツテスト的な物じゃ無くて、もっと実験的な形式だったけど。

 顎関節の可動域だの、微弱な電流を流して筋肉の動きを見るだの、レントゲンの様な物を撮って内臓の様子を見るだの。

 徐々に重さが増していく真四角の石を持たされて、どこまで重さに耐え切れるかとか。
 低い段差から飛び降りた時の足関節への負荷のかかり方とか。
 5メートル程度の距離を何度も往復したり、お風呂の中で息止めとかもしたっけ。

 最初は1号の指示の元始まったその体力テストは三日間に分けて行われて、最後の方は屋敷の庭をグルグル回されてとてもじゃないが二度とやりたくないと思うほど辛い物だった。

 そのおかげか知らないけれど、自分にできる事とこれからやるべき事が少しだけ見えてきたと思う。

 今日のピクニックはその一環。

 まずは体力をつけないと話にならないってのが、オレやイドや猫たちの共通見解だ。

 驚くべき事なんだけど、オレの身体能力は一日ごとに物凄い勢いで成長をしている。
 夜寝る前と、朝起きた時にすぐ分かるぐらいの速度でだ。

 昨日まで持てなかった荷物が、今日は片手で持てるなんて序の口で。
 軽く飛び跳ねた高さが倍ぐらいになってたり、昨日は倒れそうなぐらい疲弊した距離を今日は鼻歌まじりに余裕で走れたり。

 この身体が普通の人間とは違う特別な身体だって、毎日実感している。
 だから今日はオレがどこまで歩けるかの第一回目の確認と、普段屋敷の中で閉じこもっているばかりだからたまには気分転換も兼ねてって事で、遠出を許されたってわけだ。

「凄いねぇ。これ、どこまで続いてるの?」

 どこまでも続く一本道を見て思わず嘆息し、先を行く4号に聞いてみる。

叡智の部屋ラボラトリの表面積は、主様マスターの遺した資料によると3793万㎢。その全体はアタシたちも全部確認できたわけじゃないにぃ? この草原地帯は、お屋敷から見て横には広いけれど、縦ではそこまで広いわけじゃないにぃ。湖が見えたら、そこから先は深い森になってるにぃ」

 ほ、ほぇ?
 さんぜんななひゃくきゅうじゅうさんまんへいほうきろめーとる?

 え、と。授業で習った日本の総面積が確か、37万㎢だから……あれ?

 100倍以上──────!?

 あ、あわわわわ。
 もう数字が大きすぎて何がなにやら。
 
 それ全部、ゼパル……お父様が一人で作ったの?

【資料によると、核となる超巨大な魔石をベースにして、52年ほどの時間をかけて構築したと記載されております。どうです? びっくりされましたか?】

 なんでそんなドヤってんの?
 あ、前にイドが言ってた『外に出ると驚く』って、この事?

 なるほど、それは負けました。とってもびっくりしました。
 今更になってこの叡智の部屋ラボラトリを『小さな世界』とイドが形容していた意味を思い知った。
 『秘密の隠れ家』とも言ってたから、屋敷や魔導炉の規模から考えてそれだけでも凄いなんて思っていたのに──────想像の桁が三つも四つも違うじゃん!

【アレは姫にも分かりやすい様、本当に小さく意味を噛み砕いた結果の例えです】

 お気遣い、ありがとうございますイドさん。
 くそう、オレは馬鹿だ。

「あ、あぁ! 4号、あれなに!?」

 まっすぐ道の先を見据える視界の端っこに、茶色くてでっぷりとした丸い物体が入り込んできた。
 
「んにぃ? アレはチュンチュにぃ。ただのスズメにぃ?」

 す、スズメ?
 アレが?
 どう見てもその体躯はオレより大きくて、翼なんかすっごい短くて、しかもコロコロと太っていてどう考えても飛べそうなフォルムをしていないんだけど!?

「食べてもあんまり美味しくないにぃ?」

「た、食べないよ!?」

 見てよ! 
 あの愛くるしい姿を!
 あ、あぁ!
 1匹だけだと思ったら、続々と集まり出した!
 凄い! 何匹いるんだろう! 40匹ぐらい居るかも!

「アイツら野生動物のくせして自衛手段が逃げるぐらいしか無いにぃ。視界の広い草原地帯を主に生息地にしていて、湖の近辺によく群がってるにぃ?」

「か、可愛いね! ねっ!?」

 うわ、ちっこいのも居る! ヒナかな!?
 さ、触っても良いかな!? 触りに行っても良いかな!?

「姫の方が100万倍可愛いにゃあ!」

 別に張り合って無いよ!

「アタシらからしたら雑魚も良いところだけど、姫にとってはあの巨体からくる体当たりは結構な脅威にぃ。今日は見るだけにしとくにぃ?」

「うっ!」

「今アタシが止めないと、走って行って触ろうとしてたにぃ? チュンチュは臆病だから、姫が突撃して行ったら群れがパニックを起こして何するかわかんないにぃ」

 そ、そっかぁ。
 あんなにもこもこで、あんなに愛嬌たっぷりなのに──────残念だぁ……。

「姫がこれからちゃんと毎日訓練をしたら、あんなの相手にもなんないぐらい強くなるにぃ。その時はとっ捕まえて煮るなり焼くなり愛でるなり好きにできるにぃ。今日は我慢にぃ?」

「う、うん。ああ、でもやっぱり可愛いなぁ……」

 あっ! ほらイド!
 凄いよ! 5匹並んで踊ってる! 可愛いねぇ!

【アレは1匹の雌を巡って争っている雄の所作だそうです。大抵不利な方が周囲の助力を得て踊るそうです。アレが見れる時点でもう勝負は決まっているとか】

 負け戦だったか! がんばれモテないメン! なんか同情しちゃう!

「姫の方が100億倍可愛いにゃ!」

 だから別に張り合って無いってば3号!
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