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1話 なんで休みの日にこんなところで天敵の吉野先生と床に寝っ転がっているんだろう
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ん? あれ? 朝……?
窓から差し込む朝日が眩しい。私、昨日カーテン閉めずに寝たっけ?
って、ここはどこ? なんか景色が変だ。私の部屋の窓からは隣のマンションの壁が見えるはずなのに、青い空しか見えない。まるでホテルの高層階に泊まった時のような見晴らしだ。
え? ちょっと待って、見慣れない部屋だ……。随分散らかっている。リビングテーブルの上にはビールの空き缶がいくつも放置されている。
いや、ホントにここはどこなの?
……私は全く知らない家のリビングのカーペットの上で目が覚めた。
「う……ん……結衣……」
「うわっ」
急に横から腕が伸びてきて私は抱きすくめられる。と、隣に男の人が眠っていた!
え? この人……よ、吉野先生だ!
私が勤める小学校には残念なイケメンが二人いる。
彼はそのうちの一人、吉野響先生。私より六歳年上の三十二歳。
吉野先生は私の天敵だ。といっても別に性格が合わないとかそういう事じゃないよ。
私は小学校の事務職員をしているんだけど、この人、とにかく提出書類の期日を守らないのだ! 毎回私がせっついてなんとか事なきを得ているけど、いっつも締め切りぎりぎりで私はやきもきさせられる。
ホントに困ったイケメンなのだ。
顔はね……最高なのよ。切れ長の黒い瞳も、それを縁取る長いまつげもスッと通った鼻筋も見ほれるほどだ。
おまけに背も高くてスタイルは抜群。声が低くて色気がダダもれだ。
ただ、小学生相手じゃ意味がないけどね。
もったいないことにこの人、全然身なりを気にしないの。髪はいつも寝ぐせで跳ねているしシャツも清潔そうではあるけど洗いっぱなしでアイロンをかけていないのが分かる。
今だって彼が着ているシャツはしわしわだ。せめて形態安定シャツだったら良かったのに……。
こんなにかっこいいのに身の回りの世話をしてくれる人を寄せ付けないらしいというのが、吉野先生が残念なイケメンと言われている理由だ。
吉野先生は以前結婚式直前に破談になって、それ以来こんな調子だと噂で聞いた。
素敵な人なんだけどね……。
でも、私の好みのタイプじゃないんだよなぁ。
私は自分がサバサバした性格なので真逆のかわいらしい男性がタイプなのだ。
私がこの一年と少しの間、恋をしていたのは、佐藤俊哉先生。わが校が誇るもう一人の残念なイケメンだ。
昨年度、一緒にこの小学校に赴任してきた佐藤先生は、甘いマスクがかわいい子犬系男子だ。
佐藤先生は先月、自身より五歳も若い二十四歳の中山先生と付き合い始めた。中山先生ってね、ホントにいい子でかわいいの! 肩まで伸ばした髪も良く似合っている。私なんて癖が強すぎていつも髪はショートカットだ……。彼女は教師の仕事にも真剣に取り組んでいるのが見ていてわかるし私も大好きな先生だ。
二人はとってもお似合いのカップルだ。ただ、付き合っているのに未だに佐藤先生は毎日中山先生を口説いては断られている。そのしつこさがもとで佐藤先生は残念なイケメンと言われているんだけど……いいなぁ、私も口説かれてみたかった。
私は……失恋したのだ。
ずっと、いいなと思っていたのに……気持ちを伝えることなく恋は終わった。
はぁ、はかない恋だったな……。見ているだけの恋だった。
何だか涙が浮かんできたよ。私、本当に好きだったんだもん。
「……結衣?」
ギュッと抱きしめられて思い出したけど、ちょっと吉野先生、離して下さい!
私はユイではありませんよ! 原です。原伊織です!
