あまーいマスクの佐藤先生に塩対応!~ちょっと! イケメンが本気出したら私なんか太刀打ちできないって!~

深海 なるる

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2章

7話 ト、トシヤさんの知られざる一面を知ってしまった……。

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 トシヤさんはそれ以上話す気がないようだったので、私も聞かないことにした。
 三十歳で私より断然人生経験が豊富なトシヤさんは、きっと愛美さん以外にも付き合ってきた相手がいるだろうと思う。
……でも、詳しく知りたいとは思わない。
 正直、トシヤさんってかなり整った顔をしているから絶対モテてきたと思うんだよね。
 愛美さんもゴージャスな美人だし。
 私、過去の女性に、はりあう勇気はないよ……。
 ちいちゃんの偽りの婚約者さんが、学生時代に愛美さんが浮気した相手だったっていうのは、かなりの衝撃だけど……。
 大丈夫かな? ちいちゃん……。

「これから……どうしますか?」
 駐車場に向かいながらトシヤさんに問いかける。
 チェックアウトが十二時まで大丈夫だったから朝から温泉につかったりしていたら、すっかり陽が高くなってしまった……。
「うーん、そうだね……なんだか疲れたし、天気も良くないから……のんびり帰ろうか……」
「そうですね」
 確かに、疲れている。昨日からいろいろあったっていうのもあるけど、温泉って調子に乗って入り過ぎると疲れちゃうよね。
 ううう、堪能たんのうしすぎた……!
 私達は道中、昼食を食べたり、高速のパーキングでお土産を買ったりしながらゆっくりと福岡に向かった。
  
「ん? あれ? これ私の家とは方角が違うような……?」
 気が付いたら車は福岡の都心に戻ってきている。
 でも……。
「うん、今夜の宿に向かってるから」
 トシヤさんは正面を見据えたままニッと笑った。
 今夜の宿……?
 どこに泊まるって言うんだろう?

「はい、到着! はぁー、遠かった……」
「お疲れさまでした……ところで、ここは……?」
 マンションの駐車場……?
「ここ、僕の家。まだ、招待してなかったな、と思って……というかここに誰かを招くのは葵ちゃんが初めてだよ」
「ト、トシヤさん……!」
 なんと、『今夜の宿』はトシヤさんの家だった!
 だから、二泊分用意しておいてって言ってたんだ。
 これまで、週末に私の家で過ごすことはあったけどトシヤさんの家に来るのは初めてだ。
 う、嬉しい……!
 どんなホテルに泊まるよりも嬉しいかも?

「とりあえず、コーヒーの用意をするから適当にそこらへん見てていいよ」
 トシヤさんがそう言ってくれたから、私は家の中を何となく見て回った。
 初めて訪れたトシヤさんちは大人の男性らしくなんとも殺風景な部屋だった。
「スッキリした部屋ですねぇ」
「そうだね……引っ越しのたびに不用品を処分してたから……」
 私なんて、物が多すぎて広めの部屋を借りる羽目になったのにえらい違いだ。
 それにしてもこの部屋、ホントに良く、片付けられている。
 置かれているのは生活に必要なものばかりで何かが飾られているわけでもない。
 趣味の物とか……置いてないのかな?
 リビングに置かれた大型テレビだけが存在を主張していた。
 そういえば、トシヤさんは自宅でゆっくり映画を見るのが好きだって言っていたっけ……。
 間取りはリビングと洋室の1LDKで洋室はベッドルームにしている様だ。
 
 ベッドのサイドテーブルにはデジタルフォトフレームが置かれていた。
 トシヤさんが以前写真たてが欲しいと言っていたので私がこの間の誕生日にプレゼントしたものだ。
 きっと、スライドショー機能をオンにしているんだろう。
 先日の修学旅行中に撮った写真なのかな?
 長崎の教会や平和公園の風景写真がいくつか表示された後、ふいにその写真が現れた。
「ちょ、ちょっとトシヤさん!」
 こ、これ……私のコ、コスプレ写真だぁっ!
 トシヤさんの誕生日でもあるハロウィンに、懇願されて泣く泣く撮影を許した私の黒猫のコスプレ写真がスクリーンに映し出されている。
 改めて見ると……めちゃくちゃスカート短いじゃん!
 は、恥ずかしすぎる!
 しかも、この写真だけじゃなく……。
「あ、見られちゃった……?」
 トシヤさんがベッドルームにやってきて「しまった!」という表情を見せる。
「ト、トシヤさんっ! これ、盗撮ですよ!」
 デジタルフォトフレームに映し出されたのは……私の、ね、寝顔ぉぉぉおおお!?
 私が無防備に自宅の布団で熟睡している写真が、続く続く。
 どんだけ撮ってるんだ、この人。
「ゴメン、スヤスヤ眠る葵ちゃんがかわいくって、つい……」
 えへへって笑う顔がイタズラが見つかっちゃった子供みたいでとってもかわいいけど……。
「もうっ、こんなの全部消してくださいっ!!」
 私が怒って手を伸ばすより先にトシヤさんはフレームを掴むと両手でギュッと握りしめた。
「いくら、葵ちゃんでもこれはダメ! これは、僕の宝物なんだから……この写真に毎日どれだけ癒されているか……僕の元気の素なんだよ」
 う……ん……。
 しかし、私に隠れて撮影するなんて……!
 でも、私からのプレゼントをそんなに大切にしてくれているのなら……。
 うー、でもやっぱり恥ずかしい。
「とにかく、絶対に誰にも見せないで下さいね、いいですね!」
「大丈夫だよ、寝室には葵ちゃん以外絶対にれない!」
 キリッとした顔で言い切られると……。
 それなら……まあ、許すか……。
「僕のお宝写真……やっとここまで集めたのに……」
 トシヤさんがぶつぶつ呟いていたのは聞こえないふりをすることにした。
 まさか、トシヤさんが私の寝顔コレクターだったとは……。
 これ以上コレクションを勝手に増やされない様に気を付けよう……。
 って、どうしたらいいか分からないけど。

 リビングでトシヤさんが淹れてくれたコーヒーを飲みながら一息ついた。
 夕飯にはまだ少し早い。
「うーん、僕も葵ちゃんちみたいにソファーを置こうかな?」
 この部屋は毛足の短いラグにリビングテーブルとテレビ台とチェストという超シンプルなインテリアだ。
「一人だから基本、食事も仕事も全部このテーブルで済ませちゃうんだよね……」
 なんだか普段のトシヤさんの生活を垣間見れた気がして嬉しい。
 職員室の机がいつも整頓されているから、綺麗好きだろうとは思っていたけれど、思っていた以上にきちんとした生活を送っているようで驚いた。
「一人暮らし、長いからね……あ、もしかして惚れ直してくれた?」
 トシヤさんがニヤニヤしだしたので、
「まさか」
 と私は答える。
 時折、塩対応をするのはお決まりのコミュニケーションだ。
「あ、そういえば、昨夜も撮ってないでしょうね? 私の寝顔!」
「え!?」
 この、慌てよう……。
 声が裏返ってますけど……。
 横目でジトっと睨む。
 撮ったな……。
「あ、あのね、葵ちゃんの寝顔のいいところはね、ああ、僕にこんなに無防備な姿を見せてくれて嬉しいなぁって見ているこっちが幸せになれるところなんだ」
 トシヤさんはそう力説した。
 そ、そんなに熱く寝顔を語られても困る……。
「寝顔を撮りたいと思うのは葵ちゃんだけだからね、それは分かってね」
 トシヤさんの迫力に気圧けおされて私はコクコクとうなずいた。

 ト、トシヤさんの知られざる一面を知ってしまった……。
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