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後編 あの人と会ってから

【44話】父の死

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父は、少し前に小さな胃がんが見つかって

手術して切除していた。

それが原因で痩せたのかと思ったけど…

食べたくても食べられないから痩せてしまったらしい。

父は、私に

「生命保険は、ゆうこの名義にしているから、

もし自分が亡くなった時に、こうしてとか

ちゃんと話しておきたい」

と言ったのだけれど…

私は、そんな事を考えたくなくて…

「今度ね」と言ってしまった。



私は、これから父が亡くなることを知っている。

亡くなった時に、もっと会いに行けば良かったと

後悔した…

行けなかった日に父に会いに行っても

未来は変わるのかな…

もう、あの人と再婚できたし…

会いに行っても変わらないのでは?

と思っていた。


1度目の人生で、父が亡くなる少し前に祝日があって

その日に会いにいこうとしていた。

でも、前の家の隣のおばちゃんが

家に遊びに来ると言ったから、無理だなと諦めていた。

結局、おばちゃんは来ず、電話をしたら

おばちゃんは「今日だっけ?忘れてた…ごめん」と言った。

父に会いに行けば良かったと後悔した。


せめて、あの日に会いに行こうと決めた。

そして、あの日…

私は、二男を連れて会いに行った。

その時にも、父はもう元気がなく…

横になっていたけれど…

他愛無い話は出来た。

会いに行って良かったと思った…

でも、後妻さんがいて父が死んだ時どうするかの話を

することは出来なかった…


これで、未来が変わってしまったらどうしようかと

心配になったけど…今度は後悔したくなかった。


それから、暫くして後妻さんから

連絡が来た。

父が、わけの分からないことばかり言って

後妻さんの言うことを聞いてくれないから

来て欲しいと…

私は、次の休みに行くと答えた。

でも、その前日に

後妻さんから連絡があって

入院したと…

私は、二男を連れて慌てて病院に行った。


病院に行ったら、父は動けないけど

口は達者で喋っていた。

私から食べるようにと言って欲しいと言われ

父にお粥を食べるように言ったけど…

なかなかだったが、口に持って行ったら

食べてくれた。


医師からは、このまま食べられないと危ない。

胃ろうするしかないと言われた。

父に「食べないと死んでしまうよ」と話すと

「わしだって死にたくないよ」とつぶやいた…


後妻さんから、お金の場所を聞いて欲しいといわれたから

聞いてみたが、ちゃんと答えてくれた。

父は、私がいない間に二男に

「お母さんのこと、頼むよ。守ってやってくれ」

と言ったと、後で二男から聞いた。


翌日、私と後妻さんは入院代のこともあるし…

家に行ってお金を探した。

その後、銀行回りをしたけど1か所だけ

通帳記入出来ない通帳があった。

その間、兄嫁が来て父を見ていてくれた。

私は翌日、会社の給与の振り込みをしなければいけなったから

午前中は、会社に行った。

午後から、病院に行ったら後妻さんが

「あの通帳、1万ちょっとしか入ってなかったよ」と…


一人で銀行に解約をしに行っていたのだ…

後妻さんは、お金に汚いと父は言っていたが

本当だったと、兄嫁と顔を見合わせて驚いた。


その夜、父は元気になっていたそうだが

翌日には、だいぶ喋れなくなっていた。

長男が彼女と「今おじいちゃんに会いに行ってきた」と

連絡して来て「今から家に行っていい?」と家に来た。

一緒にご飯を食べていたら

後妻さんから連絡があって、父が危篤だと…

長男と二男と病院に向かった。

行った時には、もうほとんど意識は無かった…

後妻さん、兄、兄嫁、甥っ子、姪っ子2人、長男、次男、私…

勢ぞろいだった。

みんなで、父に声を掛けた。

私は、意識が薄れていく中、父に

「二男も来てるよ」と言った。

その時、かすかに父の目が動いた気がした…


その後すぐ、父は亡くなった…
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