13 / 39
第一章
勇者ちゃん、戦場にて高らかに嗤う⑥
しおりを挟む「──────あっぶねぇ! まいあ姉!」
急激に膨れあがる黒煙から勢いよく飛び出して、山の頂上から20メートルは落下したのち、俺は一本の木の天辺へと着地した。
「まいあ姉、無事か!? 観測室の人たちは!?」
首を振ってその姿を確認しようとするが、爆発の衝撃で舞い上がったい粉塵と黒煙が邪魔でも目視では確認できない。
「何だってんだ、もう!」
「あ、あの。猟介、私、えっと」
「ん?」
横抱きに抱えた状態のアムが、俺の胸の中で身を屈めて両手をいじいじと交差していた。
「どした?」
「いや、あの。あ、あの程度なら、私自分で対処できたので、か、抱えて逃げなくても、その、大丈夫だった、かなぁって」
あ、ああ。
そっか、つい反射的にアムを掴んで跳んだもんで、そこら辺考慮してなかった。
コイツの強さを考えたら必要なかったもんな。
悪い事しちまった。
アムにも今まで戦ってきた自信と自負があるだろうに、庇ってもらうなんて侮辱にも程があるな。
「悪い。お前女の子だから、つい」
「お、おう……お、女の子って。いや、そうですけど! わわわ、私女の子ですが、あの、ゆ、勇者ですので! ですので!」
「ご、ごめん」
何でこんなテンパってるんだお前。
「は、はじめて。男の人に庇って貰っちゃた……し、しかも。女の子って……女の子って!」
何やら小声でブツブツと呟いているが、爆発の影響で耳鳴りを起こしているせいで全く聞こえない。
「ん? すまん。さっきの爆発でまだ耳が。何だって?」
「い、いえ何でもありません! お、降ろしてください! 早く、降ろして!」
ジタバタと両手を振って、アムが腕の中で暴れまわる。
わ、わかったすぐ降ろすから! 危ないだろ!
「ほら!」
慌てて直ぐ下に生えていた枝の上に降ろす。
鎧の硬い部分が当たりまくって、ちょっと痛かった。
「あ、ありがとうございます! ふんだ!」
お、怒らせちまったか?
いや、俺も考えなしだったけど、そこまで怒んなくても良いだろうに。
それよりもだ!
「まいあ姉! どこだ! 無事か!」
「無事。それと任務中は苗字で呼ぶって、昔から何度も言ってる」
声に振り向くと職員二人の襟を両手で掴んでぶら下げたまいあ姉──南条さんが別の木の上に立っていた。
「良かった」
さすが風雅忍軍の現役くノ一。その速さは特務でも一・二を争うと言われているのは伊達じゃない。
観測室の職員二人の安否は────轟音と衝撃で失神してるみたいだな。
まぁ、変に錯乱して暴れられるよりマシか。
このまま眠って貰ってた方が動きやすいかも知れない。
「猟介、あれ!」
アムが大声を上げ、先ほどまで俺達が居た頂上を指差した。
未だ粉塵止まず、爆発で周囲を燃やしたままの底に、三つのシルエット。
「この魔力、『奴ら』です。間違いありません!」
アムのその言葉に、右脚の太もものホルダーに挿していた七色鋼のナイフを取り出し、逆手に取って構える。
「まいあ姉────南条さんはその人達を安全な場所に!」
「了解。特務二名、これより戦闘行動に入る。たった今から指揮権限は戦闘工作員である貴方に移る。承認を」
「了承した! 特務工作員雷火猟介、指揮権限を受諾する!」
口頭形式化した簡易手続きを踏んで、今この場を取り仕切る権限は俺が握っている。
「アム、悪いけどお前をアテにさせて貰うぞ! 良いか!?」
俺らの世界の事で申し訳ないんだが、敵の強さの基準が分からないこの状況で俺一人戦うのは正直不安だ!
「任せてください! 私は神剣に選ばれた勇者です! そこが異世界だろうと何だろうと、世界を救うのが私の使命!」
ニヤリと嬉しそうに微笑んで、アムは右手の拳をぐっと握り、横に振る。
「神剣────抜刀!」
その言葉と共に、アムの右拳が青い光に包まれた。
周囲から搔き集める様に収束していくその光は、次第に炎の様に揺らめき、そして赤く燃え上がった。
神剣ディアンドラはその炎の中から、威風堂々と現れる。
大理石をイメージさせるツヤと光沢のある白い刀身。
所々に装飾された、目の冴える真っ赤な意匠。
正に勇者が持つにふさわしき出で立ちで、その剣はアムの手にしっかりと収まっている。
「どこからでもかかってこい!」
……うーん。なんか締まらないんだよなー。
ノー天気すぎる声のせいか?
