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番外編 響さん、責任取って 3
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「伊織……ちょっとだけ真面目な話をしていいか?」
響さんはそう言ってガムをもう一つ口に放り込んだ。
「う、うん」
「煙草がないと手持無沙汰で困るな……」
響さんの左手が伸びてきて私の右手に重なった。
車はさっきから全く動かない。
響さんは正面を向いたまま話し出した。
「さっき今井先生に怒られたから君をデートに誘ったって言ったけど……もちろんそれだけが理由じゃない。伊織を……喜ばせたかったんだ。君には本当に感謝してる。いつも、助けてくれてありがとう」
「響さん……」
こんな風に改めてお礼を言われるなんて思ってもみなかったから、すごく嬉しい。
その想いを伝えたくて、私は左手を響さんの手にそっと重ねた。
「結衣が亡くなってからずっと、彼女の事を思い出すのが怖くて、休みの日も家で仕事して……ベランダでただ煙草の煙と一緒にため息を吐き出してた。それが今、こうして穏やかに伊織と手をつないでいる。……こんなに素敵な休日が自分に訪れるなんて思ってもみなかったよ。何だか生まれ変わって以前とは別の人生を歩んでいるような、そんな気持ちなんだ」
丁寧に、ゆっくりそう言って響さんはほほ笑んだ。
「伊織……これもすべて君のおかげだ」
そんな……そんなことないよ……。
私の視界が涙で潤む。
結衣さんの事を思い出に出来たのは響さんが頑張って乗り越えたからだ。
私はただそばにいただけ。
「だから今日のデートはいつものお礼。……いや、今日だけじゃない、これから沢山二人で出掛けよう。どこにだって連れて行ってやる。結衣との時間は七年前に止まってしまったけど、これからは伊織と思い出を作っていける……。君と、幸せになりたいよ」
響さんが紡ぐ言葉と、重ねた手のひらがとてもあたたかくて胸がジーンとする。
長い時間をあの部屋で一人で過ごして、幾多の辛い夜を乗り越えてきた響さん。
結衣さんを深く深く愛していた。
そんな響さんが私は……好き。
こんなに素敵な人に愛されるなんて、これ以上の幸せはないよ。
気が付いたら涙がぽろぽろこぼれていた。
「ああほら……泣くなよ……君を泣かせたいわけじゃないのに」
響さんは困ったように眉を寄せた。
「ごめん、伊織。こんなつもりじゃなかったんだけどな……」
ううん、私、嬉しいの。
こっ、これはうれし涙だからっ……!
だからそんなに困った顔をしないで。
「次のデートではすべて伊織のしたいようにしてやるからさ……だから泣き止んでよ」
さらに優しい言葉をかけられたらもう、涙が止まらなくなってしまった。
こんな不意打ち、ダメだよ。
胸が、苦しい。
「ひっ、響さんは、どういうつもりなの?」
「え?」
「そ、そんなに優しい言葉で私を甘やかして、響さんをこんなに……好きにさせて、どうするの?」
「伊織……」
私は響さんの左手を両手でギュッと握る。
「わっ、わたしっ、響さんが好きっ……好きだよ。……会うたびに好きになるの……もうっ、苦しいよ。……だから響さん……責任、取って」
「責任って……」
その時、クラクションが短く響いた。
気が付いたら前の車はもうずいぶん進んでいる。
「あ、ごめんなさい……」
私は慌てて響さんの手を離した。
「ああ、うん……」
響さんは前を向いて運転を再開した。
……私、感情が高ぶって随分勝手なことを言っちゃった気がする……。
車は渋滞を抜けたようでスムーズに走り出した。
しばらくすると車窓は見慣れた風景になった。
もうすぐ響さんの家に着く。
駐車場に着くまで私たちはお互いに口を開かなかった。
「あの……運転、お疲れさまでした」
そう言って車を降りようとしたら突然腕を掴まれた。
「っ、響さんっ!?」
そのまま体を引き寄せられる。
気が付いたら私は響さんの広い胸の中にいた。
「伊織、さっきの言葉。責任なんて……」
「あ、ごめんなさい、私あんな事……」
言うつもりなかったのに。
思わず口を突いて出た言葉に自分でもびっくりしてる。
「責任なんて……俺はすぐにでもとりたいくらいなのに、そんな事言っていいの?」
え……?
「俺はね、もう君なしの人生なんて考えられない程君が好きなんだ。さっきの言葉、取り消したいって言っても受け付けないよ。……それでもいいの?」
うん。
いいよ……。
この人は絶対に私を大切にしてくれる。
そう確信してるから。
響さんみたいに愛情深い人に愛されて幸せになれないはずがないよ。
私は響さんを見上げるとその形のいい唇に自分の唇を押し付けた。
「伊織っ!?」
「私、さっきの言葉、取り消さない。……響さん、責任取って……」
「ああ……喜んで」
響さんはそう言って私をギュッと抱きしめてくれた。
響さん……愛してる。
「伊織……。今日はなんてすばらしい日なんだ……。君の方から逆プロポーズしてくれるなんて……こんなに嬉しいことはないよ」
って、んん?
ぎゃ、逆プロポーズ……!?