「……しの先生、吉野先生!」
私は思っていたよりも厚みのある胸を両手で押してみるけどびくともしない。
何だか泣けてきた。なんで休みの日にこんなところで天敵の吉野先生と床に寝っ転がっているんだろう。この人、私が好きな佐藤先生じゃない。
「……ふっ……う……」
私は声を押し殺して泣いた。佐藤先生、好きだったのに。もうこの恋心とはさよならしなければいけないんだ。
「……泣くなよ……」
吉野先生が寝言ながらも慰めてくれたからついその胸にすがって泣いてしまった。
「すまないっ!」
吉野先生に土下座されている……。
いや、ほんとに男らしい、潔い土下座ですね……こんなの初めて見ました。
「っていやいや吉野先生謝らないで下さい。泣いていたのは、先生のせいじゃありませんので」
吉野先生は目が覚めてからずっと真っ青な顔をしている。いわゆる血の気が引いている状態だ。きっとこの状況に困惑しているに違いない。
だって、私達昨日まで単なる同僚だったのに。ん?……これどういう状況?
「私達何にもありませんよね?」
先生は無言だ。
「え? ちょっと!」
「すまない」
待ってー! 謝らないで! だって昨日は一学期の打ち上げを皆でして、失恋を忘れたくてその席でしこたま飲んだんだよ! 今まであんなに飲んだことはない。毎回座席はくじで決めるんだけど昨夜は吉野先生が隣に座っていたことは覚えている。あ……私、ちょっぴり絡んじゃってたかも知れない。うわー、消したい記憶だ。
「その……昨日は酔っていて記憶がない」
マジで? ラッキー! 助かった。悪酔いした私は吉野先生にもお酒を飲ませまくった気がする。吉野先生、ゴメンナサイ。
それで酔っぱらってしまった吉野先生を介抱するために一緒にタクシーに乗ったんだった。もう、この家に着いた時にはお互いにべろんべろんだった。この部屋でさらに何本かビールを空けちゃってそのまま寝落ちしたんだ。うわー、私最低だ。こんな失態は初めて。
「しかし年頃の女性に介抱させて、おまけに家に帰さないなんて……」
「お気になさらないで下さい。ひ、一人暮らしなので平気です!」
そもそも私のせいだし。自業自得デス。
それにしても自分がこんなにお酒が飲めるなんて知らなかった。私、お酒強かったのね。……あー、それは勘違いみたい。
「よしのせんせ……ぎぼぢ悪い……」
吐きそう! ヤバイ、吐く!
トイレ! トイレはどこですか?
「大丈夫かっ?」
私は吉野先生に付き添われて急いでトイレに向かった。
戻している間中、先生が背中をさすってくれて本当に申し訳なかった……。
窓から差し込む朝日が眩しい。私、昨日カーテン閉めずに寝たっけ?
って、ここはどこ? なんか景色が変だ。私の部屋の窓からは隣のマンションの壁が見えるはずなのに、青い空しか見えない。まるでホテルの高層階に泊まった時のような見晴らしだ。
え? ちょっと待って、見慣れない部屋だ……。随分散らかっている。リビングテーブルの上にはビールの空き缶がいくつも放置されている。
いや、ホントにここはどこなの?
……私は全く知らない家のリビングのカーペットの上で目が覚めた。
「う……ん……結衣……」
「うわっ」
急に横から腕が伸びてきて私は抱きすくめられる。と、隣に男の人が眠っていた!
え? この人……よ、吉野先生だ!
