勇者ちゃん、異世界より来たる!〜とんでも勇者の世話をすることになったんだが、俺はもうくじけそう〜

不確定ワオン

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第二章

妹ちゃん、宣戦布告をする。②

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「なんできのう帰って来なかったのぉおおおお!?」

「ぐわああっ!」

 腹筋に深刻なダメージを負う。
 妹と言う名の弾丸と化した流華るかが、一切の躊躇も減速もせずに飛びついてきたからだ。

 青天井状態で後ろに倒れ、後頭部と強かに床に打ち付ける。

「ぐあっ! がっ!」

「お兄ちゃんお兄ちゃん! マイブラザー!」

 苦悶の表情を浮かべながらのたうち回る俺などお構いなしと、流華はその尖った顎をグリグリと押し付け、腹部に追撃を与える。

「い、痛えな大馬鹿野郎! なんでお前、家に居るんだ! 学校は!?」

「お兄ちゃんが帰って来ないから、心配で心配でルカ何も出来なかったんだよ! 着替えも!」

「嘘つけ!」

 お前がそんな兄貴想いなら、俺はもっと楽出来てるわ!

「酷いっ! たった一人の妹の心からの言葉を、そんなぞんざいに扱うなんてっ!」

「いーや! 兄ちゃんを舐めるなよこのダメイモートが! どうせ起きたらお袋も俺も居なかったから、これ幸いと学校サボったんだろ!」

 部屋の奥からジャンク菓子とスイーツの匂いがプンプンしてきたぞ!
 究極のめんどくさがりなお前の事だ! 寝巻きから着替えるのも面倒くさがって裸のまま過ごしてたんだろ!!

「そんなことないもん! ルカは本当にお兄ちゃんが心配で心配で、今やってるゲームもどう進めたらいいのか分かんないからずっとぐるぐるぐるダンジョンを回って同じモンスターばっかり倒すぐらいは情緒不安定に───」

「レベル上げしてんじゃねーよ!」

 そもそもゲームをするな!

 分かったぞ!?
 部屋の中に変な気配を感じなかったのも、急に帰ってきた俺にビビって息を殺して潜んでいたからだな!?
 ちょっと考えてすぐ見つかると思ったから先手打って出てきたんだな!?
 気配遮断の訓練をバッチリ履修させたのは間違いだったか!
 小狡いことばっかりに工作員エージェントとしてのスキルを悪用しやがってコイツ!

「日曜の朝から帰って来ないお兄ちゃんが──────ん?」

 俺の腹部の上に乗っかりながら、流華はすんすんと鼻を鳴らす。

 伸ばしっぱなしでもうすぐ床に付いちまうんじゃないかってぐらい鬱陶しい髪をボサボサにして、まるで警察犬の様に俺の身体の至るところを這い回る。

「な、なんだ?」

 何してんだお前。

「ん──────がぶっ」

「いっっっっっっっっ!!!!!」

 ちょっ! 
 流華!? 流華ちゃん!?
 なんでお兄ちゃんの胸を噛んだのかな!?
 待ってそれ乳首!
 めっちゃ痛ぇ!

「あぐ、あぐ」

 ぐあああああああっ!
 何これ何これクソ痛ぇ!

「──────ぷあっ! お兄ちゃん!?」

「──────ってぇなぁ! 何しやがんだこの野郎!」

 ようやく口を離した流華は、その大きな黒目をかっぴらいて俺をキツ目に睨んだ。

「どー言うこと!? ルカ聞いてないよ! まいあ姉と会ってきたでしょ!!」

「ああ!? 会ってきたけどだからどーしたってんだよ!!」

 仮にも幼馴染なんだから、顔を合わせたってなんの不思議もないだろうが!

「それに知らない女の匂いと『味』がする! 聞いてない聞いてない! 誰なの!? どこのアバズレ!?」

 我が妹ながら、全然成長の見えない小さな身体をフルに使って、流華は怒りを表現する。

「彼女!? もしかしてお兄ちゃん、奇跡かお金か薬かなんかを使って彼女作ったの!?」

 そうまでしなきゃ兄ちゃんに彼女が出来ないと思ってんのかお前!
 いくら妹でも失礼だし無礼だぞ!?

「違うって! 『仕事』関係だよ! 仕事!」

 なんだこの言い訳。
 浮気した旦那が嫁に言うセリフみたいに聞こえる。

「嘘だもん! お兄ちゃんのバイトで女の人との接点ないの流華知ってるもん!」

 なんでそこまで知ってんだお前!
 一回もバイト先に来たことないくせに!

「本当に仕事だって! 局の方の仕事だよ! それでとある女の子の護衛に──────」

「──────局?」

 お、あ、あれ?
 流華? 
 流華ちゃん? なんでそんな、怖い顔してるんです?

 お目目の光が行方不明ですよ?

「お兄ちゃん、復帰したの?」

「あ、ああ。昨日の朝におや──────局に呼ばれて」

 あ、危ねー危ねー。
 流華の前で親父の名前出すところだったぜ。

「なんで? ルカに何も言わずに、復帰しちゃったの?」

 あ、いや。それは。

 急な話だったし。

「なんで? ねぇなんで? お兄ちゃん。お兄ちゃんってば。ねぇ、聞いてるの? なんで?」

「る、流華!? 兄ちゃんが悪かったからそれやめて!? そんな無表情な顔で身体揺らすのっ、兄ちゃんすっごい怖いから!」

 根源的な恐怖を感じちゃうから!
 SAN値的な!
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