……したの!?
私……しちゃったの!?
響さんはそう言ってガムをもう一つ口に放り込んだ。
「う、うん」
「煙草がないと手持無沙汰で困るな……」
響さんの左手が伸びてきて私の右手に重なった。
車はさっきから全く動かない。
響さんは正面を向いたまま話し出した。
「さっき今井先生に怒られたから君をデートに誘ったって言ったけど……もちろんそれだけが理由じゃない。伊織を……喜ばせたかったんだ。君には本当に感謝してる。いつも、助けてくれてありがとう」
「響さん……」
こんな風に改めてお礼を言われるなんて思ってもみなかったから、すごく嬉しい。
その想いを伝えたくて、私は左手を響さんの手にそっと重ねた。
「結衣が亡くなってからずっと、彼女の事を思い出すのが怖くて、休みの日も家で仕事して……ベランダでただ煙草の煙と一緒にため息を吐き出してた。それが今、こうして穏やかに伊織と手をつないでいる。……こんなに素敵な休日が自分に訪れるなんて思ってもみなかったよ。何だか生まれ変わって以前とは別の人生を歩んでいるような、そんな気持ちなんだ」
丁寧に、ゆっくりそう言って響さんはほほ笑んだ。
「伊織……これもすべて君のおかげだ」
そんな……そんなことないよ……。
私の視界が涙で潤む。
結衣さんの事を思い出に出来たのは響さんが頑張って乗り越えたからだ。
私はただそばにいただけ。
「だから今日のデートはいつものお礼。……いや、今日だけじゃない、これから沢山二人で出掛けよう。どこにだって連れて行ってやる。結衣との時間は七年前に止まってしまったけど、これからは伊織と思い出を作っていける……。君と、幸せになりたいよ」
響さんが紡ぐ言葉と、重ねた手のひらがとてもあたたかくて胸がジーンとする。
長い時間をあの部屋で一人で過ごして、幾多の辛い夜を乗り越えてきた響さん。
結衣さんを深く深く愛していた。
そんな響さんが私は……好き。
こんなに素敵な人に愛されるなんて、これ以上の幸せはないよ。
気が付いたら涙がぽろぽろこぼれていた。
「ああほら……泣くなよ……君を泣かせたいわけじゃないのに」
響さんは困ったように眉を寄せた。
「ごめん、伊織。こんなつもりじゃなかったんだけどな……」
ううん、私、嬉しいの。
こっ、これはうれし涙だからっ……!
だからそんなに困った顔をしないで。
「次のデートではすべて伊織のしたいようにしてやるからさ……だから泣き止んでよ」
さらに優しい言葉をかけられたらもう、涙が止まらなくなってしまった。
こんな不意打ち、ダメだよ。
胸が、苦しい。
「ひっ、響さんは、どういうつもりなの?」
「え?」
「そ、そんなに優しい言葉で私を甘やかして、響さんをこんなに……好きにさせて、どうするの?」
「伊織……」
私は響さんの左手を両手でギュッと握る。
「わっ、わたしっ、響さんが好きっ……好きだよ。……会うたびに好きになるの……もうっ、苦しいよ。……だから響さん……責任、取って」
「責任って……」
その時、クラクションが短く響いた。
気が付いたら前の車はもうずいぶん進んでいる。
「あ、ごめんなさい……」
私は慌てて響さんの手を離した。
「ああ、うん……」
響さんは前を向いて運転を再開した。
……私、感情が高ぶって随分勝手なことを言っちゃった気がする……。
車は渋滞を抜けたようでスムーズに走り出した。
しばらくすると車窓は見慣れた風景になった。
もうすぐ響さんの家に着く。
駐車場に着くまで私たちはお互いに口を開かなかった。
「あの……運転、お疲れさまでした」
そう言って車を降りようとしたら突然腕を掴まれた。
「っ、響さんっ!?」
そのまま体を引き寄せられる。
気が付いたら私は響さんの広い胸の中にいた。
「伊織、さっきの言葉。責任なんて……」
「あ、ごめんなさい、私あんな事……」
言うつもりなかったのに。
思わず口を突いて出た言葉に自分でもびっくりしてる。
「責任なんて……俺はすぐにでもとりたいくらいなのに、そんな事言っていいの?」
え……?
「俺はね、もう君なしの人生なんて考えられない程君が好きなんだ。さっきの言葉、取り消したいって言っても受け付けないよ。……それでもいいの?」
うん。
いいよ……。
この人は絶対に私を大切にしてくれる。
そう確信してるから。
響さんみたいに愛情深い人に愛されて幸せになれないはずがないよ。
私は響さんを見上げるとその形のいい唇に自分の唇を押し付けた。
「伊織っ!?」
「私、さっきの言葉、取り消さない。……響さん、責任取って……」
「ああ……喜んで」
響さんはそう言って私をギュッと抱きしめてくれた。
響さん……愛してる。
「伊織……。今日はなんてすばらしい日なんだ……。君の方から逆プロポーズしてくれるなんて……こんなに嬉しいことはないよ」
って、んん?
ぎゃ、逆プロポーズ……!?
……したの!?
私……しちゃったの!?
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