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番外編 響さん、責任取って 2
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初めて3D4DXで見た映画はそれはもう楽しかった。
ストーリー自体は普通のヒーローものだったんだけど、とにかく4DXの演出がすごかったの。
4DXって映画のシーンにあわせて座席が上下左右に動くだけじゃなく雨がふったり風が吹いたり、時には背中が強く押されたり……。
とにかく臨場感が半端なかった!
普通の映画では味わえない興奮がそこにあった。
もう、これは映画っていうよりアトラクション!
ゴメン、映画館!
大人になった私は、もうここにはドキドキはないと思っていた。
それは大きな間違いだったよ。
鑑賞中ずーっとドキドキしてた。
私、映画デートを見直したよ。
ただ……残念だったのは響さんと手をつなぐ余裕なんて全然なくて、ずっとひじ掛けを握りしめていたこと……。
「はぁぁあ! 楽しかったー!」
「そうだな、想像以上にすごかったな!……あ、伊織。ちょっと早いけどそろそろ夕食にしようか? 何が食べたい……?」
「そうですねぇ……」
スマホでモールのフロアガイドを見てしばらく悩む……。
一階にはレストラン街があって三階にフードコートがあるようだ。
響さんは私の手元をのぞき込むとニヤリと笑った。
「お、トンカツかぁ。いいなあ……」
って、響さん!
「揚げ物はまだお勧めできませんよ……!」
「だよな……」
いくら退院したとはいえまだまだ摂生が必要なのだ。
響さんはがっくりと肩を落とした。
「フードコートでうどんを食べましょうか?」
「ああ……」
私たちは並んで歩き出した。
すぐに響さんが手をつないでくれる。
「あ、伊織は俺の事なんて気にせずに好きなものを食べていいんだからな」
そう言ってくれるのは嬉しいけど……私も一緒にうどんを注文しようって思ってるよ。
だって、我慢している人の前で私だけ好きなものを食べるなんてかわいそうじゃない?
それに……。
「私ね……正直何を食べるかなんてどうでもいいんです。今日こうしてデートに連れて来てくれたのが嬉しいから。響さんと一緒なら何だって……」
「君ね……」
響さんは立ち止まると、はーっとため息をついた。
「そういう可愛いことをいうのは二人だけの時にしてくれないか?」
「え?」
「今すぐここで抱きしめたくて困る」
響さんはそう言ってつないだ手に力を込めた。
響さん……。
私ね、響さんと出会えて本当に、幸せだよ……。
「せっかくショッピングモールに来たんだから少し買い物でもしようと思ってたんだけど……今すぐ帰りたい」
響さんはおうどんをすごい勢いで平らげると言った。
別に買いたいものは特にないから私は構わないけど……どうしたんだろう?
小さな二人掛けのテーブル。
向かい合わせに座ってじっと見つめられると、胸がドキドキしてしまう。
「ごめんな、せっかくのデートなのに。でも今は早く二人きりになりたい……いい?」
え? そ、そういう意味……?
「う、うん……」
「じゃあ、行こう」
響さんはさっと立ち上がると二人分のトレイを返却しに行ってしまった。
す、素早い……!
私も急いで後を追う。
事務仕事もこれぐらい素早くしてくれたら助かるんだけど……。
「うーん、混んでるなぁ」
土曜日の夕方だもんね。
上り車線は渋滞していた。
「これ……ちょっと時間がかかるかも?」
響さんはそう言ってガムを口に放り込む。
「あ! じゃあ、昨日のドラマの犯人を教えてくれませんか?」
夕べ、結局犯人は分からなかった……。
もちろん、響さんのせいだ。
「ああ、あれね……えーっと、誰だったか……?」
「ちょっと! 響さん!」
「いやいや、冗談。そうだな……」
響さんは笑いながらストーリーを細かく話してくれた。
「ところで……どうして急にデートに誘ってくれたんですか?」
「えっと、それは……。実は今井先生の勧めで……」
「今井先生?」
「そう……3D4DXがいかにおもしろいか力説されてしまってさ。俺がつい『映画なんて随分見てない、それどころか伊織と出かけたことがない』って言ったら、デートぐらいちゃんと連れて行けって……激怒された」
げ、激怒って……。
あの、お人形さんみたいにかわいい今井先生が?
