あまーいマスクの佐藤先生に塩対応!~ちょっと! イケメンが本気出したら私なんか太刀打ちできないって!~

深海 なるる

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1章

番外編 私は今夜ハロウィンの醍醐味を知ってしまった

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「え? ハロウィンパーティ?」
 トシヤさんが振り返りながら聞き返した。
「そうデス! 良かったらハロウィンの夜は私の家に寄って貰えませんか?」
 十月中旬のある日の放課後、職員室前の廊下でトシヤさんに会えたので、私は緊張を隠してトシヤさんをパーティに誘う。
「そ、それは構わないけど……というか、いつだって誘って貰えれば僕は嬉しいけど、葵ちゃんはいいの?」
「え?」
「だって、その日って平日でしょ? 普段は平日の夜に家に寄るのは嫌がるのに……」
 まずい、なんだか警戒されている……?
「な、なにを言ってるんですか? トシヤさん! ハロウィンですよ! 年に一度のお祭りですよ! こんな日に パーティをしなくていつするんですか?」
 私は早口でまくし立てる。
「え? そ、そんなに葵ちゃんがハロウィンに情熱を持っていたなんて知らなかったよ……分かったよ、じゃあ三十一日の夜は葵ちゃんちにお邪魔するよ」
「や、約束ですよ、トシヤさん! 他の用事は絶対に入れないで下さいね」
「う、うん、約束するよ……」
 トシヤさんは首をひねりながらも私の誘いにのってくれた。

 よしっ! 計画の第一関門は突破した!
 実は、ハロウィンパーティなんて今までやったことは一度もない。
 だって、私が子供の頃はこんなにメジャーなイベントじゃなかったんだよね。
 今じゃすっかり日本の年中行事の仲間入りを果たしたハロウィン。
 でも……私が情熱を持っているって?
 それはトシヤさんの誤解だ。
 ハロウィンに対して興味はほとんどない。
 でも、今年から、十月三十一日は私にとって特別な日になったんだ。

 絶対にこの計画を成功させないと!

 ハロウィン当日、私は定時で帰らせてもらって急いでパーティの準備に取り掛かった。
 とはいえ、仕事から帰って手の込んだ料理を作る気力はないので、スーパーでお惣菜を購入しピザを注文するという超手抜きのパーティメニューだ。
 さいわいトシヤさんはグルメじゃないので何を食卓に並べても文句を言われたことがなくて助かっている。
 やっぱり、最高の恋人だ……。

 リビングテーブルにお皿に盛った料理を並べ終わったらトシヤさんが来る前にお着替えだ。
 今日は、ハロウィンだからね。
 仮装しておかないと怪しまれてしまうだろう……。
 私はネットで注文していた衣装に着替えた……んだけど。
 なんだこれ? なんかお尻がスース―するゾ……。

 ピンポーン
「は、はーい」
 玄関のドアを開けるとトシヤさんは固まってしまった。
「あ、葵ちゃんそのかっこうは……?」
 や、やっぱり変だろうか?
 かわいいと思って注文してみたんだけど……。
「こ、これ、黒猫らしいんですけど……やっぱり、変ですかね?」
 私はスカートのすそを両手で押さえた。
 今、私が着ているのはハロウィンの定番の『魔女』がというなんとも微妙なコスチュームだ。
 黒のミニ丈のワンピースに猫耳のカチューシャ、そして猫の肉球がデザインされたもこもこの手袋とハイソックス。ワンピースにはふわふわした長いしっぽが生えている。
 絶対領域がかわいくって、ネットで見た時には、これだ! って思ったんだけどなー。
 トシヤさん、犬より猫派って言っていたし……。
「いや! 葵ちゃん、全然変じゃないよ! かわいいよ! 葵ちゃんかわいすぎるよ!」
 トシヤさんが私の事をギュッと抱きしめて褒めてくれたので、私はとりあえずホッとした。

「はい、これはトシヤさんの衣装です」
 私は用意しておいた紙袋をトシヤさんに渡した。
「え? 僕も着替えるの?」
「もちろん!」
 黒いパンツに白いサテンのフリルシャツ。赤いベストには金ボタンの飾りがついている。
「あとは、これを羽織ってくださいね」
 黒いベロアのマントを肩にかければ仮装は完了だ。
 トシヤさんは恐ろしくイケメンの吸血鬼に変身した。
「ど、どう? 変じゃない?」

 はぁぁぁぁぁ、かっこいいぃぃぃぃ!

