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第二章
勇者ちゃん、もう一人の勇者ちゃんと会う。④
しおりを挟む霞ヶ関にある、国土防衛局舎へと車は向かっている。
他の生徒に見られる訳にもいかないから、この間クソ親父が乗ってきたような趣味の悪すぎる成金的なリムジンではなく、どこにでもあるような一般的なワンボックスカーだ。
運転するのは、笹塚さんと言う女性局員。
特務では無いが、彼女もまた諜報工作員の一人。南条さん直下の部下で、くノ一だ。
忍びの者なのに朗らかな印象のある、ウェーブのかかった茶髪のセミロングが似合うおっとり美人さんで、その見た目は殆ど女子大生。
この車を運転しててもなんら違和感は無い。
そんな車に、助手席に俺。後部座席にアム。その最後部にディアを乗せて、車は首都高を快適な速度で走っている。
「エージェント雷火、お出迎えは今日みたいな時間帯で良かったですか?」
「はい、遅れそうだったりしたらまた俺から通達しますから。基本はこれで行きましょう」
車中で行われるのは、軽いブリーフィング。
「了解しました。アムちゃん、明日はもう少し余裕を持って起きましょうね? 朝の身支度、今日ギリギリでしたから」
「は、はい! 大変ご迷惑をおかけしました! ドライヤーなる物があんな便利だとはおもわず、つい念入りに……えへへ」
突然話を振られたアムが、両手をパタパタと振って慌てて返事を返す。
「お風呂もとっても使い勝手が良くて。この世界は本当に凄いですねぇ。魔力が無くても魔法と同じような恩恵を、みんなが平等に享受できるなんて、まるで夢のようです」
ふーん。こいつも一応身なりには気を使ってんだな。
そりゃそうか。
初めてあった時は寝起きでボサボサだったからそのイメージがついちまってたが、こいつも年頃の女の子だ。
あの裸族である妹の流華だって、学校に行く前はこっちがやきもきするほど時間かけて手入れしてるし。
無意識で失礼ぶっこいてたな。あとでこっそり謝っておこう。
「便利な物がいっぱいあって、私結構混乱しちゃってます。えへへ」
「……アムは、賢い子。ディアずっと見てきたから、わかる。」
アムの言葉に最後部座席でぼそりと呟いたのは、ディアだ。
ヘッドレストとヘッドレストの間に顔を突っ込み、とても優しい声で返事を返すものの、この車内でその声が聞けるのは俺だけだ。
なんだかとても可哀想に見えてしまう。
「えっと、明日は『たいいく』があるそうなんですが、たいいくぎ? なる衣装を用意しないといけないらしいです」
「ええ、大丈夫よ? 局で準備してるから。他にもジャージとか、普段着に使う私服とかも一通り私が選んでおいたから、あとでチェックしてみてね?」
「わっ、わぁ! ありがとうございます! なんだか至れり尽くせりで、ほんと申し訳ないですね! どんなのかなぁ。似合うと良いなぁ」
アムは笹塚さんの言葉にわかりやすくテンションを上げて喜んだ。
普段着かぁ。
今んとこアムは鎧姿か制服姿した見た事無いから、気になるではあるなぁ。
「……大丈夫。アムなら何を着てもきっと似合う。だって、アムは可愛い」
またもや、当の本人であるアムのは聞こえないのに、ディアは嬉しそうに返事を返す。
ああ、もう。
さっきからめちゃくちゃ悲しい気持ちになるからやめてくれよそれ!
フォローしようにも俺が返事を返す訳にもいかないから、想像以上に心にクるんだよ!
「うふふ、楽しいなぁ。明日も学校、楽しみだなぁ!」
「……ディアも、アムが楽しそうで、楽しいよ?」
早く!
早く目的地に着いてくれ!
居た堪れなさすぎて俺がもう保たない!
車はなおも首都高を走る。
俺だけが心苦しいこの車内が、もうちょっとだけ続くのだ。
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