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第二章
不審者ちゃん、涙目で訴える。②
しおりを挟む「たくっ、ウチの女連中は本当に人使いが荒い」
駅前の人気のスイーツショップでお目当てのケーキを購入し、静かな夜の住宅地を家路へと急ぐ。
ただでさえ疲れてんのに、更にどっと疲れが肩に伸し掛かり足取りは重い。
あー、早く風呂に入ってベッドに飛び込みたい。
明日はアムの本格的な初登校だ。
今日学校を案内した時なんか子供の様に目を輝かせて、楽しみを隠しきれていなかった。
俺もあんまり仲が良いわけじゃないクラスメートと、アイツが上手くやっていけんのか心配でたまらん。
「──────ら、頼花くん」
「ん?」
思わぬ場所で名前を呼ばれて立ち止まり、キョロキョロと見渡す。
あれ?
誰も居ない?
「ら、頼花くん。こっち」
やっぱり聞こえた。
どこだ?
「あ、あの。私、こっちだよ」
電球が切れてるのかチカチカと明滅する一本の街灯。
その影から、長髪の女が俺を見ていた。
「う、うおぉっ!?」
「こ、怖がらなくても、良いんじゃないかな? しょ、ショックだよ私」
び、びっくりしたぁ!
幽霊なんざ見慣れてる俺でも今の絵面はかなり恐怖映像だったぁ!
「あ、淡島? 何やってんだお前」
街灯の影に隠れていたのは、俺のクラスメートである淡島久だ。
長すぎる前髪に太すぎる一本の三つ編み。
細い体と大きなメガネが特徴の、クラスでも目立たない部類に入るおとなしい系の女子。
あんまり話す相手が居ない俺にとって、普通に会話してくれる数少ない女子の一人である。
「え、えへ。予備校の、帰りだよ?」
背中の平たい革製のカバンを背負っているせいか、いつもより姿勢が良い気がする。
目元は完全に髪で隠れていて、夜の暗闇も合間ってか表情が全然読み取れない。
「お、おう。お疲れ。なに? 二学年の間から予備校なんて通ってんのお前」
うちの高校ってそんなに進学校でもないから、この時期から受験の準備をする奴は珍しい。
「う、うん。私が行きたい大学。難関だから。おかーさんにお願いして入れて貰ったの」
「そっか。相変わらずお前は偉いなぁ」
「えへ、えへへ。そ、そうかな?」
人見知りで恥ずかしがり屋なもんだから、淡島はあんまり喋るのが得意では無い。
そのお陰とはなんだがクラスでも少し浮いていて、同じ様に浮き気味の俺とよく喋る様になったのだ。
「ら、頼花くんは──────お使い? そ、そのケーキ、美味しいよね」
「ああ、うちの馬鹿妹とお袋が買ってこいって煩いからな」
「る、流華ちん。相変わらずなんだね?」
「おう、遊び相手が不足して大変そうだから、お前もたまには遊びにこいよ。アイツ、喜ぶぜ?」
俺の同級生とほとんど縁の無い流華だが、この淡島に限っていえばかなり仲が良い。
ゲーセンに通うのを趣味とするぐらいゲームが上手い淡島と、人混みが苦手で行きたくてもゲーセンに行けないがゲームが上手い流華。
SNSを介して以前から親交があったらしく、つい最近初対面を済ませてすっかり意気投合しちまった。
「だ、だめだよ頼花くん。女の子を、すぐ家に誘っちゃ」
「あ、ああそっか。悪い悪い」
そうだよな。
普通は年頃の男子の家に女を誘うなんて、滅多に無いんだよな?
ああ、いかんいかん。
三年ぶりに裏の仕事なんかしたもんだから、『普通』と俺が離れかけてた。
「で、でも。流華ちんには、会いたいから。今度の日曜とか、空いてたりする?」
「ああ、俺は居ないかも知れんが、流華なら絶対家に居るからさ。遠慮なく来てくれよ」
「う、うん。じゃ、じゃあ私──────って頼花くん。その娘はお知り合い?」
「ん? なんの事だ?」
「その、背中に張り付いてる、銀髪の女の子」
背中?
何言ってんだお前。
「──────あ、う、ううん? ごめんね。見間違いだった。なんでも無いから。忘れて」
「お、おお」
なんだよ歯切れ悪いなぁ。
「じゃ、じゃあ私、帰るね?」
「ああ、気をつけて帰れよ?」
い、家。すぐソコだから。大丈夫。また明日……」
そう言って淡島は遠くを指差し、その方向にまるで川にでも流される様に滑らかに歩き出した。
「ああ、また明日」
アイツってお世辞にも明るい奴とは言えないから、あんな事言い出したらそれこそ幽霊か何かに見えてくるな。
まぁ、俺の目は雷火の血統と呪いが保証する超霊視機能搭載だ。
見えない幽霊なんて存在しない。
アイツに見えて、俺に見えないって事は絶対にありえないだろう。
「んー! 一回大きく背伸びをして、背筋の筋肉をこりほぐす。
「なんか、やたらと肩こるなぁ」
重たいっていうか、なんていうか。
「ま、気のせいだろ」
ケーキの入った箱を崩さない様に慎重に持ち替え、俺はまた家路に就いた。
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