あまーいマスクの佐藤先生に塩対応!~ちょっと! イケメンが本気出したら私なんか太刀打ちできないって!~

深海 なるる

文字の大きさ
上 下
20 / 27
2章

1話 ち、ちょっといくら何でも私の目の前で服を脱ぐのはやめて下さい

しおりを挟む
「ね、葵ちゃん、一緒に地獄に行かない?」
 は? ジゴク……? じ、地獄って……生前悪事を働いた人が死後に落とされるという、あの……地獄?
 な、なんでそんなところに?
 十一月のある休日、私の家で夕食を食べた後、キッチンで食器を洗っていたら背後からトシヤさんが唐突にこんな事を言い出したもんだから私は驚いて振り返った。
「そ、それはあれデスカ? どこまでも二人でちてゆこう的な……? そういう刹那的せつなてきな、なんかデショウカ?」
「は?……おっと危ない!」
 トシヤさんは私の真横に立って私の手から滑り落ちそうになっていたお皿を受け止めた。
 地獄に行こうって……。
「いや、だから……あの、愛の逃避行的な……?」
 私、全然気が付かなかったけど、トシヤさんは何かとんでもない問題を抱えているんだろうか?
「んんっ! ちょっと、トシヤさんっ、泡が付きますよ!」
 ふいにトシヤさんにギュッと抱きしめられて私は泡だらけの手で抱き返すわけにもいかず両手を宙に浮かす。
「だって……葵ちゃんがかわいすぎてムリ……」
「トシヤさん……?」
 私を抱きしめる手がかすかに震えている。
「ぷっ、くくく……ふっははははっ、あ、愛の逃避行って……」
 って、笑ってるじゃん! ちょっとどういうこと? なんで笑ってるの? 私、結構心配しているのに。
「あのね葵ちゃん、地獄って『地獄めぐり』だよ」
 トシヤさんが腕の力を少し緩めてくれたので私は顔を上げた。
 トシヤさんの瞳にはうっすらと涙がにじんでいる。
 もうっ、笑い過ぎだよ! そんなに笑わなくてもいいじゃん。
「『地獄めぐり』って……大分の別府ですか?」
「ううん、雲仙うんぜん。十二月の三連休に長崎の島原しまばら半島に旅行に行きたいなと思って」
「島原半島……私、初めてです! 行く、行きますよ! 地獄でもどこへでも!」
「じゃあ、決まりだね」
 トシヤさんがかわいい顔でにっこりと笑ったので私も微笑み返した。
 じゃ、食器洗いの続きをするか、と思うけど……トシヤさんはまだ私を離してくれない。
 少しかがんで私の顔をのぞき込むと耳元でささやいた。
「……ねえ、もし僕が一緒に地獄に堕ちてって言ったらどうするつもりだったの?」
「んっ」
 耳元にかかる吐息がくすぐったい。
 おまけに何だか声が色っぽい気がするのは気のせい?
「ねえ、葵ちゃん、一緒に堕ちてくれるの?」
「そ、そんなこと……できませんよ。だって私にはクラスの子供達もいるし、無責任に全てを投げ出すことはできないから……。で、でもトシヤさんのことも手放しませんよ。何か問題があるのなら私も一緒に考えますから。地獄に堕ちなくていい方法を……」
「そう来たか……葵ちゃんらしいね。やっぱり君は凄い子だよ……葵ちゃんのそういうところが、好きだよ……」
「ち、ちょっとトシヤさんっ!」
 トシヤさんの唇がスッと落とされて私はドキドキする。
 付き合い始めてからしばらくたつけど私はいまだにこの距離に慣れない。
「あ!……ゴメンナサイ」
 突然のキスにおどろいてトシヤさんの胸をギュッと押し返してしまった。手……泡だらけだったのに。トシヤさんのカットソーの胸元はびしょぬれだ。
「いいよ、ちょうどお風呂に入ろうと思っていたし」
 トシヤさんはさっと上着を脱いでお風呂場に向かう。
 ち、ちょっといくら何でも私の目の前で服を脱ぐのはやめて下さい。
 心臓に悪い。
 わざと?……わざとやってるよね?
 私が赤くなっていると、
「あ、葵ちゃんも一緒に入る?」
 トシヤさんはニヤニヤしながら振り返った。
「は、入りません!」

 トシヤさんがお風呂に入っている間に急いで食器を片付けるとコーヒーを二杯淹れてソファーに腰かけた。
 スマホで島原半島の観光スポットを検索する。
 行ってみたいところがたくさんある。なかでも……。
「うわぁー、ここいいなぁ」
「え? どこ?」
 お風呂からあがって部屋着に着替えたトシヤさんが隣に座って私の手元をのぞき込んだ。
 ち、近いよ……。
「ああ、足湯だね。うん、ここいいよね」
 なんでも橘湾たちばなわんの海岸沿いに105mもの『日本一長い足湯』があるらしい。赤いレンガが整然と敷き詰められている様子が素敵だ。おまけに、自分で野菜を蒸すことが出来る湯釜もあるんだって。
「ここ、小浜おばまらしいんですけど……行けますか?」
 いまいち土地勘のない私は地図アプリを立ち上げた。
「うん、雲仙に行く途中に寄れるよ……卵とかサツマイモとか持って行って蒸してもいいね」
「はいっ!」
 うーん、楽しみ! 温泉の蒸気で蒸した卵やお芋なんて絶対美味しいに決まっている!
「他には……? どこに行きたい?」
「そうですね、あとは……」
 私たちはこの日遅くまで旅行の計画を練った。

 トシヤさんと行く初めての旅行……。
 うっふっふ。
 休み明け、給食中に思い出し笑いをしているところを目撃されてしまってクラスの児童に気持ち悪がられてしまった……。
 反省。
 でもね、先生だって冬休みが楽しみなんだ。
 まあ、冬休みっていったって先生の仕事はこよみ通りだけど、それでも今年は終業式が終われば三連休が待っている!
 うっふっふ。
 はっ! またニヤついてしまった……。
「先生、ご機嫌だね……」
 子供たちがひそひそ話しているのが聞こえてきて私は表情を引き締めた……。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

寒い夜だから、夫の腕に閉じ込められました

絹乃
恋愛
学生なのに結婚したわたしは、夫と同じベッドで眠っています。でも、キスすらもちゃんとしたことがないんです。ほんとはわたし、キスされたいんです。でも言えるはずがありません。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

マルヤマ百貨店へようこそ。

松丹子
恋愛
就職後10年目の研修後は、久々の同期会。 楽しく過ごしたその夜に、思いつきで関係を持った那岐山晴麻と広瀬成海。 つかず離れずな関係は、その夜を機に少しずつ変わっていく…… 我が道を行くオトコマエ女子と一途な王子系男子のお仕事ラブコメ? です。 *拙作『素直になれない眠り姫』『トキメキの押し売りは困ります!~イケメン外商とアラフォーOLの年末年始~』と舞台を同じくしておりますが、それぞれ独立してお楽しみいただけます。

顔も知らない旦那さま

ゆうゆう
恋愛
領地で大災害が起きて没落寸前まで追い込まれた伯爵家は一人娘の私を大金持ちの商人に嫁がせる事で存続をはかった。 しかし、嫁いで2年旦那の顔さえ見たことがない 私の結婚相手は一体どんな人?

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...