「あの人、怒ると怖いぞ……」
知らなかった……。
でも、ありがたい。
きっと今井先生は私のために怒ってくれたんだろうから。
「そういえば今井先生の家ってモールのすぐそばでしたよね?」
「ああ、らしいな。せっかくの伊織との初デート中に鉢合わせしたくないから今日は噂のイケメン彼氏とはこの辺りをうろつかない様に頼んでおいた」
って響さん。そんなことまで……?
「……今井先生はデートどころじゃないかも知れませんけど……?」
先日、超絶イケメンのカレシさんの浮気疑惑が持ち上がってしまって今井先生は気が気じゃないのだ。
まあ、私は先生の勘違いだろうと思っているけど。
だって、話を聞いた限り今井先生のカレシさんの溺愛っぷりは半端ない。
こないだ、キャナルで酔っぱらった今井先生を迎えに来た時のあの蕩けるような甘いまなざし……。
正直、あれで浮気しているとはどうしても思えないんだよね……。
オマケに子供の頃から相思相愛だったらしいし、やっと手に入れた今井先生をあのカレシさんが手放すような真似はしないと思うんだけど。
でも、今井先生はカレシさんを好きだからこそ疑っちゃうんだろうなぁ……。
純愛だ……。
それにしても。
『実は今井先生の勧めでデートに誘った』ってことを当の私に素直に白状しちゃうところが、かっこつけない響さんらしくて好感が持てる。
私の彼だって今井先生の彼に負けないぐらいにカッコイイんだから……。
私はそっと響さんの横顔を見つめた。
スッと通った綺麗な鼻筋。涼し気な瞳……。
うん、こうして改めて見ると……ど、どうしよう?
本気でかっこいいんですけど!!
わ、私、今日こんなにかっこいい人と手をつないで歩いちゃってた!
っつーか、周りを全く気にしてなかったよ。
響さんしか目に入らなかったなんて……私、完全にこの恋にはまってる……。
ストーリー自体は普通のヒーローものだったんだけど、とにかく4DXの演出がすごかったの。
4DXって映画のシーンにあわせて座席が上下左右に動くだけじゃなく雨がふったり風が吹いたり、時には背中が強く押されたり……。
とにかく臨場感が半端なかった!
普通の映画では味わえない興奮がそこにあった。
もう、これは映画っていうよりアトラクション!
ゴメン、映画館!
大人になった私は、もうここにはドキドキはないと思っていた。
それは大きな間違いだったよ。
鑑賞中ずーっとドキドキしてた。
私、映画デートを見直したよ。
ただ……残念だったのは響さんと手をつなぐ余裕なんて全然なくて、ずっとひじ掛けを握りしめていたこと……。
「はぁぁあ! 楽しかったー!」
「そうだな、想像以上にすごかったな!……あ、伊織。ちょっと早いけどそろそろ夕食にしようか? 何が食べたい……?」
「そうですねぇ……」
スマホでモールのフロアガイドを見てしばらく悩む……。
一階にはレストラン街があって三階にフードコートがあるようだ。
響さんは私の手元をのぞき込むとニヤリと笑った。
「お、トンカツかぁ。いいなあ……」
って、響さん!
「揚げ物はまだお勧めできませんよ……!」
「だよな……」
いくら退院したとはいえまだまだ摂生が必要なのだ。
響さんはがっくりと肩を落とした。
「フードコートでうどんを食べましょうか?」
「ああ……」
私たちは並んで歩き出した。
すぐに響さんが手をつないでくれる。
「あ、伊織は俺の事なんて気にせずに好きなものを食べていいんだからな」
そう言ってくれるのは嬉しいけど……私も一緒にうどんを注文しようって思ってるよ。
だって、我慢している人の前で私だけ好きなものを食べるなんてかわいそうじゃない?
