あまーいマスクの佐藤先生に塩対応!~ちょっと! イケメンが本気出したら私なんか太刀打ちできないって!~

深海 なるる

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2章

2話 人生、先の事なんて分からないものだよね、ホント……

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「葵ちゃーん、まだー?」
 玄関からトシヤさんが呼ぶ声が聞こえる。マンションの近くのコインパーキングに車をとめてわざわざ迎えにきてくれたのだ。
「ちょ、ちょっと待ってくださいね、トシヤさん」
 今日は十二月二十二日、土曜日。三連休の初日だ。昨日終業式を終えて小学校は冬休みに入った。
 私はあわててメイク道具を旅行鞄に詰め込む。旅行の準備は事前にしていたんだけどこれだけは当日の朝にも使うんだよね……。
「カバン、車まで運んであげる」
 トシヤさんが部屋にあがってきてボストンバッグを持ってくれた。
「ありがとうございます」
「なんか……荷物多くない?」
「…………」
 たしかに、ちょっと張り切りすぎたかも?
 だってトシヤさんとの初めての旅行だよ? かわいい格好したいし少しでも髪型がきまるようにってお気に入りのドライヤーまで詰めてしまった。ホテルにあるのは分かっているんだけどね……。気にしだしたら止まらなくなってどんどん荷物が増えてしまったのだ。おまけに旅行は一泊だと思っていたら『とりあえず二泊分用意しておいて』って言われてしまうし……。それに。
「私、浴衣で寝られないからパジャマも必要なんです。浴衣で寝ると絶対に着崩れるんですよね。……寝相が悪いのかなぁ? 朝起きたらちゃんとしているのは帯だけで浴衣はぐちゃぐちゃになっちゃって……」
「ふーん……葵ちゃんの寝相が悪いなんて思ったことはないけどね。でも……そもそも今夜はパジャマ、いらないんじゃない?」
「!? ト、トトト、トシヤさん! あ、朝からそういう発言は慎んでくださいっ!」
 セ、セクハラ発言だ! こんな爽やかな朝九時に笑顔でする話じゃない。
「はははっ、ごめんね。ちょっと浮かれちゃって……さ、行こう」
 悪びれもせずに私の手を握って歩きだしたトシヤさんは、見た目は若くてもやっぱり大人だ。夏休みに初めてデートした時は真っ赤になっていたくせに! 最近は特に大人の余裕を感じる。
……悔しいっ!
 そんなトシヤさんがかっこよくっていまだに一緒にいてドキドキしちゃう自分がいる。……こんな風に思うのは私だけなのかな?
「うー、トシヤさんめ……」
 この旅行中にドキッとさせてやる!
 私はひそかな野望を抱いて車の助手席に乗り込んだ。
 
 トシヤさんの愛車は赤のSUVだ。それもけっこう大きめの。すごくかっこいい。だけど……。
 初めて見た時はトシヤさんの柔らかな見た目とのギャップに正直、驚いた。本人曰く車が欲しくてふらりと見に行ったら営業さんにこの車を強く勧められてつい決めちゃったんだって……。車高が高いから運転しやすくて気に入ってるらしいけど……。トシヤさん、押しに弱すぎる……。

 そんなトシヤさんの運転はいつも穏やかだ。車は都市高に乗って南下し太宰府インターで高速に乗り継ぐと鳥栖とすジャンクションで九州道から長崎道に進路を変え諫早いさはやインターを目指した。途中パーキングで小休憩をとりつつ二時間半ほどかけて小浜に到着した。
「運転お疲れさまでした」
「うん……さすがに島原は遠いね」
 車を降りたトシヤさんは大きく伸びをして深呼吸をした。
「しかし……いい景色だねぇ」
 目の前には青い空と青い海が広がっている。冬の海とは思えない程の鮮やかな青だ。
「今日は十二月にしては暖かいし、最高の旅行日和だね」
「そうですね……気温18度まで上がるらしいですよ」
「え? それは凄いな」
 なんてことを話しながら、私たちは早速足湯に向かった。足湯のそばの湯釜からはもくもくと白い蒸気があがっている。漂う硫黄の匂いが温泉地に来たことを感じさせた。
「うわぁ、いい! 早くつかりましょう! トシヤさん!」
 小さな運河のような長い足湯からは湯気がたっていて私はつい駆け足になる。助手席に座っていただけなのに長時間のドライブでちょっぴり疲れていたからこのタイミングでの足湯はかなり嬉しい。
 靴と靴下を脱いでレギンスを膝までまくり上げると早速足を湯につけた。足湯につかりやすいように今日は丈が短めのパンツにレギンスをあわせてみた。スキニージーンズやタイツはNGだよね……。
「はぁぁぁぁぁあああ、気持ちいいぃぃぃぃ」
 海を見ながらのんびり足湯につかるなんて、贅沢な休日だなぁ……。隣には大好きなトシヤさんがいて……私、ホントに幸せだ……。
 私はそっとトシヤさんの手を握った。トシヤさんは私を見下ろすとニコッと笑って手を握り返してくれる。
「しばらくつかったら籠を借りて湯釜で卵とお芋を蒸そう」
「温泉卵、楽しみです!」
 その後、湯釜で蒸した卵は黄身がしっとりとして凄く美味しかった! もちろんサツマイモもね!
 足湯の効果は抜群で体が芯から温まって、足がとっても軽くなった。
「さあ、葵ちゃん。次はいよいよ、雲仙の地獄めぐりに行くよ!」

 こうやって私たちの島原旅行はスタートしたんだけど……まさか、この日の夜『トシヤさんと別れた方がいいのかも?』なんて真剣に悩むはめになるとはこの時は思ってもいなかった。

 人生、先の事なんて分からないものだよね、ホント……。
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