あまーいマスクの佐藤先生に塩対応!~ちょっと! イケメンが本気出したら私なんか太刀打ちできないって!~

深海 なるる

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1章

16話 私、火をつけてしまったみたいだ

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「トシヤさん、私……怖いんです。私はトシヤさんが思ってくれているような人間じゃない。本当の私を知られたらトシヤさんに嫌われるかも知れない」
 こんなに素敵な人に嫌われたくない。でも、トシヤさんだって昨日私に弱い心をさらけ出してくれた。……だから、私も怖くても伝えないと。
「……私、本当は自己中心的な人間なんです。……これまでだって自分の事に精一杯で、人を思いやる余裕がなくて周りの人をたくさん傷つけてきました……」
 どうしよう、泣かずに話したいのに涙がこぼれてしまう。こんな時に泣くのは卑怯だ。泣きたくないのに、止められない。想いがあふれて、涙が止まらない。
「……わ、私、いい人なんかじゃないっ」
 ああ、怖くてたまらない。トシヤさんは何も言わずに聞いてくれたけど、こんなに弱くてダメな私をどう思うだろうか?……嫌われても仕方がない? 誰だってこんな人嫌だよね……。
 涙が次から次に湧いて来て私は手の甲で拭った。
 トシヤさんは何も言わずに立ち上がった。驚いて目で追っているとボックスティッシュを手に戻って来た。
「葵ちゃん」
 優しい手つきで涙を拭いて私の顔をのぞき込んだ。
「葵ちゃん、君はいい子だよ」
 私は無言で頭を左右に振る。
 いい子じゃないよ……。
 トシヤさんは両手でそっと私の頬を包んだ。
「君はいい子だよ。……人は成長するんだ。いつまでも同じじゃない、沢山失敗しながら学ぶんだよ。……それは君も良く知っているはずでしょ?」
 トシヤさんの声が私の心に優しく響いた。
「僕たちは沢山失敗したかもしれない。でも、その経験が今につながっている。僕は昨日それを君に教えて貰ったんだよ。……僕を呪縛から解き放ってくれたのは葵ちゃん、君だ。今度は僕が君に言うよ」
 トシヤさんはそう言って私の耳元で囁いた。
「君は、いい子だ。君はちいちゃんや、僕を救ってくれた。君はもう相手の気持ちを思いやれる。人を大事に出来る大人に成長したんだよ」
 トシヤさんの言葉に、涙が止まらない。昨夜、愛美さんの苦しみを知って私は自分がどれだけひどい人間だったのか思い知らされた。自分がしたことを分かっていなかった。そんな自分の愚かさが怖くて仕方がなかった。私の事を愛してくれたのに傷つけてしまった人達の事を思うと全然眠れなかった。
 だから、今のトシヤさんの言葉にどれだけ私が救われたか……。
 こんな私でも少しは成長できたのかな? ちいちゃんやトシヤさんの役には立てたのかな……?
「葵ちゃんだってちゃんと学んでる、だから大丈夫。僕たち、もう失敗しない様にがんばろう? ね、絶対に寂しい思いはさせないよ。毎日、愛を囁くよ」
「トシヤさん……」
「好きだよ、葵ちゃん……お願い、僕とつきあって、いつも近くにいさせてよ」
 トシヤさんの顔が真っ赤に染まっている。ダメだよトシヤさん。それは反則だよ。トシヤさんの緊張がますます伝わってきちゃって私も心臓が飛び出しそうだ。
 もう塩対応なんて出来っこない。こんなに誠実で純粋でかわいい大人を他に知らない。
 私、私も……。
「……私も……好き……トシヤさんが好き……」
 私の告白にトシヤさんは、ホッとしたのか大きく息を吐くとギュッと抱きしめてくれた。
 トシヤさん……。
 お互いの鼓動が早い。
 どうしよう、私達の想いは今一つになった。その相手と今抱き合っている。
「葵ちゃん」
 頭のすぐ上で優しく名前を呼ばれる。
 顔をあげるとトシヤさんの整った顔がすぐそばにあった。
 恥ずかしくて見ていられない。
 うつむこうとしたらそっと顎の下に手が添えられた。
「葵ちゃん、逃げないで……」
 少しかすれた声で耳元で囁かれる。
 逃げたくても逃げられない。
「トシヤさ……ん……」
 頬に軽く口づけを落とされて、私は瞳を閉じた。
 トシヤさんはついばむように私の頬にキスの雨を降らせる。そして優しくまぶたに唇が触れたのが分かった。
「もう、泣かないで」
 チュッと音を立てて目じりにキスをしてくれる。
 そっと目をあけてトシヤさんを見つめると熱を帯びた瞳で見つめ返してくる。
「トシヤさん、大好き……」
 私は勇気を出してすぐそばにある形のいい唇にほんの少し、触れるだけの口づけをした。
 これが悪かったのかな?
「葵ちゃん……もう離さないよ」
 首の後ろに手をまわされて引き寄せられると素早く唇を重ねられた。
「ん……ふ……トシ、ヤ……さ、ん」
 私、火をつけてしまったみたいだ。
 トシヤさんの胸を手で押して離れようとしてもびくともしない。この人、やっぱり男の人だったのね。かわいい顔をしていても私ではかなわない。
 長いキスに満足したのかトシヤさんの唇が離れた瞬間に私は言った。
「ん、ちょっ……もう、ダメー!」
 私は、ぜーはーと肩で息をしながら叫ぶ。
「もうっ、今夜も帰ってくださいー!」
 私は三度みたび、彼を家から追い出した。
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