21 / 27
2章
2話 人生、先の事なんて分からないものだよね、ホント……
しおりを挟む
「葵ちゃーん、まだー?」
玄関からトシヤさんが呼ぶ声が聞こえる。マンションの近くのコインパーキングに車をとめてわざわざ迎えにきてくれたのだ。
「ちょ、ちょっと待ってくださいね、トシヤさん」
今日は十二月二十二日、土曜日。三連休の初日だ。昨日終業式を終えて小学校は冬休みに入った。
私はあわててメイク道具を旅行鞄に詰め込む。旅行の準備は事前にしていたんだけどこれだけは当日の朝にも使うんだよね……。
「カバン、車まで運んであげる」
トシヤさんが部屋にあがってきてボストンバッグを持ってくれた。
「ありがとうございます」
「なんか……荷物多くない?」
「…………」
たしかに、ちょっと張り切りすぎたかも?
だってトシヤさんとの初めての旅行だよ? かわいい格好したいし少しでも髪型がきまるようにってお気に入りのドライヤーまで詰めてしまった。ホテルにあるのは分かっているんだけどね……。気にしだしたら止まらなくなってどんどん荷物が増えてしまったのだ。おまけに旅行は一泊だと思っていたら『とりあえず二泊分用意しておいて』って言われてしまうし……。それに。
「私、浴衣で寝られないからパジャマも必要なんです。浴衣で寝ると絶対に着崩れるんですよね。……寝相が悪いのかなぁ? 朝起きたらちゃんとしているのは帯だけで浴衣はぐちゃぐちゃになっちゃって……」
「ふーん……葵ちゃんの寝相が悪いなんて思ったことはないけどね。でも……そもそも今夜はパジャマ、いらないんじゃない?」
「!? ト、トトト、トシヤさん! あ、朝からそういう発言は慎んでくださいっ!」
セ、セクハラ発言だ! こんな爽やかな朝九時に笑顔でする話じゃない。
「はははっ、ごめんね。ちょっと浮かれちゃって……さ、行こう」
悪びれもせずに私の手を握って歩きだしたトシヤさんは、見た目は若くてもやっぱり大人だ。夏休みに初めてデートした時は真っ赤になっていたくせに! 最近は特に大人の余裕を感じる。
……悔しいっ!
そんなトシヤさんがかっこよくっていまだに一緒にいてドキドキしちゃう自分がいる。……こんな風に思うのは私だけなのかな?
「うー、トシヤさんめ……」
この旅行中にドキッとさせてやる!
私はひそかな野望を抱いて車の助手席に乗り込んだ。
トシヤさんの愛車は赤のSUVだ。それもけっこう大きめの。すごくかっこいい。だけど……。
初めて見た時はトシヤさんの柔らかな見た目とのギャップに正直、驚いた。本人曰く車が欲しくてふらりと見に行ったら営業さんにこの車を強く勧められてつい決めちゃったんだって……。車高が高いから運転しやすくて気に入ってるらしいけど……。トシヤさん、押しに弱すぎる……。
そんなトシヤさんの運転はいつも穏やかだ。車は都市高に乗って南下し太宰府インターで高速に乗り継ぐと鳥栖ジャンクションで九州道から長崎道に進路を変え諫早インターを目指した。途中パーキングで小休憩をとりつつ二時間半ほどかけて小浜に到着した。
「運転お疲れさまでした」
「うん……さすがに島原は遠いね」
車を降りたトシヤさんは大きく伸びをして深呼吸をした。
「しかし……いい景色だねぇ」
目の前には青い空と青い海が広がっている。冬の海とは思えない程の鮮やかな青だ。
「今日は十二月にしては暖かいし、最高の旅行日和だね」
「そうですね……気温18度まで上がるらしいですよ」
「え? それは凄いな」
なんてことを話しながら、私たちは早速足湯に向かった。足湯のそばの湯釜からはもくもくと白い蒸気があがっている。漂う硫黄の匂いが温泉地に来たことを感じさせた。
「うわぁ、いい! 早くつかりましょう! トシヤさん!」
小さな運河のような長い足湯からは湯気がたっていて私はつい駆け足になる。助手席に座っていただけなのに長時間のドライブでちょっぴり疲れていたからこのタイミングでの足湯はかなり嬉しい。
靴と靴下を脱いでレギンスを膝までまくり上げると早速足を湯につけた。足湯につかりやすいように今日は丈が短めのパンツにレギンスをあわせてみた。スキニージーンズやタイツはNGだよね……。
「はぁぁぁぁぁあああ、気持ちいいぃぃぃぃ」
海を見ながらのんびり足湯につかるなんて、贅沢な休日だなぁ……。隣には大好きなトシヤさんがいて……私、ホントに幸せだ……。
私はそっとトシヤさんの手を握った。トシヤさんは私を見下ろすとニコッと笑って手を握り返してくれる。
「しばらくつかったら籠を借りて湯釜で卵とお芋を蒸そう」
「温泉卵、楽しみです!」
その後、湯釜で蒸した卵は黄身がしっとりとして凄く美味しかった! もちろんサツマイモもね!