 似合い過ぎだよ、トシヤさん!
 いつも以上にかっこいいよ。
 私は今夜ハロウィンの醍醐味だいごみを知ってしまった。
 年に一度、堂々とコスプレが出来る日なんだね。
 ハロウィンって。

 トシヤさん! こんなかっこいい姿、反則だよ……。

「じゃあ、とりあえずいただきますをしましょうか?」
 私たちはラグの上に並んで座った。
 ん? トシヤさん 近いです。
「へー、しっぽまでついてるの? この衣装凝ってるねー」
 トシヤさんは私のワンピースから生えるしっぽをなでながら言った。
 しっぽを後ろに引っ張るとスカートの前がめくれるので困る。
 こら! ふ、太ももが見えちゃうでしょ!
「しっぽを触るのは禁止ですよ!」
「えー、そうなの? 残念……ねえ、せっかく猫なんだからニャアって鳴いてくれないの?」
 トシヤさんは私の耳元でささやいた。
「ね、猫に仮装したからって、鳴きませんよ! じゃあヴァンパイアはどんなことをするんです?」
「それはもちろん……」
 トシヤさんは私の腰を抱いてグッと引き寄せると私の首をぺろりとなめた。
 んっ、ちょっと! トシヤさん……。
 しまった。私、ヴァンパイアの衣装を選んだ時点で積んでいるんじゃ……?

「ちょ、ちょっと待ってくださいね、今日は大事なイベントが……」
 私は慌ててトシヤさんの腕の中から逃れると冷蔵庫に向かった。
 食事の後でと思っていたけどそんな猶予はなさそうだ。

「え? これ……?」
「そう! バースデーケーキです!」
 私は用意しておいたケーキにろうそくを立ててテーブルに運んだ。
「トシヤさん! お誕生日おめでとうございます!」

 実は、今日十月三十一日はトシヤさんの誕生日なのだ!
 ふっふっふっ、事務の原先生にトシヤさんの誕生日をこっそり教えて貰っていたのだ!
 個人情報だけど恋人だしサプライズの為なんです! と泣きついたんだ……。
「トシヤさん、とうとう三十歳ですね」
「う、それは言わないで……ただでさえ年の差を感じているのに……」
 トシヤさんは胸を抑えてうなだれた。
 こんな仕草がかわいらしい。大丈夫ですよ、とても三十代には見えませんから。
「トシヤさん、三十代の目標は?」
「ん? それはもちろん、葵ちゃんと幸せになること、かな?」

 そ、そんなことを真顔で言って貰えるんなら毎年お誕生日をお祝いしたい!

「さあ、どうぞ火を消してください」
「ありがとう、葵ちゃん」
 トシヤさんは一息で炎を吹き消した。

「じゃあ、もう『いただきます』していい? お腹がすいちゃった」
「ん?いいですよ。たくさん召し上がってくださいね」
 トシヤさんは両手を合わせるとお行儀よく『いただきます』と呟いた。

 えっと、これはどういうことでしょう?
 トシヤさんは私をラグに押し倒すと首筋に軽くかみついた。
「ト、トシヤさん! 夕食は?」
「ヴァンパイアの夕食はこっちでしょ?」
 ん、もうっ、私の血は美味しくありませんよ!
「誕生日がハロウィンなんて、なんのメリットもないと思っていたけど、こんなにいいものだったとは思わなかったよ……」

 結果的には完全に作戦ミスだったけどトシヤさんが喜んでくれたんならまあ、いいか。
 ただ来年は、ヴァンパイアの衣装だけは絶対にやめよう……。
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