私が勤める小学校には残念なイケメンが二人いる。
彼はそのうちの一人、吉野響先生。私より六歳年上の三十二歳。
吉野先生は私の天敵だ。といっても別に性格が合わないとかそういう事じゃないよ。
私は小学校の事務職員をしているんだけど、この人、とにかく提出書類の期日を守らないのだ! 毎回私がせっついてなんとか事なきを得ているけど、いっつも締め切りぎりぎりで私はやきもきさせられる。
ホントに困ったイケメンなのだ。
顔はね……最高なのよ。切れ長の黒い瞳も、それを縁取る長いまつげもスッと通った鼻筋も見ほれるほどだ。
おまけに背も高くてスタイルは抜群。声が低くて色気がダダもれだ。
ただ、小学生相手じゃ意味がないけどね。
もったいないことにこの人、全然身なりを気にしないの。髪はいつも寝ぐせで跳ねているしシャツも清潔そうではあるけど洗いっぱなしでアイロンをかけていないのが分かる。
今だって彼が着ているシャツはしわしわだ。せめて形態安定シャツだったら良かったのに……。
こんなにかっこいいのに身の回りの世話をしてくれる人を寄せ付けないらしいというのが、吉野先生が残念なイケメンと言われている理由だ。
吉野先生は以前結婚式直前に破談になって、それ以来こんな調子だと噂で聞いた。
素敵な人なんだけどね……。
でも、私の好みのタイプじゃないんだよなぁ。
私は自分がサバサバした性格なので真逆のかわいらしい男性がタイプなのだ。
私がこの一年と少しの間、恋をしていたのは、佐藤俊哉先生。わが校が誇るもう一人の残念なイケメンだ。
昨年度、一緒にこの小学校に赴任してきた佐藤先生は、甘いマスクがかわいい子犬系男子だ。
佐藤先生は先月、自身より五歳も若い二十四歳の中山先生と付き合い始めた。中山先生ってね、ホントにいい子でかわいいの! 肩まで伸ばした髪も良く似合っている。私なんて癖が強すぎていつも髪はショートカットだ……。彼女は教師の仕事にも真剣に取り組んでいるのが見ていてわかるし私も大好きな先生だ。
二人はとってもお似合いのカップルだ。ただ、付き合っているのに未だに佐藤先生は毎日中山先生を口説いては断られている。そのしつこさがもとで佐藤先生は残念なイケメンと言われているんだけど……いいなぁ、私も口説かれてみたかった。
私は……失恋したのだ。
ずっと、いいなと思っていたのに……気持ちを伝えることなく恋は終わった。
はぁ、はかない恋だったな……。見ているだけの恋だった。
何だか涙が浮かんできたよ。私、本当に好きだったんだもん。
「……結衣?」
ギュッと抱きしめられて思い出したけど、ちょっと吉野先生、離して下さい!
私はユイではありませんよ! 原です。原伊織です!
「……しの先生、吉野先生!」
私は思っていたよりも厚みのある胸を両手で押してみるけどびくともしない。
何だか泣けてきた。なんで休みの日にこんなところで天敵の吉野先生と床に寝っ転がっているんだろう。この人、私が好きな佐藤先生じゃない。
「……ふっ……う……」
私は声を押し殺して泣いた。佐藤先生、好きだったのに。もうこの恋心とはさよならしなければいけないんだ。
「……泣くなよ……」
吉野先生が寝言ながらも慰めてくれたからついその胸にすがって泣いてしまった。
「すまないっ!」
吉野先生に土下座されている……。
いや、ほんとに男らしい、潔い土下座ですね……こんなの初めて見ました。
「っていやいや吉野先生謝らないで下さい。泣いていたのは、先生のせいじゃありませんので」
吉野先生は目が覚めてからずっと真っ青な顔をしている。いわゆる血の気が引いている状態だ。きっとこの状況に困惑しているに違いない。
だって、私達昨日まで単なる同僚だったのに。ん?……これどういう状況?
「私達何にもありませんよね?」
先生は無言だ。
「え? ちょっと!」
「すまない」
待ってー! 謝らないで! だって昨日は一学期の打ち上げを皆でして、失恋を忘れたくてその席でしこたま飲んだんだよ! 今まであんなに飲んだことはない。毎回座席はくじで決めるんだけど昨夜は吉野先生が隣に座っていたことは覚えている。あ……私、ちょっぴり絡んじゃってたかも知れない。うわー、消したい記憶だ。
「その……昨日は酔っていて記憶がない」
マジで? ラッキー! 助かった。悪酔いした私は吉野先生にもお酒を飲ませまくった気がする。吉野先生、ゴメンナサイ。
それで酔っぱらってしまった吉野先生を介抱するために一緒にタクシーに乗ったんだった。もう、この家に着いた時にはお互いにべろんべろんだった。この部屋でさらに何本かビールを空けちゃってそのまま寝落ちしたんだ。うわー、私最低だ。こんな失態は初めて。
「しかし年頃の女性に介抱させて、おまけに家に帰さないなんて……」
「お気になさらないで下さい。ひ、一人暮らしなので平気です!」
そもそも私のせいだし。自業自得デス。
それにしても自分がこんなにお酒が飲めるなんて知らなかった。私、お酒強かったのね。……あー、それは勘違いみたい。
「よしのせんせ……ぎぼぢ悪い……」
吐きそう! ヤバイ、吐く!
トイレ! トイレはどこですか?
「大丈夫かっ?」
私は吉野先生に付き添われて急いでトイレに向かった。
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