それに……。
「私ね……正直何を食べるかなんてどうでもいいんです。今日こうしてデートに連れて来てくれたのが嬉しいから。響さんと一緒なら何だって……」
「君ね……」
響さんは立ち止まると、はーっとため息をついた。
「そういう可愛いことをいうのは二人だけの時にしてくれないか?」
「え?」
「今すぐここで抱きしめたくて困る」
響さんはそう言ってつないだ手に力を込めた。
響さん……。
私ね、響さんと出会えて本当に、幸せだよ……。
「せっかくショッピングモールに来たんだから少し買い物でもしようと思ってたんだけど……今すぐ帰りたい」
響さんはおうどんをすごい勢いで平らげると言った。
別に買いたいものは特にないから私は構わないけど……どうしたんだろう?
小さな二人掛けのテーブル。
向かい合わせに座ってじっと見つめられると、胸がドキドキしてしまう。
「ごめんな、せっかくのデートなのに。でも今は早く二人きりになりたい……いい?」
え? そ、そういう意味……?
「う、うん……」
「じゃあ、行こう」
響さんはさっと立ち上がると二人分のトレイを返却しに行ってしまった。
す、素早い……!
私も急いで後を追う。
事務仕事もこれぐらい素早くしてくれたら助かるんだけど……。
「うーん、混んでるなぁ」
土曜日の夕方だもんね。
上り車線は渋滞していた。
「これ……ちょっと時間がかかるかも?」
響さんはそう言ってガムを口に放り込む。
「あ! じゃあ、昨日のドラマの犯人を教えてくれませんか?」
夕べ、結局犯人は分からなかった……。
もちろん、響さんのせいだ。
「ああ、あれね……えーっと、誰だったか……?」
「ちょっと! 響さん!」
「いやいや、冗談。そうだな……」
響さんは笑いながらストーリーを細かく話してくれた。
「ところで……どうして急にデートに誘ってくれたんですか?」
「えっと、それは……。実は今井先生の勧めで……」
「今井先生?」
「そう……3D4DXがいかにおもしろいか力説されてしまってさ。俺がつい『映画なんて随分見てない、それどころか伊織と出かけたことがない』って言ったら、デートぐらいちゃんと連れて行けって……激怒された」
げ、激怒って……。
あの、お人形さんみたいにかわいい今井先生が?
「あの人、怒ると怖いぞ……」
知らなかった……。
でも、ありがたい。
きっと今井先生は私のために怒ってくれたんだろうから。
「そういえば今井先生の家ってモールのすぐそばでしたよね?」
「ああ、らしいな。せっかくの伊織との初デート中に鉢合わせしたくないから今日は噂のイケメン彼氏とはこの辺りをうろつかない様に頼んでおいた」
って響さん。そんなことまで……?
「……今井先生はデートどころじゃないかも知れませんけど……?」
先日、超絶イケメンのカレシさんの浮気疑惑が持ち上がってしまって今井先生は気が気じゃないのだ。
まあ、私は先生の勘違いだろうと思っているけど。
だって、話を聞いた限り今井先生のカレシさんの溺愛っぷりは半端ない。
こないだ、キャナルで酔っぱらった今井先生を迎えに来た時のあの蕩けるような甘いまなざし……。
正直、あれで浮気しているとはどうしても思えないんだよね……。
オマケに子供の頃から相思相愛だったらしいし、やっと手に入れた今井先生をあのカレシさんが手放すような真似はしないと思うんだけど。
でも、今井先生はカレシさんを好きだからこそ疑っちゃうんだろうなぁ……。
純愛だ……。
それにしても。
『実は今井先生の勧めでデートに誘った』ってことを当の私に素直に白状しちゃうところが、かっこつけない響さんらしくて好感が持てる。
私の彼だって今井先生の彼に負けないぐらいにカッコイイんだから……。
私はそっと響さんの横顔を見つめた。
スッと通った綺麗な鼻筋。涼し気な瞳……。
うん、こうして改めて見ると……ど、どうしよう?
本気でかっこいいんですけど!!
わ、私、今日こんなにかっこいい人と手をつないで歩いちゃってた!
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