足湯の効果は抜群で体が芯から温まって、足がとっても軽くなった。
「さあ、葵ちゃん。次はいよいよ、雲仙の地獄めぐりに行くよ!」
こうやって私たちの島原旅行はスタートしたんだけど……まさか、この日の夜『トシヤさんと別れた方がいいのかも?』なんて真剣に悩むはめになるとはこの時は思ってもいなかった。
人生、先の事なんて分からないものだよね、ホント……。
玄関からトシヤさんが呼ぶ声が聞こえる。マンションの近くのコインパーキングに車をとめてわざわざ迎えにきてくれたのだ。
「ちょ、ちょっと待ってくださいね、トシヤさん」
今日は十二月二十二日、土曜日。三連休の初日だ。昨日終業式を終えて小学校は冬休みに入った。
私はあわててメイク道具を旅行鞄に詰め込む。旅行の準備は事前にしていたんだけどこれだけは当日の朝にも使うんだよね……。
「カバン、車まで運んであげる」
トシヤさんが部屋にあがってきてボストンバッグを持ってくれた。
「ありがとうございます」
「なんか……荷物多くない?」
「…………」
たしかに、ちょっと張り切りすぎたかも?
だってトシヤさんとの初めての旅行だよ? かわいい格好したいし少しでも髪型がきまるようにってお気に入りのドライヤーまで詰めてしまった。ホテルにあるのは分かっているんだけどね……。気にしだしたら止まらなくなってどんどん荷物が増えてしまったのだ。おまけに旅行は一泊だと思っていたら『とりあえず二泊分用意しておいて』って言われてしまうし……。それに。
「私、浴衣で寝られないからパジャマも必要なんです。浴衣で寝ると絶対に着崩れるんですよね。……寝相が悪いのかなぁ? 朝起きたらちゃんとしているのは帯だけで浴衣はぐちゃぐちゃになっちゃって……」
「ふーん……葵ちゃんの寝相が悪いなんて思ったことはないけどね。でも……そもそも今夜はパジャマ、いらないんじゃない?」
「!? ト、トトト、トシヤさん! あ、朝からそういう発言は慎んでくださいっ!」
セ、セクハラ発言だ! こんな爽やかな朝九時に笑顔でする話じゃない。
「はははっ、ごめんね。ちょっと浮かれちゃって……さ、行こう」
悪びれもせずに私の手を握って歩きだしたトシヤさんは、見た目は若くてもやっぱり大人だ。夏休みに初めてデートした時は真っ赤になっていたくせに! 最近は特に大人の余裕を感じる。
……悔しいっ!
そんなトシヤさんがかっこよくっていまだに一緒にいてドキドキしちゃう自分がいる。……こんな風に思うのは私だけなのかな?
「うー、トシヤさんめ……」
この旅行中にドキッとさせてやる!