それとも幼すぎる容姿のせいか?
何というか、出来の良いコスプレを見てるみたいだ。
おっと、今は眼前の敵の集中集中!
「魔力……これがそうか?」
感霊圧に優れた俺の第六感が、得体の知れない力を感じ取る。
それは呪力に似て、それよりも自然で軽いモノ。
だけどここまで多く重く感じれば、脅威を覚えるには充分だ。
「どうです!? イケそうですか!?」
余裕そうに剣を構えながら、アムが俺に問いかける。
「……うん。この感覚で判断するなら、余裕とまでは言わないが何とか対処できそうな気は……する」
今まで相手して来た奴らと比較しても、そう大きく乖離していない威圧感。
これなら、おそらく俺でも戦える筈!
「それなら良かったです! あ、もう出て来ますよ!」
強い風を受けて、粉塵と黒煙が勢いよく吹き飛ばされた。
そこに立っていたのは────。
「──────ここが、新しい戦地モフ?」
「ふんっ、何の面白みも無い世界だサバ」
「これなら、ぼき達が三人も出張ってくる必要なかったぞな」
一体はふっくらとした毛並みの良いデカい柴犬と、丸々とした、緑色の────これまたデカい魚?
そしてもう一体は、何だアレ。どう形容して良いか分かんないけど、手足の生えたボーリングの玉みたいな、えっと、とにかく真っ青な物体。
これが、敵?
ゆるキャラとか、マスコットとかじゃなくて?
た、戦いづらく無い?
「あ、アム。あいつら────」
奴らと交戦経験のあるアムに意見を聞いて貰おうとその顔を見る。
────なんか、ヤケにキラキラした視線を向けていた。
解せん。
「なっ、何ですか! 何ですかあの可愛い生き物! こ、こっちの世界の生き物ですか?」
「ちっ、違う違う! あんなでっかい柴犬も魚もこっちの世界には居ない────って、お前にも分かんないの!? 敵じゃないのか!?」
「私が戦ったのは、魔王ハーケインみたいに人間に禍々しい翼や角があるモノでした! あんな可愛いの、私っ斬れない!!」
え、えぇ……。
んじゃどーすれば良いんだよ。
「貴様らっ! 邪魔だどけっ!」
「何を偉そうにしてるのか。理解不能」
「転移は成功したんだ。さっさと消えろ」
敵だと思っていた三──匹? の後ろから、新たに偉そうな声が三つ聞こえて来た。
「あーこれはこれは三天将様方! お邪魔して申し訳ないモフ!」
「ちょ、ちょっとサバたちもカッコつけてみたかっただけサバ!」
「消えろって言ったて、もうボキたちが通って来た門閉じちゃったぞな! ど、どうすればいいぞな!?」
その声に向かって、モミモミと手もみをしてへり下る柴犬もどきと、地面近くまで頭を下げるデカい魚。
そしてアタフタと慌てる謎の球体。
て、展開が謎すぎてついていけん!
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
高校生からはじめる地球侵略
佐馴 論
ファンタジー
地球を狙う宇宙人「ゲルマ星人」のレオル=マクニールは、スパイとして地球人社会に潜入したのだが……なんと彼は高校生に成りすますことに。
インスタ映え、満員電車、タピオカ行列etc――奇天烈な地球文化に呆れるばかりのレオルが出会ったのは、かつて宇宙人に誘拐されたというクラスメート「星降舞依」だった。
調査のために舞依近づくレオル。彼らの絆が少しずつ深まる中、地球防衛組織「BLUE」の魔の手が迫る。そしてレオルとBLUEの対決は、日本政府と警察、アメリカ政府をも巻き込んでいく。やがて舞依に隠された真実が明かされ、かつて舞依を連れ去った恐るべき宇宙人が姿を現す。ゲルマ星人、地球人、そして新たな宇宙人――地球の命運は誰の手に渡ってしまうのか?
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
※小説家になろう 様 カクヨム 様にも掲載中
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる