あまーいマスクの佐藤先生に塩対応!~ちょっと! イケメンが本気出したら私なんか太刀打ちできないって!~

深海 なるる

文字の大きさ
上 下
22 / 27
2章

3話 そう、こんな事考えたくないけど、その方がいいのかも知れない

しおりを挟む
 小浜温泉から車で二十分ほど山道を登って今回の旅の目的地である雲仙地獄に着いた。
 よーし、ついに地獄にやって来たぞ!
 地獄に誘われた時、変な想像をしちゃって笑われたことを思い出す。
 今、考えたら顔から火を噴くほど恥ずかしい……。
 私、ホントに知らないことが多いんだよね……。

 初めての雲仙地獄はアップダウンはあるものの遊歩道が綺麗に整備されていて歩きやすい。
「なんだか……幻想的ですね……」
「そうだね」
 荒々しい山肌のそこかしこからガスが噴き出し、黙々とあがる白煙と大地の熱がここが火山だという事を思い出させる。
 普段目にすることのないむき出しの地球の活動を目の当たりにしてちょっぴり恐ろしくもあった。
 今日はとにかくいい天気で澄んだ青空に立ち上る白い蒸気が良く映える。
「綺麗……」
「ここはね、キリシタン殉教の舞台でもあるんだ」
「こんなに素敵なところなのにそんな歴史が……」
 トシヤさんはホントに物知りだ。
 さすが、小学校の先生。
 今日だって、私が退屈しない様にきっと色々調べて来てくれたんだろうな。
 子供が出来たらいろんなところに子供を連れ出して沢山の事を教えてくれるいいお父さんになりそう……。
 私たちはゆっくりとお糸地獄、大叫喚地獄などを見て回った。

 その後、トシヤさんは仁田峠に連れて行ってくれた。ロープウェイで妙見山頂まで行けるんだけど海抜1300mの高さのゴンドラからの景色は絶景だ。
「あそこに見えているのが平成新山だよ」
 雲仙普賢岳の噴火活動によって出来た平成新山も間近に見ることができた。
 今日は三連休の初日という事もあってどの観光地も家族連れでにぎわっている。
 
「葵ちゃん、ちょっと、疲れちゃったかな?」
 温泉街のホテルに向かう車の中でトシヤさんに声をかけられるまで私は無言だった。
「あ、ごめんなさい……少し考え事をしていました……」
「そう……もうすぐ着くからね」
 せっかく旅行に連れて来て貰ったのに申し訳ないな。
 そう思うけど私、ホントに疲れてしまったみたいだ。
「しばらく目を閉じていてもいいですか」
「いいよ」
 それからホテルに着くまでの数分私はただ瞳を伏せていた。

 さすがに冬休みの初日とあってホテルのロビーも大勢の観光客がひしめいていた。
「うわ、すごい人だね……今日ホテル満室だって」
 思っていた以上に綺麗なロビーで驚いた。
 なんでもこのホテル、親会社が変わって改装後、十月に営業再開したばかりらしい。
「良く予約取れましたね」
「ああ、それはね」
「葵ちゃん!」
 フロントに向かって歩いていたらふいに名前を呼ばれて振り返る。
 あれ? あの女の人……。 
「……ちいちゃん? ちいちゃん!」
「うわぁぁああ! 葵ちゃぁぁあん!! 久しぶりー! 会いたかったよー」
 ロビーのソファに座っていたちいちゃんが立ち上がって駆けて来たので、私も駆け寄ってその小柄な体を抱きしめた。
「ちいちゃん! え? どうしてこんなところに?」
「えへへ……サプライズ?」
 なんと、このホテルを予約してくれていたのはちいちゃんだった!

 ちいちゃん、ちいちゃん! 会いたかったよ!

「え? 葵ちゃん、どうしちゃったの? そんなに驚かせちゃった?」
 ちいちゃんの顔を見たとたんに何だか涙が浮かんできてボロボロ泣いてしまった。
 ちいちゃん、助けてよ。
 頭の中がぐるぐるして苦しいよ。

「チェックインしてきたよ……って葵ちゃん! なんで泣いてるの!?」
 トシヤさんがびっくりしておろおろしていたけど私は何も言えなかった。
「と、とりあえず部屋に入ろうか? ね、ちいちゃんも一緒に」
 私はただ頷いてトシヤさんの後に続いた。
「僕達の部屋は四階だって、あ、ちいちゃんは何階?」
「私たちは二階だよ、キッズパークの近くだった。多分蓮を連れて来ているからじゃないかな?」
 蓮君……。蓮君も来てるんだ。蓮君、会いたいな。大きくなっただろうな。
「葵ちゃん、蓮は今お昼寝中だからね、後で連れてくるからね」
 ちいちゃんが幼い子供を諭すように優しく言ってくれたから私はコクンと頷いた。
 張りつめていたものがここにきて切れちゃったみたい。
 なんだか体が重くって疲れが一気に押し寄せてきた。

 私、どうしちゃったんだろう?

 部屋は、ベッドが二つと八畳の和室がある和洋室でとても素敵だった。窓の外には池が見える。
「葵ちゃん、座ろっか?」
「うん」
 ちいちゃんに促されて和室に座った。
「えっと……お茶でも淹れようか?」
「お茶は私が淹れるので……とりあえず俊哉さんは温泉にでもつかってきてください」
「え? ちいちゃん、そんな……」
「ほら、早く行ってください」
「じゃ、じゃあ、お先に温泉に行ってくるよ」
 ちいちゃんに追い立てられてトシヤさんは温泉に出掛けて行った。
 夕食まではまだ時間がある。
「さ、葵ちゃん、話、聞くよ。……この間は葵ちゃんが私の話を聞いてくれたよね。何でも話して。トシヤさんにいじめられちゃった?」
 ちいちゃんは手際よくお茶の用意をしながら私の顔をのぞき込んだ。
「ちいちゃん……私……」
「うん」
 私、私ね……。
 今日、気が付いたんだけど。
 また、涙が勝手にあふれてきた。
 私はしゃくりあげながらもなんとか言葉にしようとする。
「わ、わたし……」
「うん」
「ど、どうしよう、ちいちゃん……わ、わたしっ、……うっ……ヒッ……クッ、ト、トシヤさんと別れた方がいいのかも知れないっ」
「は? はぁぁあああ!? わ、別れるって、葵ちゃんと俊哉さんが?」
 ちいちゃんは目を真ん丸に見開いた。

 そう、こんな事考えたくないけど、その方がいいのかも知れない。
 ホントに、ホントにイヤだけど。
 そうした方がいい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

寒い夜だから、夫の腕に閉じ込められました

絹乃
恋愛
学生なのに結婚したわたしは、夫と同じベッドで眠っています。でも、キスすらもちゃんとしたことがないんです。ほんとはわたし、キスされたいんです。でも言えるはずがありません。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

マルヤマ百貨店へようこそ。

松丹子
恋愛
就職後10年目の研修後は、久々の同期会。 楽しく過ごしたその夜に、思いつきで関係を持った那岐山晴麻と広瀬成海。 つかず離れずな関係は、その夜を機に少しずつ変わっていく…… 我が道を行くオトコマエ女子と一途な王子系男子のお仕事ラブコメ? です。 *拙作『素直になれない眠り姫』『トキメキの押し売りは困ります!~イケメン外商とアラフォーOLの年末年始~』と舞台を同じくしておりますが、それぞれ独立してお楽しみいただけます。

顔も知らない旦那さま

ゆうゆう
恋愛
領地で大災害が起きて没落寸前まで追い込まれた伯爵家は一人娘の私を大金持ちの商人に嫁がせる事で存続をはかった。 しかし、嫁いで2年旦那の顔さえ見たことがない 私の結婚相手は一体どんな人?

処理中です...