私はひそかな野望を抱いて車の助手席に乗り込んだ。
トシヤさんの愛車は赤のSUVだ。それもけっこう大きめの。すごくかっこいい。だけど……。
初めて見た時はトシヤさんの柔らかな見た目とのギャップに正直、驚いた。本人曰く車が欲しくてふらりと見に行ったら営業さんにこの車を強く勧められてつい決めちゃったんだって……。車高が高いから運転しやすくて気に入ってるらしいけど……。トシヤさん、押しに弱すぎる……。
そんなトシヤさんの運転はいつも穏やかだ。車は都市高に乗って南下し太宰府インターで高速に乗り継ぐと鳥栖ジャンクションで九州道から長崎道に進路を変え諫早インターを目指した。途中パーキングで小休憩をとりつつ二時間半ほどかけて小浜に到着した。
「運転お疲れさまでした」
「うん……さすがに島原は遠いね」
車を降りたトシヤさんは大きく伸びをして深呼吸をした。
「しかし……いい景色だねぇ」
目の前には青い空と青い海が広がっている。冬の海とは思えない程の鮮やかな青だ。
「今日は十二月にしては暖かいし、最高の旅行日和だね」
「そうですね……気温18度まで上がるらしいですよ」
「え? それは凄いな」
なんてことを話しながら、私たちは早速足湯に向かった。足湯のそばの湯釜からはもくもくと白い蒸気があがっている。漂う硫黄の匂いが温泉地に来たことを感じさせた。
「うわぁ、いい! 早くつかりましょう! トシヤさん!」
小さな運河のような長い足湯からは湯気がたっていて私はつい駆け足になる。助手席に座っていただけなのに長時間のドライブでちょっぴり疲れていたからこのタイミングでの足湯はかなり嬉しい。
靴と靴下を脱いでレギンスを膝までまくり上げると早速足を湯につけた。足湯につかりやすいように今日は丈が短めのパンツにレギンスをあわせてみた。スキニージーンズやタイツはNGだよね……。
「はぁぁぁぁぁあああ、気持ちいいぃぃぃぃ」
海を見ながらのんびり足湯につかるなんて、贅沢な休日だなぁ……。隣には大好きなトシヤさんがいて……私、ホントに幸せだ……。
私はそっとトシヤさんの手を握った。トシヤさんは私を見下ろすとニコッと笑って手を握り返してくれる。
「しばらくつかったら籠を借りて湯釜で卵とお芋を蒸そう」
「温泉卵、楽しみです!」
その後、湯釜で蒸した卵は黄身がしっとりとして凄く美味しかった! もちろんサツマイモもね!
足湯の効果は抜群で体が芯から温まって、足がとっても軽くなった。
「さあ、葵ちゃん。次はいよいよ、雲仙の地獄めぐりに行くよ!」
こうやって私たちの島原旅行はスタートしたんだけど……まさか、この日の夜『トシヤさんと別れた方がいいのかも?』なんて真剣に悩むはめになるとはこの時は思ってもいなかった。
人生、先の事なんて分からないものだよね、ホント……。
0
お気に入りに追加
190
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

寒い夜だから、夫の腕に閉じ込められました
絹乃
恋愛
学生なのに結婚したわたしは、夫と同じベッドで眠っています。でも、キスすらもちゃんとしたことがないんです。ほんとはわたし、キスされたいんです。でも言えるはずがありません。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
マルヤマ百貨店へようこそ。
松丹子
恋愛
就職後10年目の研修後は、久々の同期会。
楽しく過ごしたその夜に、思いつきで関係を持った那岐山晴麻と広瀬成海。
つかず離れずな関係は、その夜を機に少しずつ変わっていく……
我が道を行くオトコマエ女子と一途な王子系男子のお仕事ラブコメ? です。
*拙作『素直になれない眠り姫』『トキメキの押し売りは困ります!~イケメン外商とアラフォーOLの年末年始~』と舞台を同じくしておりますが、それぞれ独立してお楽しみいただけます。

顔も知らない旦那さま
ゆうゆう
恋愛
領地で大災害が起きて没落寸前まで追い込まれた伯爵家は一人娘の私を大金持ちの商人に嫁がせる事で存続をはかった。
しかし、嫁いで2年旦那の顔さえ見たことがない
私の結婚相手は一体どんな人?
敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!
桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。
※※※※※※※※※※※※※
魔族 vs 人間。
冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。
名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。
人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。
そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。
※※※※※※※※※※※※※
短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。
お付き合い頂けたら嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる